2話:落ちこぼれ魔法使いー③
「そろそろ家に帰ろっか」
「あぁ……」
ミラが声をかけるが、ピクルの反応は鈍い。
ふと顔を見ると、少し青ざめていた。
「ぴーちゃん!? 大丈夫!?」
「大丈夫。まだこの体の調子が掴めてねぇだけだ」
「そうだったんだ……ごめん……」
(ぴーちゃんが無理してたの、気づけなかった……羽化したばかりなのに……)
ミラはぐっと拳を握り、勢いよく顔を上げた。
「よし! ぴーちゃんはそのまま寝てて! 私が魔法で家まで送ってあげる!」
「お、おい、そんなのお前には無理だろ?」
「大丈夫! さっきなんとなく掴めたから!」
ミラが手をひらりと振ると、柔らかな光がピクルを包み込み――
次の瞬間、ピクルの体がふわりと宙に浮かんだ。
「……おい、すごいな。ほんとに浮いた……」
ピクルが驚いて目を丸くする間もなく、ミラは嬉々として叫んだ。
「よしっ、このまま家まで――ひとっ飛び〜っ!」
光が一気に加速する。
風が唸りを上げ、景色が瞬く間に流れ去った。
「やめろ!! 速っ! 速すぎる!! 死ぬ!!」
「わ、わ、わーっ!? ごめんごめん!!」
練習場を一周したところで、ようやく光が止まる。
ピクルは青ざめた顔で地面に降り立ち、ふらつきながらも息を整えた。
「マジでやめろ……心臓止まるかと思った……」
「えへへ、ごめーん」
「少し休めば歩けるくらいには回復するから。普通に歩いて帰るぞ」
「はーい」
◇
魔法の練習の帰り道。
村の子どもたちは、ピクルの姿を物珍しそうに見つめていた。
村にいるほとんどは子供。しかも大きくても十五歳ほどだ。
普段見かけない“大人の男”が歩いていれば、気になるのも無理はない。
ピクルは、じろじろと向けられる視線に気づき、鋭い目で睨み返した。
その一瞥に、噂話をしていた子どもたちは一瞬で青ざめ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「チラチラ見やがって……むかつく」
ピクルは軽く舌打ちしながら、足を速める。
「まぁまぁ。もうちょっと笑った方がいいよ〜。笑顔笑顔」
ミラが苦笑混じりに宥めるが、ピクルはそっぽを向いたままだ。
ふと、その視線が止まる。
道の先――木立の向こうに、焼け焦げた小屋が見えた。
壁は黒く炭化し、屋根の一部は崩れ落ちている。
風が吹くたびに、灰がふわりと舞い上がった。
「……火事か? ここって何の小屋だっけ」
ピクルの問いに、ミラの表情が一瞬だけ強張る。
けれどすぐにいつもの笑顔で答える。
「たぶん、前から壊れてたんだよ〜」
ピクルは首を傾げながらも、それ以上はも言わず、ミラの隣を歩き出した。
夕暮れの風が二人の間をすり抜けていく。
焦げた匂いだけが、どこかにまだ残っていた。




