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5話:使い魔召喚の儀式

 ミラは、ピクルと初めて出会った日――「使い魔召喚の儀式」のことを思い出していた。


 この地域では、七歳になると子どもたちは親元を離れ、村の施設で共同生活を始める。

 その一番の目的が、限られた魔法使いだけが行える、この「使い魔召喚の儀式」への参加だ。


 儀式の日、村の広場には緊張した面持ちの子どもたちが並ぶ。

 中央に立つのは、指導魔法使いのヴァレン。

 銀髪をきっちりまとめ、眉ひとつ動かさずに子どもたちを見渡している。

 普段は無口で怖いけれど、村の誰もが一目置く存在だ。


「落ち着け。心配しなくても、お前たちにぴったりの使い魔がやってくる」


 低く響く声に、みんなが一斉に背筋を伸ばした。

 だが緊張が高まりすぎたのか、誰一人として声を出さない。

 ミラも例外ではなく、手をぎゅっと握りしめて祈るように立っている。


(だ、だいじょうぶ……ちゃんと出るよね……?)


 使い魔の種類は選べない。

 魔法使いの魔力や素質によって、ふさわしい使い魔が現れる。

 いわば――魔法使いとしての実力を試される、人生最初の試練だった。


 重苦しい沈黙。

 子どもたちの緊張を感じ取ったヴァレンが、咳払いをひとつ。


「……”つーか、今”呼び出すからそんな緊張するな」


 ……シン。


 広場に風が吹き抜ける音だけが響いた。


(え……? え、これって”つーか今と”使い魔”を……かけた……?)


 ミラは凍りつきながら、隣の子の顔をうかがう。

 目が合ったが、相手も同じ顔をしていた。


「……い、今の、笑うところなのかな……?」

「しっ! 聞こえる!」

 小声のささやきが走る。


 ヴァレンはそんな空気にも気づかぬまま、真顔でうなずいた。

「……よし、場も和んだところで、始めるぞ」


(和んでない! 一ミリも!)

 

 重苦しい空気は消えたが、代わりに微妙な雰囲気のまま儀式が始まった。

 子どもたちの心のツッコミは気にも止めず、ヴァレンは魔法陣の中に立つ。


 召喚の呪文を唱えると、光の輪の中に卵が現れる。

 猫、フクロウ、カラス……同級生たちの前に、次々と卵が生まれていく。


 ミラは息をのみ、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。

 冗談まじりの空気は消え、儀式の厳かな光だけが広場を包んでいく。

  

 そしてミラの前に現れたのは――

 朱色にオレンジのまだら模様が浮かぶ、不思議な色の卵。


 ひときわ目を引くその輝きに、ミラは思わず目を丸くした。

「キレイな色……! こんなの初めて見た!」


 周りの子どもたちもざわめき出す。

「なんだそれ? ミラの卵、変なの〜」

「でも、もしかしたらすごい使い魔かもよ!」

「ないない。あのミラの卵だぞ?」


 バカにしたような声に、ミラは少しだけうつむいた。

 村で“落ちこぼれ魔法使い”と呼ばれているミラのところに、強い使い魔が来るとは誰も思っていなかった。


 だがそのとき――ヴァレンだけは黙って、朱色の卵をじっと見つめていた。

 何かを確かめるように、長い沈黙ののち、静かにミラの手にそれを渡した。


 受け取った卵を見つめながら、ミラの胸は高鳴る。

(この子が、私の使い魔……私の相棒なんだ……!)


 オーソドックスな使い魔の卵は、見ただけで何の卵かわかる。

 だけど、この卵は見かけだけではわからなかった。

 ――それでも、まったく構わない。

 だって、もうすぐ自分の相棒に会えるのだ。

 出会う前から、きっと大好きになる――そんな予感に胸が弾んだ。


 数日間、静かな日々が過ぎ――その卵から孵ったのは、丸くてふわふわの小鳥だった。

 見たことのない鳥だったが、その愛らしさから誰も特別な存在だとは思わなかった。

 ――そうしてピクルの卵が、変わっていたことなど、皆忘れてしまっていた。



(まさか、本当にぴーちゃんが“すごい使い魔”だったなんて……!)


 ピクルの体に宿る、圧倒的な力――それを目の当たりにして、胸の奥が熱くなる。

 あの小さな羽が、こんなにも特別な存在だったことに、自然と誇らしい気持ちが湧き上がった。


 そして、ピクルが持つ力を目の当たりにし、自分の力にも無限の可能性があるような気がした。

 これまでの「落ちこぼれ」という思い込みは、もう遠い過去のことのようだ。

 未来に広がる光景を、今の自分ならきっと切り開ける――そんな希望が、胸の奥で静かに膨らんでいった。

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