7 お茶会で
アカリ、ランカ、シャーリーは王城の庭へ出た。
庭の奥の方でお茶会の用意がされていて、みんな先に待っている。
ミナモとカエンが途中まで迎えに来てくれた。
ランカが「水家のミナモ。私の弟の炎家のカエン」とシャーリーに紹介する。
アカリが微笑んで言った。
「ミナモはランカの恋人なのよ!」
シャーリーがランカとミナモを交互に見るとランカが顔を赤くして「そうです……」と恥ずかしそう答え、ミナモと目を合わせて幸せそうに微笑みあった。
シャーリーは心の中に何か嫌な感情が生まれてきたのを感じた。
羨ましいという気持ちと、この何もかも恵まれている女から大切なものを取り上げてみたいという気持ち。
「ふたりは婚約されてるの?」
「いいえ、申し出はしてるけど、まだ許可が下りなくって」
「それはなんで?」
「うん、他家との兼ね合いや、王子の婚約者が決まってからということがあるのかなと思う」
まだ婚約していない……。
シャーリーはそっとミナモを見た。
黒髪に青い瞳が涼し気な背の高い……。
ミナモがシャーリーが自分を見ていることに気がつき、見返してきた。
シャーリーは思わず目をそらし、顔を赤らめた。
アカリとカエンはふたりだけでおしゃべりを始め、ずんずんお茶の席の方へ早足で行ってしまう。
ランカとミナモはシャーリーに話しかけながら、ゆっくり進んでくれている。
マナーが心配だとこぼしたシャーリーに「大丈夫!」とランカが言った。
「お茶会だから、マナーはそこまで気にしないで」
ミナモもシャーリーに笑いかけた。
シャーリーは頷き、ミナモに微笑み返した。
「ミナモ様はやさしいのね」
ミナモは少し怪訝な表情をしたが、ランカは素直に頷いた。
「そうね、でも、王子達も四家のみんなもやさしいよ」
お茶会ではシャーリーとランカが各テーブルを回って挨拶や紹介をして回った。
本当ならアカリも一緒にいていいのだが、アカリはそこまで気が利かなかったのだ。
たぶん、そうするべきかもとすら考えていなかったのだろう。
そして、それは王女なので許された。
全員に紹介して、シャーリーをカレンとシズク、ブライト王子とフウライとシャムザのテーブルに再度案内して座らせると、ランカはほっとした表情をした。
ミナモがランカを呼ぶ。
ランカがそちらに行こうとすると、シャーリーがランカの手をつかんだ。
「私を残して行ってしまうの?!」
「大丈夫、カレンは私の姉、シズクはミナモの姉よ。
ふたりとも頼りになるから!」
シズクが言った。
「シャーリー、ランカは今日ずっと聖女の勉強とあなたを紹介する役目もしていて……。
ミナモにランカと過ごす時間をあげてくれない? ずっと待っていたのよ」
「ならば、ミナモ様とランカ様が一緒に私のそばにいてくれたらいいのに」
ランカは少し困った表情をし、シズクとカレンは怪訝な表情で見合った。
シズクとカレンは注意しなくてはいけない厄介な女の気配というものをシャーリーに感じたようだ。
カレンが言った。
「ランカ、ミナモのところへ行きなさい。
いろいろな人と話をするのも彼女には必要よ」
ランカは頷いて「それじゃ、後でね」とシャーリーに告げ、シャーリーは渋々手を離した。
ランカはミナモの方へ走っていく。
それを悲しいのか、悔しいのか、恨めしいのか、怒っているのか、どちらにしろあまりいい感情を持っていないような冷たい表情で見送るシャーリー。
ブライトが声をかけた。
「ランカがそんなに気に入ったのかい?」
「……はい、彼女はすごい人です」
シャーリーはランカが切り花に根まで生やして土に植えたということを話した。
感心しているように話したけれど、心のどこかではランカがやり過ぎたと笑われると思っていた。
ブライト、フウライ、シャムザと男性陣が「ランカらしいな」と言いながら笑ってくれたのだが、カレンとシズクは何やら硬い表情でとりあえずの微笑みを浮かべている。
カレンが切り出した。
「ランカらしいけれど、ランカにしてみればそれは当たり前のことなの。
ブライト様、前に頂いた王城の見事な赤いバラの花のこと覚えていますか?」
「ああ、覚えているよ。こんなに大きな花のだろう?」
ブライトが両手で丸を作ってみせる。
「ええ、あの花、とても見事だと言ってランカが挿し木にしたんです。
そうしたら、根付いて、今では毎年、私達を楽しませてくれています」
「そうか……、ランカは元からそういう……」
ブライト達が感心して頷いている。
シャーリーもにっこり微笑んだ。
「やっぱり、ランカ様ってすごいんですねー!」
カレン様はともかく、ミナモ様の姉のシズクとは仲良くならなくてはとシャーリーは思った。
フウライが言った。
「シャーリーとシズクはなんとなく似てるね」
ブライトが頷いた。
「ああ、髪色と髪質が似ているのかな?」
「そうですか! こんな美しい方と似ていると言われるなんて、とってもうれしいです!」
シャーリーはさらに微笑んだ。
微笑み過ぎて顔が痛くなりそう……と思いながら。
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