9話:いざ入学試験へー①
試験当日。
村からはるばる移動し、マギア・インペリアルまでやってきたミラとピクル。
「ちょっと緊張してきたかも……」
「……ちょっとで済んでるなら大したもんだけどな」
「だってぴーちゃんが一緒に来てくれたから」
ピクルの手をぎゅっと握る。
「お前が一緒に来いってうるさいからだろ」
「へへへ……」
ミラに笑顔が戻る。
学院の正門を抜けると、目の前には荘厳な石造りの塔がそびえ立っていた。
その威容に、二人は思わず息を呑む。
(ここが……インペリアル……)
校内の試験会場にはミラと同じ年恰好の魔法使いがひしめき合っていた。
村にいた子供達とは違い、皆、身なりが整っていて、聡明そうな顔をしている。
「……なんかお前が一番バカそうだな……ちょっと心配になってきた」
「ひどい!」
最初に受験生はグループごとに集められ、基本魔法のチェックが行われる。
基準を満たした者だけが個別試験に進める仕組みだ。
「ま、基本魔法の方は楽勝だろ。いつも通りいけよ」
「うん。頑張る!」
◇
試験会場の空気は張り詰めていた。
受験生たちは緊張した面持ちで順番を待つ。
手に汗を握る者もいれば、肩を震わせる者もいた。
基本魔法のグループ試験では、火・水・風・土の魔法を使い的を狙う。
十名ほどの受験生が的の前に並び、一斉に魔法を放った。
ピクルと事前にみっちり特訓していたおかげで、ミラは難なく的を射抜いていく。
だが――
「あ、やりすぎちゃった……」
張り切りすぎたミラの魔力が一瞬だけ暴走し、光球と水球は勢い余って的を粉々にした。
試験官は眉を寄せつつも、「制御の基本はできている」と評価し、ミラは無事合格。
ピクルは肩をすくめながらも、口元に微笑を浮かべた。
(……まあ、ミラらしいか)
◇
個別試験の場。
ここに進めるのは基本試験を突破したわずかな候補者だけ。
個別試験は、学院の敷地内にある魔法実習場で行われる。
石造りの高い塀に囲まれた広大な演習場。
実習場の周りには教官たちが並び、鋭い目で受験生たちを見ている。
その中心に、学院の校長が穏やかに座していた。
ただそこにいるだけで、場の空気をぐっと引き締める、不思議な存在感を放っている。
この個別試験の注目具合が窺われ、候補者たちに緊張が走る。
「今年は個性的な子が多いみたいだね」
校長は目尻に皺を寄せ、どこか楽しげに笑った。
隣の教官たちは思わず背筋を正す。
「若さゆえかもしれませんが、力の扱い方に面白みを感じます」
実務を取り仕切る主任教官は、校長に候補者たちの状況を報告する。
「どんなものを見せてくれるか、楽しみだねぇ」
校長はさらににこりと笑い、候補者たちをじっと見つめた。
候補者は一人ずつ前に進み、特色を示す魔法を披露していく。
炎を大噴射する者、氷の槍で巨大な柱を打ち込む者、雷撃を走らせ地面を裂く者。
そのたびに会場の空気が揺れ、どよめきが起こった。
(さすがインペリアルの候補者……村の奴らとは全てが桁違いだ……)
他の候補者の圧倒的な力に、ピクルは改めて舌を巻く。
やがて、ミラの番が巡ってくる。
きゅっと唇を結び、緊張した面持ちで前に進み出るミラ。
(ミラ、大丈夫か……)
心配そうに見守るピクルと目が合った瞬間、ミラはぱっと笑顔を見せた。
それで落ち着きを取り戻し、真剣な眼差しに変わる。
胸の奥でぐっと力を込める。
(ここまで頑張ってきたんだから……絶対に、うまくやる!)
肩の力を意識的に抜き、深く息を吸い込む。
目標だけを見据え、視線を一点に集中させる。
手のひらに魔力を集め、指先までビリビリと力が流れていくのを感じた。
(やっぱり、私の一番大事な魔法はこれ……!)
緊張が少しずつ解け、表情にはわずかな笑みが滲む。
ミラは一呼吸置いて、手をひらひらと動かす。
すると地面から草木がぐんぐんと伸び、色とりどりの花が次々と咲き始めた。
「あの、ばか……」
ピクルは額を手で覆うが、口元はわずかに笑っていた。
「……花を咲かせる魔法だと?」
教官たちは一瞬、驚き、次いで呆れたようにざわめいた。
「下級魔法を出す気か?」
「まさか、インペリアルの試験で……?」
失笑混じりの声が上がる。
だが次の瞬間、空気が変わった。
瞬く間に花は広がり、会場全体を覆うほどの花畑を作り上げる。
その光景は、演習場を超え、遠くの山肌までをも彩るほどだった。
しかも、それだけの魔力を扱いながら、制御は一切乱れていない。
花を咲かせる魔法は本来、すでにある植物を成長させるだけの〈加工魔法〉――いわば“下級魔法”に分類される。
だが、ミラの魔法は違った。
そこには、種も、芽も、花も存在しなかった。
ただの土の上に、新たな命が芽吹いたのだ。
まるで、大地そのものに生命を創り出す〈創造魔法〉のように。
「え……これ、下級魔法なの……?」
他の候補者たちは目を丸くし、互いに顔を見合わせた。
これまで見てきた“加工魔法”とは、明らかに性質が違っていた。
「創造魔法……いや、それ以上だな」
校長は髭を撫でながら、目を細めた。
「まるで、大地そのものが息を吹き返したようだ……」
その声には驚きと、わずかな期待が混じっていた。
周囲の教官たちは息を呑み、ただその光景を見つめていた。
下級魔法だと笑っていた者たちの目に、
今はただ、圧倒的な“格の違い”だけが焼きついていた。
ピクルは肩をすくめつつも、どこか嬉しそうだった。
「……やりやがったな。ま、これだけ実力を見せつけられたら、文句はねぇな」
会場のざわめきを横目に、ピクルは改めてミラの成長を実感していた。




