努力が無駄だと感じる人へ
ここは様々な事情を抱えた人達が訪れる名前のない不思議な神社。
今日もまた1人参拝客が…
———夕陽が眩しく境内を照らす。今日もまた参拝客が訪れる。
鳥居をくぐってきたのは中学生ぐらいの男子
「ようこそ」
「っす…」
軽く挨拶をして賽銭箱へ向かった。
戻ってきた彼にもう一度声をかける
「ここは名前のない神社。悩みを抱えた人だけが訪れる不思議な神社です。あなたの悩みはなんですか?」
「悩みなんてない」
「本当ですか?」
彼は少しの思案の後
「やっぱりない」
「本当に?そうだな…例えば…やる気がでないとか…努力が報われなかったとか」
夕陽の明るさとは反対に彼の顔が曇る
「努力は嫌いだ」
「そう?私は嫌いじゃないけど」
「努力したって才能を持つやつには敵わない」
「その様子じゃあ、努力が報われなかったんだ」
「だったらなんだよ」
「そうだね…じゃあ君は初めて歩いたとき、それか初めて喋ったとき、君の周りの人はそれを才能だと、唯一無二だとたたえたかい?」
「それは努力だけの問題じゃないだろ」
「そうだね。歩くことは成長による筋力の向上、そして周りの声を覚えて話せるようになる」
「何が言いたいんだよ」
「才能に打ち勝つために必要なのは努力だけじゃないってことだよ。周りの助けや環境みたいな外的要因だって才能に勝つ要素となり得る」
「…」
「ただ残酷なことにそれらは才能にだって味方する」
私は未だ俯く彼と目を合わせて伝える
「もし君に目指すものがあって本気で叶えたいと願うなら、両方を最大限活用することを忘れるな。そして、努力の方向性を間違えるな、周りの環境を全て利用してみろ。」
「もしそれでm…」
「それでも全く歯が立たなかったのなら、一矢報いることさえ許されなかったのであれば、才能を憎め、努力したことを後悔しろ、私の言葉を…私自身を恨め」
彼は少し驚いたような表情をしたがすぐに返答をした
「やっぱり勝てるとは限らないんじゃないか!」
「勝てるとは限らないからやるんだよ。才能があろうがなかろうが勝つときは勝つし負けるときは負ける。
だから、少しでも勝てるかもって思ったのなら、希望が見えたのなら、それを信じて進んでみろ。きっとやってよかったって思えるはずだから」
「…分かり…ました。一回信じてみます」
「ありがとう」
「今日はありがとうございました」
彼はそう言って頭を下げ、鳥居をくぐって行く。
日が沈みきった。今日は新月のようで上がった彼の顔色を確認することはできなかった。
努力が無駄だと感じる人へ、努力だけが打ち勝つ手段じゃない