37 失恋と本当の恋
広間を出て、それぞれの屋敷に戻ることになる。
フウライはシャーリーを連れ帰るために、迎えに行った。
「シャーリー、風家で御両親とテオドアが待っている。行こう」
「はい! フウライ様!」
フウライと一緒に歩き出そうとするシャーリーにブライトが声をかけた。
「シャーリー……、君も私のことはもう共に生きていく伴侶だとは見てくれないのか?」
シャーリーはブライトをしっかり見て言った。
「申し訳ありません。
前にお話ししたように、ブライト様に近づいたのは……、命令をされていたからです。
ブライト様はいい人ではありますが……。
友人としてなら……」
「そうか……、わかった」
ブライトががっくりして呟いた。
「私は何をやっていたんだろうな……」
フウライはブライトが声をかけて来た時、気を利かせて少し離れたのだが、ブライトとの話を済ませて自分に駆け寄ってきたシャーリーに言った。
「君も失恋したばかりか……」
「失恋なんかしてませんよ」
「……ミナモは?」
「あれは、勘違いでした。ランカ様に対抗して、変な気持ちになってたんです。
それに……、今、私、本当に恋しています。
今度は本物ですよ。きっと、そう」
「……ミナモ以外に?」
「はい! フウライ様に!」
シャーリーがフウライを眩しそうに見て微笑んだ。
フウライが目を丸くして……、そして、微笑んだ。
フウライとシャーリーがエントランスに行くと、すでに風家のアラシとフウが待っていてくれた。
しかし、アラシはフウライに、フウとシャーリーを連れて先に帰るように言った。
フウライは頷いて馬車にフウとシャーリーを乗せ、自分は馬で先導することにした。
気がつくと砂家もサーベイが残ることになっていた。
風と砂、何か文書絡みの仕事だろうか?
フウライがそんなことを考えながら水家と炎家の方を見ると何か揉めている。
「お願いします! どうしてもランカと話をしなければならないことがあって!」
ミナモがランカを水家に連れていきたいとオウカに頼んでいるようだ。
確かに気持ちはわかる。
前世の記憶を取り戻してから、ふたりで話をすることができていないのだから。
「あ、フウライ、明日、水家に来てくれ!」
ミナモがフウライに気がついて声をかけてくる。
「ミナモ……、わかった。
オウカ様、ランカを今日は水家にやることを許してやって下さい。
私も明日、ふたりと話をしたいので」
オウカは大きくため息をついた。
「はあ、わかったよ。
カレンはすぐに嫁に行っちまいそうだが、ランカはもう少し炎家にいてくれそうだしな……。
わかった。
ランカ、今日は水家に行っていいぞ」
「ありがとう! お父様!」
ランカがシズクとミナモの間に挟まれてお礼を言う。
フウライはそんなランカを見て笑った。
ランカはランカだ。
ミナモの話を聞いても大丈夫だろう。
そして、明日の朝、笑って自分を迎えてくれるだろう……。
そう思えた。
子ども達と炎と水の主が帰ってしまうと、アラシとサーベイはローズを訪ねた。
ローズは驚いたが、ふたりを迎え入れてくれた。
「あの時はすまなかった。
四家のことで……、最後までローズをと思いきることができずに、あきらめて……」
アラシがローズに謝った。
ローズはふーっと息を吐いた。
「もう、過去のこと。
今回、私は今の子ども達と関わったことで、いろいろ感情を揺すぶられました。
過去の苦しかった時のことも思い出したし……。
フウライとランカのこと。そしてアカリのこと……。
あなたに振られたとわかった時は、アカリの様に泣きましたよ。
アカリの姿を見て、思い出しました、あの辛さを……。
でも、わかったの。
私もアカリと似ているところがあったことに。女子からはあまり好かれていなかったわね。
だから、ランカの巡回に何人も五聖家の者がついてくるのが羨ましかったり、フウライがランカに振られるための話し合いを望んだのを、アラシと重ねて、いい気味だと思ったり……。
自分の心をいろいろ知ったわ。ここまでアラシのことを引きずっていたのかと自分でも驚いた」
「ローズ……」
アラシが申し訳なさそうに名を呼んだ。
「いいの、わかってる。
本当にもう過去のこと。
私がひとり意地になってたことも……」
「……それで、アラシのことは過去になった?」
サーベイがローズに微笑んだ。
「ええ、もう吹っ切れました」
「なら、今更だけど、私の気持ちを伝えてもいいか?」
「……はい」
「私はローズのことが好きだった。
でも、君にはアラシがいて……。
アラシと家の問題で別れるとなった時に、私はアラシのことをまだ愛している君に告白はできなかった。
もし君が、アラシとのことを過去にできて、前に進むことができる時が来たら……と思っていて。
それは、来なかった。
私は君をあきらめて前に進んだ。
シャムザ、サライ、サーシャとかわいい子ども達に恵まれたよ。
そして、今、私には妻はいない。
ローズも次の一歩を踏み出せる準備ができたのなら、私の手を取ることを考えてはくれないだろうか?」
ローズは微笑んだ。
「……兄にサーベイに嫁がないかと言われて……。
その時は家同士のバランス? 私は光家の褒美の様に扱われるの? と憤慨したけれど……。
サーベイのことは好きよ。
友人としてのサーベイしか知らないけれど、恋人になるのも……、妻になるのもいいかもね。
もういい歳の大人がこんなことを言うのもだけど……。
友人から恋人に向けて付き合いを重ねていければ……」
「それでいい。よろしく頼む」
「こちらこそ」
アラシが寂しそうに言った。
「私は近くにいない方がいいのか?」
「そうね、サーベイと本当に恋人になれるまでは、私がサーベイと過ごす時は遠慮して頂けるとうれしいわ」
ローズの言葉にアラシが苦笑した。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
後2話で完結です。
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後もう少しですが、最後までお付き合いいただけたらと思います。




