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2話:落ちこぼれ魔法使いー②

 ミラは一人で森に立っていた。

 そこは森の中でもひらけた場所で、村の子どもたちの魔法練習場として使われていた。


 両手を前に出し、ぐっと力を込める。

 掌の奥で、魔力がうずく――熱く、暴れるような感覚。


 息を整え、ひらりと手を振る。

 小さな光の粒がポンと生まれた。


 けれど次の瞬間、バチッと弾けるように散って、跡形もなく消えてしまう。

 魔力が、暴れて逃げ出していくみたいで――どうしても形にならない。


「また失敗……」

 ミラは大きくため息をつき、へたり込む。


 どれだけ頑張って力を込めても、何も生み出せない。


(やっぱり、私……才能ないのかなぁ……)


 周りの子たちが軽々と魔法を放つ姿が頭をよぎる。

 自分はずっと“落ちこぼれ”だと思ってきた。


(普通より魔力が弱いんだろうなぁ。

 ぴーちゃんが羽化するまでも、すごく時間がかかってたし……)


 落ち込む胸の奥に、幼体の頃のピクルの姿がふと浮かぶ。

 魔法の練習のたび、いつもそばにいてくれた。


(やっぱり、一人だと頑張れないな……

 前はぴーちゃんが一緒だったから、できる気がしてたのに)


 どれだけ失敗しても、諦めずにいられたのはピクルがそばにいてくれたから。

 今はその気配がないだけで、心の支えがなくなった気がする。


(いくら頑張っても無駄かのかも。元の魔力がなければ、何にもならないもん……)


 そのとき、脳裏に浮かんだ光景――

 落ち込んだミラの涙を、小さな小鳥のピクルが、嘴でそっとつついて慰めてくれた。

 それだけで、不思議と心が落ち着いた。

 言葉はなくても、気持ちが通じていると信じていた。


(……今は、成体になって言葉を話せるのに。あの時の安心感がどこにもない……)


 「一人で寝ろ」「ガキすぎる」――


 ピクルの言葉が胸に突き刺さる。


(今までだって、話せなかったから、自分の都合のいいように思ってただけなのかも……)

 ミラの目に涙が滲む。


 せっかく羽化できたのにーー

(私、また幼体の姿に戻ってほしいなんて……思っちゃってる……)


 ミラは、胸の奥の罪悪感を吐き出すように、もう一度深く息をついた。



 その時ーー

 がさり、と物音がして顔をあげるとそこにピクルが立っていた。


「ぴーちゃん! 来てくれたんだ!」

 ミラの顔がぱっと明るくなる。

 さっきまで涙で滲んでいた瞳が、瞬く間に輝きを取り戻した。


「……相変わらず下手くそだな」

 ピクルは淡々とつぶやく。けれどその目は、真剣にミラを見ていた。

 

 ミラの笑顔が固まる。

(本当はそんなふうに思ってたんだ……)

 俯いて、唇を噛む。


 ピクルはふっと目を細め、声を落とす。

「魔力のコントロールが下手すぎるんだよ。力込めりゃいいってもんじゃねーから」


「どういうこと?」

 ピクルの声が思いがけず優しく、ミラは驚いて顔をあげる。


「魔力が強すぎて、コントロールできてねぇんだよ」


「魔力が? 強すぎる? 弱いんじゃなくて?」

 ミラはきょとんとした顔で問いかける。


「お前、自分がめちゃくちゃ魔力が強いってわかってねーだろ?」

 ピクルは微笑む。


「魔力の流れをつかめれば、すぐに変わる。……見てろ」


 そう言ってピクルはミラのそばに一歩近づき、彼女の手の甲に手のひらを重ねた。

 ピクルの手の温もりが伝わる。


「この状態で魔力を込めてみろ」

「わかった」

「魔力を込めると力が集まってる感じはわかるだろ?」

「うん。だけどうまく出てこない」

「ただ力を込めるんじゃなくて、流れをイメージしろ。溜めすぎず、通す感じで」


 ピクルが軽く息を吐き、指先に意識を集中させる。

 すると――ミラの掌から、ふわりと柔らかな光が生まれた。


「わ……すごい……!」

 驚きで声が漏れる。

 今まで何度挑戦しても出せなかった光が、いとも簡単に形を成していた。


 ピクルは満足そうにうなずく。

「この程度で驚くなよ。コントロールできるようになれば、まだまだ上にいける」


 その言葉には、どこか誇らしい響きがあった。


 幼体のころ、ただ見守ることしかできなかった日々。

 伝えたくても、羽ばたきと鳴き声では届かなかった。

 ――そのもどかしさを思い出しながら、ピクルは静かに言葉を続ける。


「ずっと待ってたんだ。早く成体になって……お前にこれを教えてやりたかった」


 その笑顔は、幼い小鳥のときと重なって見えた。

 ミラの胸は暖かさでいっぱいになる。


「そう…だったんだ……」


(私は、前のぴーちゃんに戻ってほしいなんて……思ってたのに)


 不安げに見つめるミラの肩に、ピクルの手がそっと触れる。

 視線を外さず、ゆっくりと頷いた。


「大丈夫だ。俺がお前を最強の魔法使いにしてやる。……俺を信じろ」


 その一言に、ミラの目が一瞬で輝く。

「ありがとう! 私、頑張るよ!」

 勢いのままに飛びつくと、ピクルの体温が胸いっぱいに広がった。

 

「ったく……成体になったんだから、その距離感やめろって」

 呆れたように言いながらも、ピクルは拒まず、笑って軽くミラの背中をポンと叩く。


「ま、頑張れよ」


 ミラはその笑顔を見上げ、さらに強く抱きしめた。


「お前、力強すぎだって……」

「ふふふ。だって嬉しいんだもん!」


(よかった……ぴーちゃんは、やっぱり変わってなんかいなかった)

 ミラの心は、あたたかな光で満たされていった。

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