プロローグ (表紙イラストあり)
静まり返った夜の部屋に、
――メリッ、メリメリ……。
サナギの殻にヒビが入る、小さな音が響いた。
ミラ――正式にはミラベル――は息を止めて見つめる。
サナギの中には、魔法使いであるミラの使い魔、ピクルが入っている。
長い間、動きもせず沈黙していた。もうダメかと何度も思った。
けれど今――確かに中で生きている。
(……動いた! 本当に、羽化が始まったんだ……!)
胸が熱く高鳴る。
周囲に「諦めろ」と言われても、ただ一人で信じ続け、毎日魔力を注ぎ込み続けてきた。
その努力が、いま報われようとしている。
ひび割れが広がり、サナギ全体が金色の光を帯びていく。
まるで小さな炎が灯ったように、部屋の闇をかき消した。
ついに、殻が破れる。
ぱらぱらと破片が床に散り、そこから――。
「……ぴーちゃん!」
ミラは思わず駆け寄り、勢いよく抱きしめた。
「もう会えないかと思ってたよ……!」
ぎゅっと腕を回す。だが、何かがおかしい。
――腕が全然回らない。
(え……なにこれ……?)
戸惑いながら顔を上げると――絶句した。
そこに立っていたのは、可愛い小鳥のぴーちゃんではなく、鋭い目つきの青年だった。
がっしりした体格、力強い肩幅、精悍な顔立ち。
ふわふわのぬいぐるみのような可愛らしさはカケラもなく、まるで酒場で喧嘩してそうな、ならず者の風貌だ。
「……ぴーちゃん……なの?」
おそるおそる問いかけるミラ。
青年はがしがしと頭をかき、気の抜けた声で言った。
「とりあえず腹減ったから、メシ食わせてくれ」




