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4話:雷の夜ー①

 夜。それぞれ自室で眠りにつこうとしていた。

 急に、窓の外が閃光で照らされる。続いて、地鳴りのような雷鳴が響いた。


(そういえば……あいつ、雷苦手だったな)

 ピクルは思い出し、一瞬迷った後、そっと部屋を出た。



 部屋に入ると、ミラは隅で毛布にくるまり、うずくまっていた。

 手には、ピクルが作ってくれたぬいぐるみをぎゅっと抱えている。


「大丈夫か?」


「……ぴーちゃん……」

 声を聞いた途端、ミラの目から涙が溢れ出した。

 小さく震え、思わず胸に飛び込む。


 ポロポロと溢れる涙に、ピクルは言葉を失う。

「お前、ここまで雷苦手だっけ……?」


 ピクルの顔を見て、ミラはさらに激しく涙を流す。

「ぴーちゃん、どこにも行かないで……」


 ミラはピクルにしがみつき、肩を震わせながら嗚咽を漏らした。

 その様子はあまりに不安定で――普段のミラからは想像できない。

 ピクルは何と言ってやればいいかわからず、ただそっと背中をさすることしかできなかった。


 やがて、ミラの呼吸が静かに整い、眠りに落ちる。

 ピクルは大きく息を吐き、胸を撫で下ろした。


「まったく……手のかかるやつだな」

 小さく苦笑しながら、毛布を直してやる。

 安らかな寝顔を見つめているうちに、胸の奥に不思議な温かさが広がった。


「あとはこっちで……大丈夫だろ」

 ぬいぐるみのピクルと入れ替わり、静かにベッドから抜け出す。

 それでも胸の奥に、ざらつくような感覚が残っていた。

 どうしてあんなにミラが取り乱していたのか、わからない

 そのまま答えを見つけられぬまま、ピクルは部屋を後にした。



 翌朝。

 昨晩のミラの様子が気になり、ピクルは自然と足をミラの部屋へ向けていた。

 扉を開けた瞬間――

 着替え中のミラの背中が見えた。


「わっ!」

 ミラは慌てて振り返り、手近な服を掴んで体を隠す。


「わ、わりぃ……!」

 ピクルも反射的に扉を閉める。

 だが、すぐに違和感が胸を掠めた。


(一緒に風呂入ろうってやつが、着替えくらいで慌てるか……?)


 ふと目に入った背中。そこには、見慣れない痕があった気がする。


 バン、と扉を開け直す。

 ミラはもう服を着終えており、笑顔で言う。


「も〜、レディの部屋に入るときはノックくらいしてよね〜」


 軽い調子の言葉に、ピクルは反応を見せず、一歩前に出た。

 その視線は、自然とミラの肩口に吸い寄せられる。

 服の隙間から、赤く痛々しい痕がわずかに見えた。


 ピクルは眉を顰める。

「お前、なんか隠してるだろ? 見せろよ!」


「わっ、やめてってば!」


 ピクルは思わず手を伸ばし、手早く服をめくり上げた。

 目に入った背中を見て、思わず息を呑む。

 そこには大きな火傷の跡――治療はされているものの、まだ赤く腫れ、触れればヒリリと痛む線が背中に走っていた。


「なんだ、これ?」

 思わず声が震える。


 ミラは慌てて服を引き戻し、平静を装う。

「いや……その、ちょっと練習で失敗しちゃって……」

 無理に笑い声を作るが、口元は引き攣り、焦りが滲んでいた。


 ピクルは額を押さえ、深く息を吐いた。

「いつだ」

「1週間くらい前かな……?」


「俺が出てくるちょっと前か……」

 胸の奥で焦りがうずき、心臓がざわつく。


(あとちょっと早く出て来れてれば、こんなことには……)

 思わず自分を責めるように、顔が険しくなる。


 ミラは慌てて言葉を重ねた。

「すぐにセレナに治療してもらったから大丈夫! もう痛くないよ!」


 ピクルは傷跡を思い出し、低く呟く。

「……あんなでかい火傷、跡、残るんじゃねぇか?」


「あ……そうかもね」

 ミラは気まずそうに笑い、視線を逸らした。


「つーか、どんな練習したらこんなことになるんだよ……間抜けすぎんだろ? 大体お前って……」

 そこまで言いかけて、ピクルは言葉を止めた。

 ミラの目が、今にも泣きそうに揺れていたからだ。

 

 しばらくの沈黙のあと、ピクルは小さく息を吐いて言った。

「……とにかく。もう勝手に一人で練習行くのは禁止な。俺と一緒の時だけにしろ」


「じゃあ、ずっと一緒ってこと!?」

 ミラの顔に笑顔が広がった。


「こんなの、危なっかしすぎて放っとけねぇだろ」


「やった〜!」

 ミラは子どものように笑い、ピクルもつられて頬を緩める。


 ――けれど、胸の奥には、昨日のもやもやがまだ消えずに残っていた。

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