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3話:魔法のイメージー①

 日も落ち、静まり返った村。

 ミラとピクルは自宅で、食卓を囲んでいた。

 ピクルはようやく新しい体に慣れてきたのか、少しずつ元の調子を取り戻している。


「だいぶ起きてられる時間、長くなったね」

「あぁ、そうだな」


 ミラはにこにこと笑いながら、ふと思い出したように言った。

「じゃあ、今日はお風呂、一緒に行けそうだね。久しぶりだなぁ……」


 ミラたちの家には簡易キッチンと寝室しかなく、風呂は村の共同浴場を使う決まりだ。

 ここ数日ほとんど寝てばかりのピクルは、自宅で体を拭く程度しかできていなかった。


 幼体の頃の感覚のままなのか、ミラはいつもと変わらぬ調子で話している。

 だが、その言葉にピクルはギョッと固まった。


(こいつ……まだ前と同じノリでいく気か!? 俺をペットか何かと勘違いしてんのか!?)


 文句を言おうとしたそのとき、ミラは何かに気づいたようにピタリと動きを止めた。

 表情にわずかな動揺が走る。


「一緒に入るわけねーだろ! 成体になったら男女別だ!」


「ははっ……そうだよね! じゃ、先に行ってくるね!」

 ミラは慌てて目を逸らし、ぎこちない笑顔のまま家を出て行った。


(自分で言っといて、なんなんだこいつは……?)

