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6 聖女の能力

 ランカは花を見て考え込み、神官に質問した。

「何を考えて祈れば?」

「元気になった姿を思い浮かべるとかでしょうか?」


 確かに神官達は研究などをしているが、自分達が光魔法を使えるわけじゃない。


 ランカは「ふむ……」と頷いて、手の中の切り花を見た。


「花が元気になる……」


 ランカは目をつぶり、祈り始めた。

 ランカの身体から柔らかい光が広がっていく。


「ラ、ランカ様?!」


 神官のあわてた声にランカは目を開いた。

 ランカの手の中の切り花の切り口の辺りから白い根が生えてきている。


「あ、できた!」

 ランカはうれしそうに言って、神官に見せる。


「これでこの花は土に根付いて生き続けることができます。

 庭に植えてきてあげてもいいですか?」


 神官は驚きの表情をしたが、すぐに微笑んだ。

「はい、ランカ様、どうぞ!」



 ランカはシャーリーを誘うと庭へ出て、土の柔らかそうな日当たりの良い場所に花を植えた。


「ああ、水。ミナモがいてくれたらすぐにあげられるのに」


 ついて来た使用人が水を取りに行ってくれた。

 シャーリーとランカがふたりきりになると、シャーリーがぽつんと言った。


「ランカ様ってすごいですね……」

「えっ?

 元気っていうイメージの違いじゃない?

 萎れた花がしゃきっとするのも元気だし、根を出して根付けるようになるのも元気だし。

 こうなるとアカリ様の光魔法も早く見てみたいなあ」

「そうですね、人それぞれなのかもしれませんね」

「となると今いらっしゃるおふたりの聖女の魔法も楽しみだね!」

「はい!」


 シャーリーとランカはにっこり笑いあった。


 花に水をやってから、神殿の中に戻る。


 アカリの練習はすでに人に対しての光魔法に進んでいて、王城の使用人で怪我をした人、治療が必要な人を集めて治していた。


 手に切り傷を作ってしまった調理人。

 足を捻り捻挫してしまった庭師。

 手荒れがひどくなってしまった洗濯担当の使用人。


 アカリはひとりずつに話を聞きながら、治すべき身体の部分を確認して、触ってそこへ光を発現させて治していった。


 シャーリーが首を傾げた。

「触らないといけない?」


 その言葉を聞いてランカも思い当たった。


 ミナモの時は、ミナモの手は握っていたけれど、怪我の場所や状態はほとんど確認しないまま、『死なないで!』という強い思いだけで光が発現して、傷部分は治してしまったこと。

 そして、頭の中に直接、語りかけられたり見えるようなイメージでミナモの身体の状態やもう少し時間をかけて治療が必要だとかわかった……こと。


 シャーリーも何かしらそういう体験をしているのかもしれない、とランカは思った。


「来てくれたの!」

 アカリがふたりを見てにっこりした。

「今日は後3人! 待ってて!」


 神官がシャーリーに言った。

「やってみますか?」

「ぜひ!」

「ランカ様は?」


 ランカはちょっと迷ったが頷いた。


 最後にひとりずつ担当することになる。


 アカリは頭痛持ちの女性使用人で、何度か治療している仲らしく「天気のせいかしら」などと話を始めた。

 シャーリーは足にやけどをしてしまったという若い女性使用人を。

 ランカは同じく左手にやけどをしてしまった調理人の男性を担当することになった。


 一番に治療を終えたのはシャーリーだった。

 女性使用人の話を聞くと傷を確かめることなく、そのまま包帯の上から光魔法をかけ、光が止むと「包帯を取ってみて」と言った。

 使用人の女性が包帯を取ると、火傷はなくなっていて、痛みもないという。


「ありがとうございます!!」

 女性使用人は大喜びで帰って行った。


「すごいですね。シャーリー様の能力はすごいです!」

 

 神官に褒められ、シャーリーは少し申し訳なさそうな表情をした。

 それが神官や周囲の人には奥ゆかしく見える。


 シャーリーは神殿でかなり特訓を積んでからここに来たのだ。

 これで、アカリ王女やランカ様より認めてもらえるかも……、そう思いながらも、少し居心地の悪さを感じていた。


 次に治療を終えたのはアカリだった。


「痛みが治まりました!」

「でも、またぶり返すかもしれないから、その時はまた来てね!」

「いつもありがとうございます」


 常連の女性使用人はお礼を言いながら帰って行った。


「ランカはまだ?

 最初ですもんね……。シャーリーはすごいわね!」

 

 アカリに褒められてシャーリーは照れながら、ランカの方を見た。


 ランカは男性の調理人の左手の火傷を確認していた。


「右手で持っていたオーブンの鉄板を落としそうになり、思わず左手でつかんでしまったと……。

 右手、右腕に違和感は?」

「そういえば、右腕に力が入らないと感じることが、稀にあります、でも、本当にごく稀で、一瞬で」

「痛みは?」

「……その時だけあります」

「筋かな? 剣の練習で同じように痛む人のことを聞いたことがあります。

 まず、火傷を治してから、右手も見ましょう」


 ランカの治療は変わっていた。

 火傷の左手ではなく、右手を取ると目を閉じて祈り、光を発現させたのだ。

 火傷に光が集まり、中から新しい皮膚が生まれ出てくるように……、美しく火傷が治った。


「わかりました。

 右腕の筋、物をつかむ時は大丈夫だけど、持ち上げる時ですね。その筋が痛んでいるみたい。

 治します……」


 またランカが目を閉じた。今度は柔らかい光が満ちる。

 調理人の男性がうっとりとした表情をした。


「ああ、温かい……」

「……終わりました。どうですか? 何か……、この本、鉄板と同じくらいかしら、持って見て?」


 調理人は大きく分厚い本を右手のひらに乗せて持ちあげてみた。


「大丈夫です! 持ち上げても痛くない!!」

「良かった。これで他に怪我したり火傷したりがなくなると思います」

「ありがとうございます。

 炎家のランカ様ですよね?!

 こんな使用人にまで丁寧に見て下さって、ありがとうございます」


 ランカは微笑んで使用人を見送った。


「ランカ、ずいぶん時間がかかってたわね!」

 アカリが声をかける。


「ええ、初めてだから、試行錯誤で!

 アカリ様もシャーリーもすごいわ!

 すぐ治しちゃって!」


 微笑むランカを見て、シャーリーは心の中で不思議な思いを感じていた。

 この人こそ本物の聖女だという気持ちと、この人には負けたくないという気持ちと。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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