6話:少し近づいた二人
昼過ぎ、ミラとピクルは村の食堂で向かい合い、ゆっくり食事をしていた。
だいぶ打ち解けてきたけれど、ミラにはまだ、幼体の頃のような距離の近さを感じられなかった。
ピクルは以前のようにそばにいてくれるけれど、どこか他人行儀で、少しだけ寂しい。
ミラはじーっとピクルを見つめる。
「ぴーちゃん、まだよそよそしいよ。なんで?」
不満そうに呟く。
「別に普通だろ? 使い魔と魔法使いってこんなもんだ」
ピクルはミラの言ってることがよくわからないと言った様子だ。
ミラはしばらく黙って視線を合わせる。
胸の奥で、なんだかちょっとだけもやもやした気持ちがくすぶった。
「そうなの!? 一緒に寝てくれないし……」
頬を膨らませ、拗ねたように続ける。
「チューもしてくれなくなっちゃったし!」
ピクルは飲んでいたものを吹き出しそうになり、慌てて口を押さえた。
周囲の子たちも一斉にこちらを見る。
「は!? そんなことやってねぇよ!!」
耳まで真っ赤になりながら、否定するピクル。
「うそ! 前はいっぱいしてくれたもん! 忘れちゃったの!? ひどい!」
さらに声を張り上げるミラに、周囲の視線が一層痛くなる。
「声がでけぇ! やめろって!!」
ピクルは頭を抱えたが、ふと気づく。
――幼体の頃、ミラが泣いているときによく嘴でついばんで慰めていたことを思い出した。
そのことを言っているのか――
「あ、あれは、話せねぇから仕方なく……今は喋れるんだから必要ねぇだろ?」
ピクルは慌てて言い訳をする。
「えぇ〜、そうなの〜?」
ミラはがっかりしたように肩を落とす。
「あれ、元気が出るおまじないだったんだよ!
落ち込んでても、あれをしてもらったら元気が出たのに……」
寂しそうに目を伏せるミラを見て、ピクルの胸に小さな痛みが走った。
その表情を見逃さず、ミラはふっと口元を緩める。
「あ〜、悲しいなぁ〜、寂しいなぁ〜」
ミラは両手で顔を覆い、小さく演技めいた泣き声を漏らす。
「ぐっ……」
思わず胸の奥に罪悪感が芽生えるピクル。
「ほら? どう? やる気になった?」
ミラは指の隙間からピクルの姿を盗みつつ、ニヤリと笑っていう。
「お前、調子乗りすぎ……」
泣き真似だとわかって、ピクルは苦笑しながらツッコむ。
二人は顔を見合わせて笑い合う。
しばらく笑い合ったあと、胸の奥にほのかな温かさが広がった。
――以前の距離が、少しずつ戻ってきた気がした。
◇
日が暮れ、静まり返った村。
ピクルは窓辺に立ち、外の様子を伺っていた。
バチバチと雨が窓を叩き、稲妻が夜空を裂く。雷鳴が地面を震わせる。
「また雷か……」
低く呟くピクルの隣で、ミラは肩を震わせていた。
目にはうっすら涙が浮かび、唇を噛みしめている。
「怖い……やっぱり一緒に寝てほしい」
ミラは小さな声で言い、ピクルの袖をぎゅっと掴む。
(結局、全部俺のせいなんだよな……)
事情を知った今、もう突き放すことはできなかった。
ピクルは息を吐き、肩の力を抜く。
「仕方ねぇよな。……いいよ」
その一言で、ミラの強張った顔がふっとゆるんだ。
ほっとしたようにピクルの手を握りしめる。
「よかった。嬉しい……」
その笑顔に、ピクルの胸がチクリと痛んだ。
ミラがベッドに潜り込むと、ピクルも静かに隣に入る。
背を向けて横になると、すぐにミラの腕が伸びてきた。
「やっぱりゴツゴツしてて、前とは抱き心地が違うなぁ……」
「文句言うなら、ぬいぐるみに戻せよ……」
不服そうに言いながらも、ピクルはじっとされるがまま抱き寄せられている。
「ううん。ぬいぐるみより本物の方がいい。
抱き心地は違うけど……あったかいから」
嬉しそうにぎゅっと抱きしめ、しばらくその温もりに顔を埋めた。
「あったかくて、安心する……」
ピクルの背に頬を寄せたまま、ミラはそっと目を閉じた。
その声は柔らかく、子どものようだった。
「あ、そうだ! ついでにチューもしてもいいんじゃない?」
突然顔を上げ、いたずらっぽく笑う。
「は? それはしねぇよ!」
慌てて否定するピクル。
だが、ミラの顔にようやく笑顔が戻り、胸の奥の緊張がふっとほどけるのを感じた。
「ふふ。ま、いっかぁ……」
安堵したように呟くと、ミラはそのまますぐにスヤスヤと眠ってしまった。
微妙な表情のまま、ピクルはポツリと呟く。
「……安心する、か」
いつまで経っても、ミラにとっての自分はあの小鳥のままなのか。
ピクルは胸の奥で何かが静かに波打つのを感じていた。




