02
学校が終わると、澪と一緒に電車に乗って例の火事の前まで俺らの家があった場所に向かった。
悠 「…やっぱ、別の家が建ってる。」
澪 「…」
悠 「帰るぞ…って、澪?」
側に居たはずの澪は居なくなっていて探し回っていると、あの頃、隣に住んでいたおばさんがこちらを見ていた。
おばさん 「…悠君?」
悠 「えっ、あ、はい。お久しぶりです。」
おばさん 「久しぶりね。澪ちゃんの名前を呼んでいたから悠君かなって。澪ちゃんも一緒なの?」
悠 「あっ…あいつ、勝手に帰っちゃって。」
おばさん 「そっか…前の家、見に来たの?」
悠 「ま、まぁ。」
おばさん 「…悠君にこんなこと言って良いのか分からないのだけれど…あれ、本当に自殺だったのかしらね。」
悠 「えっ?」
おばさん 「…あの火事の前、私、悠君たちのお母さんと話したのよ。そのときにね、二週間後かな、それくらいに澪ちゃんの誕生日だからってケーキを作る練習をしているって言ってたの。そんな楽しみを持っている人が自殺なんてするかしら…」
悠 「…たしかに、あの日から二週間後は妹の誕生日でしたけど…」
おばさん 「警察にもその話はしたんだけど、颯爽と自殺だと断定して捜査を打ち切っちゃったのよね。職務怠慢だと思うわ…」
悠 「…あの、ほかにも何か知ってますか?何でも良いんです。」
おばさん 「ほかに?そうね…あの頃、気になっていたのは…あとは、野菜配達のお兄さんかしら。」
悠 「野菜配達?」
おばさん 「えぇ。あの頃、急にこの辺に野菜配達をするトラックが停まることが多くなって、私の家にも何度も停まって迷惑していたの。悠君たちの家の前にも停まっていることが多かったわね。」
悠 「…そうなんですか。ありがとうございます。」
おばさん 「…いいえ。また遊びに来て。澪ちゃんも一緒に。」
悠 「は、はい…」
おばさんが行くと、俺は新しい家を見ながら、あの火事のことを思い出していた。
悠 「…」
澪 「何か分かった?」
澪は俺の目の前に急に現れて迫った。
悠 「…どこ行ってたんだよ。」
澪 「ごめん。ちょっとね。」
悠 「…帰ったら話すから。もう帰るぞ。」
澪 「うん。」
家に帰る前に澪に連れられて俺はスーパーに寄った。
澪 「何食べたい?」
悠 「…何でも良いよ。」
澪 「良くない。育ち盛りなんだからね?ちゃんと食べなきゃ駄目。」
悠 「…んじゃ、カレー。」
澪 「じゃあ、野菜から。」
澪に言われたものを全て買って家に帰ると俺はすぐに横になった。
澪 「こら!食べ物、冷蔵庫に入れる!」
悠 「…分かったよ。」
冷蔵庫に材料を入れて、俺はまたベッドに横になった。
澪 「カレー、作んないの?」
悠 「今日は疲れた。また明日。」
澪 「全くもう…」
妹は俺のベッドに座って俺の机の上を見た。
澪 「…何これ。高校のパンフレット?」
澪は、机の上の教材の下にあった冊子を見ていた。
悠 「あっ…勝手に見んなよ。」
俺は、ベッドから起き上がってパンフレットをゴミ箱に捨てた。
澪 「捨てちゃうの?」
悠 「…俺が高校受験したときに見てたやつだから。もう要らないの。」
澪 「そうなんだ。で、今日は何が分かったの?」
悠 「あぁ…隣に住んでたおばさんに聞いたんだけど…」
俺は、今日聞いたことを澪に話した。
澪 「やっぱり。自殺じゃなさそうでしょ?」
悠 「…だけど、証言は澪のものと合わせてもまだ二つだ。でも、その野菜配達は気になるよな。」
澪 「そうだね。そんなトラック覚えてないけど。」
悠 「俺も。でも、小学二年生と四歳よりも当時の大人の記憶力の方が信頼性はある。」
澪 「たしかに。そうだ、お兄ちゃん、ノートとかないの?」
悠 「ノート?」
澪 「捜査日記。」
