4話:雷の夜ー①
夜。それぞれ自室で眠りにつこうとしていた。
急に、窓の外が閃光で照らされる。続いて、地鳴りのような雷鳴が響いた。
(そういえば……あいつ、雷苦手だったな)
ピクルは思い出し、一瞬迷った後、そっと部屋を出た。
◇
部屋に入ると、ミラは隅で毛布にくるまり、うずくまっていた。
手には、ピクルが作ってくれたぬいぐるみをぎゅっと抱えている。
「大丈夫か?」
「……ぴーちゃん……」
声を聞いた途端、ミラの目から涙が溢れ出した。
小さく震え、思わず胸に飛び込む。
ポロポロと溢れる涙に、ピクルは言葉を失う。
「お前、ここまで雷苦手だっけ……?」
ピクルの顔を見て、ミラはさらに激しく涙を流す。
「ぴーちゃん、どこにも行かないで……」
ミラはピクルにしがみつき、肩を震わせながら嗚咽を漏らした。
その様子はあまりに不安定で――普段のミラからは想像できない。
ピクルは何と言ってやればいいかわからず、ただそっと背中をさすることしかできなかった。
やがて、ミラの呼吸が静かに整い、眠りに落ちる。
ピクルは大きく息を吐き、胸を撫で下ろした。
「まったく……手のかかるやつだな」
小さく苦笑しながら、毛布を直してやる。
安らかな寝顔を見つめているうちに、胸の奥に不思議な温かさが広がった。
「あとはこっちで……大丈夫だろ」
ぬいぐるみのピクルと入れ替わり、静かにベッドから抜け出す。
それでも胸の奥に、ざらつくような感覚が残っていた。
どうしてあんなにミラが取り乱していたのか、わからない
そのまま答えを見つけられぬまま、ピクルは部屋を後にした。
◇
翌朝。
昨晩のミラの様子が気になり、ピクルは自然と足をミラの部屋へ向けていた。
扉を開けた瞬間――
着替え中のミラの背中が見えた。
「わっ!」
ミラは慌てて振り返り、手近な服を掴んで体を隠す。
「わ、わりぃ……!」
ピクルも反射的に扉を閉める。
だが、すぐに違和感が胸を掠めた。
(一緒に風呂入ろうってやつが、着替えくらいで慌てるか……?)
ふと目に入った背中。そこには、見慣れない痕があった気がする。
バン、と扉を開け直す。
ミラはもう服を着終えており、笑顔で言う。
「も〜、レディの部屋に入るときはノックくらいしてよね〜」
軽い調子の言葉に、ピクルは反応を見せず、一歩前に出た。
その視線は、自然とミラの肩口に吸い寄せられる。
服の隙間から、赤く痛々しい痕がわずかに見えた。
ピクルは眉を顰める。
「お前、なんか隠してるだろ? 見せろよ!」
「わっ、やめてってば!」
ピクルは思わず手を伸ばし、手早く服をめくり上げた。
目に入った背中を見て、思わず息を呑む。
そこには大きな火傷の跡――治療はされているものの、まだ赤く腫れ、触れればヒリリと痛む線が背中に走っていた。
「なんだ、これ?」
思わず声が震える。
ミラは慌てて服を引き戻し、平静を装う。
「いや……その、ちょっと練習で失敗しちゃって……」
無理に笑い声を作るが、口元は引き攣り、焦りが滲んでいた。
ピクルは額を押さえ、深く息を吐いた。
「いつだ」
「1週間くらい前かな……?」
「俺が出てくるちょっと前か……」
胸の奥で焦りがうずき、心臓がざわつく。
(あとちょっと早く出て来れてれば、こんなことには……)
思わず自分を責めるように、顔が険しくなる。
ミラは慌てて言葉を重ねた。
「すぐにセレナに治療してもらったから大丈夫! もう痛くないよ!」
ピクルは傷跡を思い出し、低く呟く。
「……あんなでかい火傷、跡、残るんじゃねぇか?」
「あ……そうかもね」
ミラは気まずそうに笑い、視線を逸らした。
「つーか、どんな練習したらこんなことになるんだよ……間抜けすぎんだろ? 大体お前って……」
そこまで言いかけて、ピクルは言葉を止めた。
ミラの目が、今にも泣きそうに揺れていたからだ。
しばらくの沈黙のあと、ピクルは小さく息を吐いて言った。
「……とにかく。もう勝手に一人で練習行くのは禁止な。俺と一緒の時だけにしろ」
「じゃあ、ずっと一緒ってこと!?」
ミラの顔に笑顔が広がった。
「こんなの、危なっかしすぎて放っとけねぇだろ」
「やった〜!」
ミラは子どものように笑い、ピクルもつられて頬を緩める。
――けれど、胸の奥には、昨日のもやもやがまだ消えずに残っていた。




