7話:定期評価の日ー①
今日は、村の魔法使いたちが力を試される「定期評価」の日だった。
三ヶ月に一度、指導魔法使いヴァレンが子どもたちの成長を見極める。
いつもは少し緊張する日。でも今回は――特別だ。
すでに十五歳のミラにとって、最後の定期評価。卒業後の進路が決まる大切な節目でもあった。
一人ずつ、みんなの前で修行の成果を披露していく。
ミラの番になったとき、場の空気がふっと張り詰めた。
前回の定期評価では、ミラはまだ小さな火花すらうまく出せなかった。
それが、たった三ヶ月で――
火・水・風・土――すでにすべての基本魔法を操るまでに成長していた。
しかもそのコントロールも安定している。
軽やかに魔法を使いこなす姿は、かつて「落ちこぼれ」と言われていたミラとは別人のようだった。
そして何より、使い魔ピクルとの連携が見事だった。
ミラが魔法を放つ瞬間、ピクルが風の流れを変えて威力を増幅させる。
さらに、相手の動きを読むように魔力の流れを導く。
二人の動きは、まるで長年訓練を積んだ魔法戦士のようだった。
「すごいな……」
「あのミラが……」
周囲の子どもたちはざわめく。
「……見違えたな」
ヴァレンは腕を組みながら唸る。
「えへへ……ちょっとコツを教えてもらって」
ミラはチラリとピクルの方を見る。
それに対して、ピクルも少し照れくさそうに微笑む。
「そうか……」
ヴァレンはふと昔のことを思い出す。
三歳の頃からこの村で預かってきたこの少女は、魔力の強さは感じるのに、魔法を使うことが全くできなかった。
簡単な指導を試みたこともあったが、形にはならず、ヴァレンも途中で諦めてしまった。
まだ小さな手を振り、必死に魔法の形を作ろうとする姿が、今も目に浮かぶ。
だが今は、目の前に堂々たる魔法使いが立っている。
その力を引き出したのは、おそらくこの使い魔――ピクルの献身的な支えと導きなのだろう。
(……そうか、あの小さな鳥が……)
「じゃあ、最後に個別試験だ。まずは水系。花に水をかけてみろ」
ヴァレンの声に、ミラはにっこり笑うと、手をひらりと動かした。
細やかな水の粒がシャワーのように降り、花びらを濡らす。
「……見事だ。コントロールも上々だな」
ヴァレンの口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「じゃあ、もうちょっと増やそっかな〜」
ミラは首を傾げ、軽く指を振る。
次の瞬間――豪雨のような水が降り注ぎ、大木までなぎ倒しかける。
「そんなにいらん! どこがちょっとなんだ!」
「え? そうですか!?」
きょとんと目を丸くするミラ。
ヴァレンは額に手を当てつつも、その魔力の強さに驚いていた。
「お前、今どのくらい力を込めてる?」
「えーっと、二割くらいかな?」
「二割か……一度、加減せずに本気でやってみろ。どの程度か見てみたい」
「はい! わかりました!」
ミラが大きく両手を振ると――轟音と共に水柱が天へと突き上がった。
噴火のように次々と湧き上がる水の奔流。地面が震え、観ていた子どもたちの顔から血の気が引いていく。
ヴァレンは驚く。
(思っていた以上だ。やはり魔力が桁違いだな……)
「しかし、こんなに魔法使って疲れないのか?」
「ぜーんぜん! 大丈夫です! まだまだいけますよ〜」
「も、もういい! 森が壊れる!」
ヴァレンの制止を受け、ミラは魔力を止める。
「全く……もう十分だ。これで終わりでいいぞ」
「はーい」
少しほっとした表情で、ピクルの方に目を向け、こそっと笑った。
「でもきれいだったよね……噴水みたいで!」
「噴水じゃねえ、災害だ……」
ピクルはため息をついた。
その光景を目にして、ヴァレンは驚きと共に、かすかな感慨を抱いた。
(……やはり、この子には特別な血が流れている)
ふと、かつての友の笑顔が脳裏をよぎる。
「……血は争えないな」
静かに呟き、口元にかすかな微笑を浮かべる。
ヴァレンの胸中には静かな興奮が残っていた。