悠 「…勘弁しろよ。高校生にもなって日記かよ。」
澪 「良いじゃん。記録に残そうよ。」
悠 「記録ね…」
妹と何かしたことなんてあったのかな…これまで何かしてやれたっけ…
俺は仕方なく、綺麗なノートを取り出して机の上に出した。
そして、表紙に太いペンで“澪との捜査日記”と書いた。
澪 「何で自分の名前、書かないの。」
悠 「お前のために作ってんだから。俺の名前は要らないの。」
澪 「私のためなら書いてよ。悠と澪との捜査日記って。」
悠 「…たく、注文が多い…」
俺は、澪の上に“↓悠と”と書き足した。
澪 「うん。じゃあ、今日の捜査報告。」
悠 「はいはい。」
日記の一枚目に今日分かったことを書いて日記を閉じた。
次の日、学校の帰りに俺はカフェに向かった。
澪 「ここで何するの?」
悠 「バイト。大人しく待ってろよ。」
俺はいつもどおり、カフェ、ラーメン屋、そして居酒屋のバイトを終わらせて妹と家に帰った。
家に着いてベッドに横になると、すぐに俺は眠ってしまった。
気付けば夜中になっていて、ベッドの側では澪がスヤスヤと眠っていた。
澪を起こさないように俺は風呂に入ってもう一度ベッドに横になった。
目が覚めると目の前に澪の顔があった。
悠 「…何?」
澪 「…朝食、あんなのしか作ってなくてごめん。」
悠 「はぁ?何の話?」
澪 「…卵焼きとかハムとか…簡単なものばっかりだった…」
悠 「え?何、生前の謝罪?」
澪 「…うん。」
悠 「…俺は嬉しかったけど。卵焼きでもハムでもお前が準備してくれることが嬉しかった。」
澪 「っ…でも、あんなにバイト頑張ってたし、授業もいっぱいなのに…あんなんじゃお腹空く…」
悠 「…澪もさ、学校前に朝食作って、学校帰って来て買い物だけでクタクタになるのに夕飯も作ってくれてたんだな。」
澪 「…まぁ、小学生の頃みたいに買い置きのパンや冷凍食品よりかはましかもしれないけど…」
悠 「…俺は好きだったよ。澪の卵焼き。」
澪 「…こないだは残したくせに。」
悠 「あ…あんときは試験前でイライラしてた。ごめん…」
澪 「…試験前なのに、あんなにバイトしてたの?」
悠 「ちょっと足りなかったから。でも、バイトする理由ももう無いし、そろそろ辞めるかな。」
澪 「…そっか。」
悠 「何か、寒気する。澪、お前か?」
澪 「…布団掛けたかったんだけど、できなくて…風邪引いちゃったかも…」
悠 「…ふっ。そう。気にすんなよ。そんなんで風邪なんか引かないから。」
澪と学校に行くと、澪は廊下で急に止まった。
澪 「嘘…」
俺は引き返して澪の後ろから澪が見ていたものを見た。
悠 「あぁ、試験の順位表。」
澪 「な、何で一位なの?勉強しているところなんて見たことないんだけど。」
悠 「そんなに部屋に入ったことも無いのに言うなよ。お前が寝た後にやってたんだろうが。」
澪 「う、嘘でしょ…」
男子 「雨宮。お前、順位表見ながら一人で話してるとかどうしたの?自分の順位に酔っちゃった?」
悠 「…」
俺は無視して教室に行こうとすると、澪はおどおどしながら付いて来た。
澪 「い、良いの?言い返さなくて。」
悠 「あんな奴、ほっとけ。」
教室に着いて授業が開始すると四時間目には俺の一番嫌いな奴の授業が始まった。
先生 「じゃあ、この問題を…雨宮。できるか?」
悠 「…はい。」
先生 「おぉ、習ってなくてもできるのか。さすが、不動の学年一位は違うな。」
悠 「…」
一回の授業でこのやり取りが最低三回ある。
三回目は呆れて返事もせずに問題を解いて席に戻ろうとすると、先生の前に澪が立っていた。
悠 「お、おい…」
澪 「こいつ、むかつく。」
悠 「…」
俺はクラスメイトに怪しまれないように何も言わずに席に戻った。




