4 水家と炎家
水家のミナモの部屋のベッドにミナモが横になり寝ている。
傍らに椅子を置いてもらい、ランカはそれに座って、ミナモの手を握っていた。
シズクが様子を見に行くと、ミナモの瞼がぴくぴくした。
シズクはニヤリと笑ってから、ランカに微笑んだ。
「ランカ、疲れたんじゃない?」
「でも、私が寝ちゃうと手を放しちゃうかもしれないし……」
「それはこうすればいいのよ」
シズクは握り合っているふたりの手を指の間に指を入れ込む握り方に変えさせた。
ミナモの頬がひくついているがランカはそれに気がつかない。
「それで、椅子で寝ると身体によくないから、ランカもほら、ベッドに横になりなさい」
シズクがランカの靴を脱がせ、強引にベッドのミナモの横に押し込もうとする。
「えっ? でも?!」
ランカがあわてているがシズクに「治療中なんでしょ!」と言われて、頷いた。
「一緒に横になってれば、寝ぼけて手を放しちゃうこともないか……」
「そうそう!」
ランカは「失礼します……」と言いながら、ミナモの横に身体を滑り込ませた。
「ゆっくり休むのよ!」
満足気なシズクは部屋を出て行き……。
「あ、でも、これだとミナモの顔が見えない……」
ランカが独り言を言って頭を上げてミナモの顔を覗き込もうとする。
さすがにミナモは寝たふりが辛くなって、空いている左手で自分の顔を覆った。
「ミナモ? 起こしちゃった? ごめん! それとも何か変?」
ランカがミナモの顔をさらに覗き込もうと身を乗り出した。
「見るなよ、恥ずかしいだろ……」
ミナモの言葉と手の隙間から見える顔やその周囲の肌が真っ赤になっていることに気がついたランカは、自分もミナモの身体の上に手をかけて身を乗り出していたことに気がつき、真っ赤になり、あわててミナモの横に小さくなった。
「ごめん……」
ランカの言葉にミナモは身体をランカの方に向けて軽く抱きしめた。
「ごめんじゃないよ。
ありがとう、助けてくれて。
ランカがこんなに近くにいてくれるのが、うれしい」
「近くって……、近過ぎ……。子どもの頃みたいだね」
水家と炎家は上の姉達が幼い頃より一緒に過ごすことが多く、ランカとミナモも他の五聖家の友に会うより前に出会っていて一緒に過ごすことが多かった。
水家と炎家の主同士もお互いを認め合う親友のようなライバルのような関係で、四聖家の中では水家と炎家は特別に仲が良いと思われている。
「ランカは……、いや、その、助けてもらったから言うわけじゃないけど……。
俺は……、ランカが好きだよ。
ブライト様とラッシュが婚約者を決めたら、ランカに申し込むつもりで……、でも、なかなか、その……」
ランカがくすっと笑った。
「そうだね、ブライト様が決まらないと、ラッシュ様が決まらないし……、どうなってるんだろうね。本当に」
その柔らかい口調と声が自分の腕の中から、息づかいや声の響きまでが身体に響く。
ミナモはつい抱きしめる腕に力を入れた。
「ミナモ?」
ランカの怪訝そうな声。
「ランカは? ランカは俺のことは……」
ランカはミナモの胸の鼓動を感じて微笑んだ。
「私はミナモのことが好きだよ。
いろいろひどいこと言われてたけどさ……」
「! その、あれは照れ隠しと言うか、あまり、周りにランカがかわいいとか女らしいとか思って欲しくなくて……」
「うん……、何となくはわかってた。シズクにもそう言われてたし」
「シズクが?!」
「うん、本当に素直じゃない弟でごめんね、見捨てないでやってくれるって」
「あ……、そうなんだ」
「うん、面白いよね、シズクって」
ふたりで顔を見合わせ笑っているとドアが開く音がした。
「おいおい、なんでうちの嫁入り前の娘が?!」
ランカがあわてて上半身を起こして言った。
「お父様、これは看病で!」
「あー、ランカ、光魔法が発現したんだって?」
「……そうみたいです」
「何か事前に気づいていたとか、前兆を感じたことはなかったのか?」
「……特に……ありませんでした」
ランカにしては少し歯切れが悪い。
「まあまあ、ミナモを助けてくれたのだから。
ランカ、うちのミナモを助けてくれてありがとう。
ずいぶんひどい怪我だったらしいな」
水家の主、ミナモの父親が割って入ってきた。
ミナモも上半身を起こすと炎家の主、ランカの父親に向かって言った。
「その場で死んでいてもおかしくない怪我でした。
ランカに救っていただき、ありがとうございます。
それで、お願いがあります。
ランカを嫁に下さい!」
炎主は顎をぽりぽりかきながら言った。
「それはとうの昔から考えていたことなんだが……。
水のそっちは異存はないか?」
「ああ、ランカなら喜んで迎えるよ。
ただ……、今回はいろいろ荒れるかもな」
「ああ、ランカが『聖女』となると、妃候補でいきなり有力株に繰り上がるだろうな。
それに市井の平民からも『聖女』が出現したらしいって」
ランカとミナモが不安そうに父親達を見ている。
それに気がついた水の主が言った。
「安心しろ、ランカとミナモの婚約は水家と炎家の約束ということでできるだけ押し出すから。
まあ、婚約前からいい歳頃の男女が同じベッドで寝ていることからして責任を取らなきゃならんだろな……」
ミナモがあわてて叫んだ。
「これはシズクが!」
「あら、私のせいだけじゃないでしょ。
ふたりにその気がなければ、そうはならないはずよ」
からかうような口調で、いつの間にかドアの前に来ていたシズクが言った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
できるだけ投稿時間を同じにしたいと思いつつ、春休みで子どもが家にいて、しばらく時間が読めません……。
学校が始まれば以前のように朝7時前後投稿に戻ると思います。
それまでは時間がまちまちになりますがどうぞよろしくお願いします。