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38 もう片方の真実

 その日の夜、シズクの部屋にミナモが訪ねてきた。

 シズクが「わたし、席を外しましょうか?」と言うが、ランカが「一緒にいて欲しい」と引き留める。


「一緒でいいよね?」

 ランカの言葉にミナモも頷く。


「フウライと話した。

 フウライというか……、ダーシーとエステルに、俺は謝らなくちゃいけないんだ。

 ランカ、ここからはエルラドとして記憶を話すから聞いて欲しい。

 私は地下牢に監禁された。父にね」


 ミナモが語るエルラドの記憶はエステルの記憶と裏表のようでありながら、少しずれていて……。


「父は私とエステルの婚姻の届けを出し、そして、私の行方がわからなくなったということにしたんだ。

 そのことで神殿の追及をかわし、そして、家の者になったエステルを自分の意のままにしようと……。

 治療をさせられただろ? 金を取って?」


 ランカは頷いた。


「……それだけじゃなかったんだ。

 あいつはエステルを売ろうとしてた」


「売るって?」

 シズクが思わず声を上げてしまい口を押さえた。

 ランカは顔をしかめて「身体を売らせるってこと? でも……」と呟いた。


「そう、エルラドは、兄のダーシーにエステルを守ることを頼んだんだ。

 ダーシーは領主を継いだばかりで、まだ父に実権は握られてた。

 私達を助けようとはしてくれてたが、あまり表立って動くとダーシーもどうなるか……。

 でも、ダーシーは領主だ。私は地下牢に囚われていて、妻を置いて逃げた者とされている。

 エステルをダーシーの妻にできれば、父の自由にはできないのではと考えた。

 だから、ダーシーに……」


「私を助けようとして? エルラドに頼まれて?

 ダーシーは……、仕方なく?」

「ああ、エステルを……、弟から奪ってほとぼりが冷めたら妻にするという理由をつけて……。

 父の目を欺くために、エステルには私との約束は言わずに……」


 ランカが身体をぎゅっと抱きしめて目を閉じ、身体を折り曲げるように縮こまる。


「ランカ!」

 シズクがそんなランカを庇うように抱きしめた。


「大丈夫……、確かに、ダーシーにしか触れられていない。

 私を守ってた?!

 知らない人にお金で買われるくらいなら……。でも……」


「ごめん。私がそう頼んだ。

 エステルができるだけひどい目に合わないように。生きていてくれるように」

「わたしも、そう思ってた。エルラドが生きていてくれるようにって!

 なのに!! なんで!!

 私を置いて逃げれば良かったのに!!」


「できなかった。愛してたから……」

「目の前でエルラドが殺されて……、そんなの一番ひどい目だ!!」

「ごめん……。

 で、私が死んだ後、エステルも後を追ったんだよな……」


 ランカが頷く。

「ダーシーを憎んでたけど、それは間違ってた? でも……」


「フウライは、エステルがダーシーを憎んだまま、死んだとわかっていたから……。

 エステルにはエステルの。ダーシーにはダーシーの。エルラドにはエルラドの、それぞれの思いがあって」

「……何をどうしたらいいの?」

 ランカが途方に暮れたような表情で呟く。


「何もしなくていい。それは前世の話だから。

 ダーシーはエルラドをエステルを一緒の墓に葬ってくれたそうだよ。

 そして、父から少しずつ権力を奪い……、最終的に追い出して、死なせたそうだ。

 エルラドとエステルの復讐としてね。

 ダーシー自身は結婚もせずに、家族も作らず、ひとりで亡くなったそうだ。それが自分にできる罪滅ぼしだと」


 ランカが怯えたような表情をした。

「フウライはまだ、そう思っているの?」


 ミナモは頷いた。


「ランカが14歳の成人の儀の時、白い服を着て髪を大人っぽく結い上げていただろ。

 その時にエステルのことを思い出したって。

 ダーシーはエルラドとの約束を守ったんだけど、エステルのことを愛してもいたんだ。

 でも、今度もランカと俺のことを守らなくちゃと思ったそうだ。

 俺とランカがこうならなければ、また違ったのかもしれないけれどって」


「私はその前から、思い出していて、フウライを怖がって……。

 だから、フウライは私と話をしたがっていた?

 記憶があるかどうか、気にしてた?」


 ミナモが懐から布を取り出した。

「これ返すって」


 ランカが受け取り布を開くと小さなリボンがそこにあった。


「これ、巡回の時の!」

「フウライはランカのこと……、前世のこともあるかもしれないけど、本当に好きだったんだな。

 でも、今度こそ、俺と一緒になって欲しいとも思って。

 俺との婚約が成って、ランカに振られてこの話はおしまいだって。

 これからは五聖家の家族のひとりだと思って欲しいって」

「う……、わかったけど……」

「俺は水家のミナモとして、風家のフウライは五聖家の兄貴分だと思っている。

 ランカもそう思うだろ?」

「思うよ。フウライはとても頼りになる。とっても……」

「なら!」

「ミナモ、ちょっと待って! ランカを追いつめないで!」

 シズクがミナモを睨んだ。


「……追い詰めるって?」

 ミナモが怪訝そうな顔をする。


「前世のことを思い出したから、ランカはミナモを選んだの?」

 

 シズクの言葉にランカは叫んだ。


「そうじゃない! ミナモとは……」

 ランカの脳裏に今までのミナモとの思い出が浮かんだ。


「なら、胸を張って! ミナモと生きていけばいい!

 前世のことはこれでおしまい。それで今のことを思い出すの!

 今日は一晩、初めて会った時のことから振り返るわよ!」


 シズクの言葉に、やっとランカが微笑んだ。


「初めてランカと私が会ったのは、ランカが生まれて半年ぐらいかな?

 ミナモはもう少し大きくて、父がミナモを抱っこしてて……」

「そこから?!」

 ミナモが言って、ランカを顔を見合わせて笑った。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

次が最終話になります。

五聖家、書いてて楽しかったです。

最初、息子に設定を聞かれて説明し、炎と水と風と砂と光と説明したら「何で砂?」と言われました。

「砂だけ弱そう」と……。

砂の魔法は考えるの面白かったです。

後もう少しですが、五聖家のみんながどうなるか。

最後までお付き合いいただけたら、うれしいです。

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