 釈然としない気持ちを抱えつつ、ピクルも少し遅れて浴場へ向かった。



 浴場に着くと、ミラはふぅっと息をつき、少し肩の力を抜いた。

 蛇口から流れる温かい水を手に取り、体を洗い始める。


 だが、指先が一瞬止まる。

 何か考えが頭をかすめたが、すぐに振り切るようにして手を動かし、さっと体を洗い終える。


 急いで身支度を整え、自宅に帰ったが、ピクルはすでに自室へ引きこもっていた。

「えー、もう部屋に入っちゃったの〜。もっとおしゃべりしたかったのに」


 明かりはまだついていて、起きているようだ。

「でも入るなって言われてるし……」

 そう呟きながら、ミラもそっと自室へ戻った。



 翌朝。

「ねぇねぇ。昨日、遅くまで起きてたよね? 何してたの?」

 ミラは首をかしげてじっと覗き込む。

 ピクルは目を逸らす。その指には、小さな赤い跡がいくつかあった。


「別に……」

「え、怪我したの?」

「そんなことより、練習行くぞ」

 ピクルは話題を切り替えるように立ち上がった。


「えー。わかったよ~」

 ミラは少し頬を膨らませるが、どこか嬉しそうにピクルの後をついていった。



 ミラとピクルは、森の中で魔法の練習を始めていた。

 木々の間に差し込む光が、練習場を柔らかく照らす。


「いいか、今のお前は蛇口を全開にして、小さなコップに水を注ごうとしてるようなもんだ」

 ピクルは両手を組み、真剣な眼差しでミラを見つめる。

 森の静けさに彼の声がよく響いた。


「水は溢れて外に出てるだけで、コップにはほとんど入ってねぇ。力はあるのに、形にできてない」

 ピクルの指示に、ミラは眉を寄せ、手元をじっと見つめた。


「じゃあ、どうすればいいの?」

 首をかしげ、頭の中で流れを思い浮かべながら問いかける。


「魔法のイメージを作りながら、魔力を少しずつ出す練習が必要だ」


「イメージを作りながら、少しずつ……か。よくわかんないな」

 言いながらも、ミラは手を前にかざして空気を揺らす。

 まだ少し緊張している様子だ。


「性格が雑なのもあるかもな……」

「ひど」

 ミラは頬を膨らませ、すぐにクスッと笑った。


「でも前みたいに全く出ないことはなくなったから、一歩前進だな」


「うん。前に教えてもらったからそれは何となくわかった!」

 ピクルの言葉に、ミラの顔がぱっと明るくなる。


「とりあえず被害が少なそうな、水魔法から試してみるか」

 ピクルは少し離れて構え、手元を観察する。

 ミラの魔法が暴走しないように、防ぎつつ見守る。


「うん、わかった!」

 ミラは笑顔で手を構え、深く息を吸い込む。

 勢いよく手を振った、次の瞬間ーー

 大きな水塊がどんと飛び出し、地面に大きな水たまりを作ってしまった。

 葉の上で水滴が弾け、光を散らす。


「わっ、やりすぎた……!」

 驚きの声を上げ、慌てて手を振る。


「力を全部一度に出すんじゃなくて、小さな塊に分けるイメージをしてみろ。

 手の動きに合わせて、ひとつずつ出すんだ」

 ピクルは少し前に踏み出し、動きの手本を示すように空気を揺らした。


「やっぱり、よくわかんないな……」

 ミラは困ったように顔をしかめる。


「イメージが大事なんだよな……なんかいい例えは……」

 ピクルは腕を組んで考え込み――


「あ、そうだ。泥団子! お前、昔やたら作ってただろ? ああいう感じだ」


「なるほど! わかった! それでやってみる!」


 ミラは深呼吸し、意識を集中させる。

 すると、透明な水の球がぽん、と手のひらから生まれた。

 それをもう一つ、もう一つ――小さく分けて生み出していく。


「おぉ。やるじゃねーか」

「今でもたまに作ってるからね! 分かりやすい!」

「十五だろ……流石にもうやめとけよ……」

 ピクルは呆れつつも、口元はほころんでいた。


 しかし、一つ一つは安定していたが、複数同時に扱うと途端に揺らぎ始める。

 手元で水球が跳ねるたび、ミラの胸はドキリと高鳴った。


「焦るな。別にゆっくり慣れていけばいい」

 ピクルは少し笑いながら、穏やかな声で言った。

「次は、それで花一輪ずつに水をやってみろ。無理に一気に動かすなよ」


 ミラは頷き、水球を花に向けて送り出す。

 最初は外れ、地面を濡らしたが、やがて花びらに水が滴り、狙った花を潤せるようになっていく。


「わぁ……ちゃんと動かせるようになってきた! もっといけるかも!」


 その声に、ピクルは目を細める。

(……やっぱりこいつ、導いてやればちゃんと伸びるんだよな)


 だが次の瞬間、ミラの集中が切れた。

「あれ……なんかだんだん疲れてきたかも……」


 ふとイメージが緩んだ拍子に、頭上に巨大な雲のような水塊が出現する。


「わーー!!」


 ピクルは即座に魔法を展開し、光の壁で水を受け止めた。

 水滴が散り、太陽の光を浴びて小さな虹を描く。


「危なく洪水になるところだった……」

 額に汗を浮かべるピクル。


「へへへ。ごめーん」

「お前の魔力、ほんとに桁違いだな……まぁ、失敗しても俺が受け止めるから安心しろ」


 その言葉にミラの表情がふっと和らぐ。

 胸の奥が温かくなり、力が湧いてくるのを感じた。


「焦らず少しずつ形にすれば、絶対に扱えるようになるから」


「うん! ありがとう! 頑張るよ!」

 ミラは力強く頷いた。自分の魔法を操れる日が来る

 ――そう思えるだけで、胸の奥に小さな自信の芽が灯った。



 練習後、自宅に戻ると、ピクルがおもむろに何かを差し出した。


「これやるよ」


 ピクルの手にあったのは、幼体時代の自分を模したぬいぐるみだった。

 一緒に寝られず寂しがるミラのために、どうやら自分で作ったらしい。


 ……が、よく見ると縫い目は曲がっているし、羽の長さも左右で違う。

 ふわふわというより、ところどころ綿が寄っていて、なんともいびつだ。


「わっ……ぷぷっ。ちょっと変な顔してる!」

 ミラは思わず吹き出した。


「悪かったな! 細けぇ作業は苦手なんだよ」

 むっとするピクルに、ミラはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。


「でも……かわいい。あの時のぴーちゃんみたい」

 じっとぬいぐるみを見つめ、そっと頭を撫でる。

 以前の幼体のピクルにそうしていたように。

 ピクルは黙って、その様子を見ていた。

 

「俺じゃなくても、なんかあればいいだろ? これからはこっちと寝ろよ」


「ありがとう……」

 ミラはぬいぐるみを見つめて微笑む。


「でも……」

 小さくつぶやく声。けれどその先は言えず、すぐに顔を上げる。


「なんだ?」


「うううん、なんでもない。早速一緒に寝よ〜!」

 ミラは嬉しそうに抱き抱え、自室へ駆け込んだ。


「なんだ、あいつ?」

 ピクルは首をかしげながら、ミラの部屋の扉を見つめる。


 ――その夜。

 ミラはベッドの上で、ぬいぐるみのピクルを胸に抱いていた。

 

「ふふ。かわいいなぁ〜」

 仰向けになり、両手でぬいぐるみを持ち上げて見つめる。

 いびつで不格好だけど、どこかあの頃のぴーちゃんにそっくりで、胸が温かくなる。

 ピクルの優しさが詰まっている気がして、ぎゅっと抱きしめた。


 ーーでも

(……なんか違うなぁ……)

 ぬいぐるみには、あの時のあたたかさも安心感もない。


(やっぱり、ぬいぐるみじゃなくて……本物のぴーちゃんと寝たかったな……)

 嬉しいはずなのに、どこか寂しさが胸に残る。

 それでもミラは、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたまま、静かに目を閉じた。

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