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伝わらないこと、伝えたいこと  作者: 仙夏


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01


---二か月前、俺の妹は死んだ


---五か月前。

俺たちが小学生の頃に母親が亡くなり、それから家の食事担当は妹になっていた。

妹は雨宮澪、中学二年生。

俺は雨宮悠、高校二年生。

俺が目を擦りながら部屋を出てリビングのダイニングテーブルに座ると澪は俺の前に朝食を置いた。

澪 「はい、朝食。」

悠 「あぁ。親父は?」

澪 「休日出勤。もうとっくに出掛けたよ。」

悠 「…そう。」

テレビの時計は十一時前。

テレビで流れていたニュースを何も考えずに見ながら、俺は卵焼きを口に入れた。

澪 「…あのさ。」

悠 「っ、何これ。塩と砂糖、間違ってんじゃねぇの?」

卵焼きを皿に戻して俺は立ち上がった。

澪 「っ…聞いてほしい話があるの。」

悠 「俺、出掛けるから。」

澪 「…どこ行くの?」

悠 「バイト。」

バイトに出掛けて家に帰るとリビングで親父が夕飯を食べていて妹は居なかった。

悠 「…澪は?」

父 「体調が悪いそうだ。部屋で寝ている。」

悠 「そう。あんたさ、休日出勤って嘘だろ。」

父 「…何言ってんだ。」

悠 「…家の金も減ってる。あんたが使ってんだろ?」

父 「…それの何が悪い?俺が稼いだ金だ。」

悠 「…俺が稼いだ分は使わせないから。」

父 「ふん。知ったことか。」


母さんが死んでから俺らの生活は一変した。

それまではどこにでもあるような普通の家族だったのに、母さんが死んでから俺らは必要最低限以外の会話はしなくなった。

三人で食卓を囲むなんて夢のまた夢。


部屋に戻って音楽を聴きながらベッドで横になっていると気づけば眠っていて、食器が割れる音で目を覚ました。

リビングに行くと、澪が居て食器の破片を拾っていた。

悠 「…」

俺が澪を退かして破片を拾い始めると親父も起きてきた。

父 「こんな時間に何やってる。お前か?それともお前か?」

親父は強いアルコールの臭いをさせながら、俺と澪を順に指差した。

澪 「…ご」

悠 「俺だよ。」

澪 「っ…」

父 「ちっ、お前か。静かにしろ。このバカ息子。」

親父が部屋に戻ると俺は何も言わずに破片を拾い集めて片付けた。

振り返って澪を見ると食器の破片で手を切っていて指から血が出ていた。

悠 「たく、もう…」

俺は、澪の怪我の消毒をして手当をした。

澪 「…ありがとう。」

悠 「具合悪いんだったら大人しく寝てろよ。後は俺がやっとくから。」


あれから三か月が経ち、高校の授業中に俺は先生に呼ばれ、病院に駆け付けた。

悠 「はぁ、はぁ…親父…」

親父は、手術室の前で椅子に座っていた。

悠 「…」

父 「…飛び降りたそうだ。学校の屋上から。」

悠 「っ、はぁ?」

そのまま妹は帰らぬ人となり、葬式も終わって俺らの生活はもっと酷いものになった。

男二人の生活なんて、本当にすぐ家を汚す。

食べ終わった食器はそのまま、服は脱ぎっぱなし、冷蔵庫の中身はほとんど空っぽ…

俺は空っぽの冷蔵庫を見ながら溜め息が出た。

そして親父は家に帰る頻度も減り、葬式が終わって一か月が経った頃にはほとんど家に帰って来なくなった。


ある日、ベッドで横になりながら天井を見つめていると聞こえるはずのない声が聞こえた。

澪 「あーあ、汚すぎ。」

俺は飛び起きてリビングに行くと、制服姿の澪が部屋を見ていた。

悠 「…澪?」

澪 「洗濯担当はお兄ちゃんでしょ?何回さぼったの?」

悠 「…何で居んの?てか…何で見えんの…?」

澪 「…この世に未練があるから…かな?」

悠 「未練…」

澪 「それよりさ、ちゃんと食べてる?この冷蔵庫の中身じゃ、どうせろくな食事してないんでしょ?」

悠 「…勝手に死んだ奴に言われたくない。」

澪 「っ…」

悠 「…何だよ、未練って。」

澪 「…んー、お母さんのことかな。」

悠 「母さん?だって…自殺だろ?」

俺らは昔、こんなボロアパートじゃなくて一軒家に住んでいた。

ある冬の日、俺が小学校から帰ると家は燃えていて一緒に家に居た妹は助かったものの、母さんはそのまま帰らぬ人になった。

警察は自殺で処理を行い、親父もそれで納得した。

澪 「…自殺じゃないよ。お母さんは殺された。」

悠 「…お前だけなんだぞ?そう言ってたのは。でも、証拠も何もない。結局、娘も巻き込んで死のうとした自殺だって処理されたじゃねぇか。」

澪 「…でも、私は見たから。お母さんじゃなくて男の人が火を点けたの。」

悠 「…当時四歳の話に耳を傾けた大人は居なかったな。」

澪 「…家族でさえ聞いてくれなかった。」

悠 「…それを恨んでんの?」

澪 「恨んでないよ。特にお兄ちゃんは。」

悠 「…小学生だった俺は見逃してくれんの?」

澪 「…お兄ちゃんは優しいから。許してあげる。」

悠 「…ふっ、何だよ、それ。」

澪 「お兄ちゃん。お母さんの事件、謎を解くのを手伝って。」

悠 「…でも、何も残ってないんだぞ?家も全部燃えちゃったし、跡地にも既に別の家が建ってる。」

澪 「…」

悠 「…澪の発言だけじゃどうしようもないんだよ。それに、澪は…」

澪 「…死人に口なし?」

悠 「…まぁ、そういうこと。」

澪 「でも、お兄ちゃんなら生きてるよ。」

悠 「…俺に捜査しろって?」

澪 「駄目?」

悠 「…まぁ、暇だから良いけどさ。でも、保証はできない。母さんが自殺じゃなくて殺されたんだって絶対に証明できるとは約束はできない。」

澪 「うん。分かってる。」


次の日から、俺は澪との共同捜査、そして共同生活を始めた。

高校の授業にも澪は付いて来て、授業中も食事中も俺の隣に座っていた。

授業の合間、窓際のロッカーの上に座って黒板を見ていた澪を見た。

悠 「付いて来てもつまんないだろ?」

澪 「そんなことないよ。」

悠 「授業の内容も分かんないくせに。」

澪 「女子高生ってあんな感じなんだね。」

妹が見た方を見ると女子がずっと騒がしくスマホを見ながら笑い合っていた。

悠 「…あれは一部。あんなのも居るし、ああいうやつも居るの。」

俺は静かに勉強している女子とテキパキと係の仕事をしている女子を指差した。

澪 「…私はどんな女子高生になってたんだろ。」

悠 「…」

男子 「悠さ、さっきから誰と喋ってんの?」

急に友だちに話し掛けられて俺は澪から目を反らした。

悠 「えっ、あー、いや、何でもない。」

男子 「…妹亡くなってから元気なくて心配してたけど、今日はテンション高いみたいで安心したわ。」

悠 「テンションが高い?俺が?」

男子 「何?好きな子でもできた?」

悠 「は、はぁ?も、もううるさい。どっか行って。しっ、しっ。」

澪 「…ふっ、テンション高いんだ。」

悠 「う、うるさいっての!」

澪 「ふふ。」

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