9話:いざ入学試験へー②
試験がすべて終了し、会場に緊張と静寂が漂う。
「それでは、個別試験の合格者を発表する」
校長の声が響き、候補者たちは息を呑んだ。
次々に合格者が発表される中ーー
「ミラベル・アーデン、合格とする」
その名前が呼ばれると、ミラは一瞬目を見開き、次の瞬間、自然に笑みがこぼれた。
周囲からも小さな驚きと拍手が湧き上がる。
ピクルは胸に誇らしさを抱きつつも、目元にわずかな影が差し、寂しさを押さえきれなかった。
(……これからは、もう別々の道なのか……)
◇
「よく頑張ったな。おめでとう」
ピクルはミラに近づき、声をかける。
「ありがとう、ぴーちゃん!」
嬉しさのあまり、ミラは勢いよく飛びついた。
ぎゅーっと抱きしめ、胸に顔を埋め、潤んだ瞳でピクルを見上げる。
「全部ぴーちゃんのおかげだよ……」
「……だから距離近すぎるんだって……」
ピクルはいつものように笑おうとしたが、うまく笑えない。
胸がきゅっと締めつけられ、言葉にならない思いが込み上げ、手のひらがわずかに震えた。
(これでこいつともお別れか……寂しいけど、仕方ない)
その時、現実に引き戻されるように試験会場の係員が近づいてきた。
「あ、君合格者だよね? この書類に記入してね」
「はい!」
ミラが意気揚々とペンを取る。
すると、係員がピクルにも書類を差し出した。
「君、この子の使い魔だよね? 君はこっちの書類に記入して」
「は? 俺は関係ないだろ?」
「何言ってんの、ぴーちゃんも入学するんだよ!」
「……どういうことだ?」
「魔法使いと使い魔は一心同体、常に一緒でしょ? 使い魔も一緒に入学するのが条件なんだよ」
ミラは当たり前のように答えた。
ピクルは一瞬、頭の中が真っ白になった。
(……え? な、何を言ってるんだ……?)
言葉が出ず、しばらく立ち尽くす。
胸がドクドクと高鳴り、衝撃が体中を駆け巡る。
ようやく息を整えて、口を開いた。
「え、お前、入学したら”離れ離れになる”って言ってたよな?」
ようやく言葉が追いつくと、衝撃が全身を駆け巡った。
「だって、寮に入ったら、ぴーちゃんと別の部屋になっちゃうでしょ! 一緒に寝れなくなるんだよ!」
ミラは頬を膨らませ、真剣に不満を訴えるように言った。
「はぁ!? なんだよそれ!? ややこしい言い方すんなよ!!」
思わず膝から崩れ落ち、頭を抱えて叫ぶピクル。
でも、ふとミラの真剣な表情を見ると、苦笑せずにはいられなかった。
(通りですぐに切り替えたはずだよ……つーか……)
「……そんなくだらないことで、行くの迷ってたのかよ!? まじでありえねぇ……」
「そうだよ。だってずっと一緒って約束したでしょ?
別々の部屋になっちゃうなんて、大問題だよ!」
呆れ顔のピクルをよそに、ミラは当然のことのようにきっぱりと言った。
(……覚えてたのか……)
ピクルの胸に、ふわりと温かいものが広がる。
ミラは前を向いていて、昔のことなんて忘れているのかと思っていた。
「まぁ、一緒に寝れないのは我慢するよ……チューはしてもらえるからね」
ミラはにやりと笑い、無邪気にピクルを見上げる。
「あれは最後だと思ったからだ! 毎日会うなら必要ねぇよ!」
ピクルは顔を真っ赤にして否定する。
「えー!そうなの〜?」
ミラがしょんぼり肩を落とすと、ピクルは思わず吹き出した。
「まったく……ほんと、お前ってやつは……」
呆れながらも、胸の奥にゆっくり温かさが広がるのを感じた
「まぁ、これからも、よろしくな」
少し照れくさそうに言いながらも、言葉には重みが込められていた。
「うん。これからもずっと一緒だよ」
二人は顔を見合わせ、自然に笑い合う。
何気ない、でもとても幸せな時間――
未知の魔法学校での新しい日々が、静かに、でも少しわくわくした気持ちで始まろうとしていた。
――こうして、ミラとピクルの魔法学校での冒険が幕を開ける。
山の村を離れ、未知の世界〈インペリアル〉へ――。
そこには、ふたりを待つ新たな出会いと試練があった。
― 第一部 完 ―
ここまでお読みいただきありがとうございました!
この第一部の終わりで、ひとつの物語としては一旦完結となります。
現在、二部「魔法学校編」を執筆中です。
時期は未定ですが、完成次第公開予定です。
ここまで読んでくださった皆さまに、心からの感謝を申し上げます。
ありがとうございました。




