34 思い出した過去
「そうか、そう見えるのか。
わかった。そこは変えていくことにしよう。
お前は不公平だと言ったが……。
お前とお前の領地の民の在り方は不公平ではないのか?
かなりひどく……、自分の懐に入れる分の追加税を課している上に、労働もさせているようだが……。
そこから搾り取った金を神殿や王都の貴族との繋がりに使っていたのだろう。
それは上に立つ者として驕っているとは違うのか?」
ハイリネンは少し躊躇したが叫んだ。
「私がもっと上に行き、力を得れば!
私の民に還元するつもりだった。
それに……、上に立つ者がいい暮らしをするのは当たり前だろう!
五聖家だってそうじゃないか!」
「もっと上に? それはいつだ?
民はいつかではなく、今、幸せでなくてはならないのだ」
神官長が我慢できなくなったように叫んだ。
「お許し下さい!
私は神殿の働きをもっと認めて頂きたいと願い!!
そうです、神殿の聖女の名がもっともっと広まれば、王の、光家の、御威光を皆が知ることにもなるでしょう!」
「そなたは言っていることと、やっていることが正反対のようだな……。
そのような者に、大切な神殿を任せるわけにはいかない」
「いや、王!
私は……、そうです、ハイリネンの暴走を止めるためにわざと!」
フウライが思わず叫んだ。
「見苦しいぞ! 神殿長でありながら、ハイリネンと結託して、聖女シャーリーの家族を人質に取り、脅していたことはわかっている!」
神殿長は「シャーリーが?」と呟いてから、はっとしたように王に向かい話を続けた。
「シャーリーの方が、私達より五聖家に対して攻撃する気を持っていました!
そうです!
むしろシャーリーが!!
私達はそれに引きずられて……!!」
ハイリネンも神殿長の言葉に元気を取り戻したかのように叫び出した。
「そうだ! シャーリーは五聖家を憎んでいた!
そうだ、そう、私達はその聖女の力に誑かされて……」
王はため息をついた。
「シャーリーがしたことは……、すでに五聖家の子ども達に許されている。
それぐらいのことだよ。
お前達ふたりがシャーリーの力が発現する前から、そのようなことを企んでいたことはもうわかっている。観念するんだな。
ただ、貴重な意見はありがたく頂いておこう」
ハイリネンと神殿長は王城の騎士に引ったてられて、連行されていった。
「ミナモ……」
ランカが心配そうにミナモを見て、名を呼んだ。
ミナモは視線を彷徨わせていたが、急に目が覚めたような表情になり、ランカを見て、そしてフウライを探した。
フウライと目が合う。
「兄さん……」と呟く。
ランカが怯えたような表情をした。
「思い出したの……?」
「ああ、思い出した……。
ハイリネンが……、前の、俺達の父親だった……。
俺が……、いや、私がエステルを自分の故郷に連れて行かなければ……」
ランカが首を振った。
「ううん、そんなことはない。そんなに自分を責めないで」
フウライはふたりの異変を感じてそばに行こうと歩き出したが、途中でオウカに捕まってしまう。
「フウライ、テオドアを水家から風家の屋敷へ連れてってやれ。
後でそっちにシャーリーが行くんだろ?」
「……そうです。みなさんは?」
「俺達はとりあえず王城へ戻る。
テオドアを両親のところに届けたら、フウライも来い」
「わかりました……。
本当に、人使いが荒い……」
「お前なら、ちゃちゃっとなんとかできるだろ?」
「はい、そうですけど」
スイレンが大きな声で呼ぶ。
「ミナモ! フウライと一緒に行け!」
ミナモがフウライの方へ行こうとすると、ランカが手をつかんで「大丈夫?」と言った。
「うん、大丈夫。
ランカこそ、大丈夫?」
「うん」
ランカは泣きそうな表情で頷いた。
そんなランカを見て愛おしいと思う気持ちと守りたいという気持ち、どこかに守れなかったという苦い記憶が……。
「ミナモ! 行くぞ!」
フウライの声に「今、行きます!」と返事して、ミナモはランカに囁いた。
「大丈夫。フウライとも話をしたいところだったし」
「絶対、戻ってきてよ……」
ランカの声が震えている。
ああ、あの時も、こんな感じでダーシーに呼ばれて、エステルから少しの間だけと離れて……。
「絶対、戻ってくる。
今はもう危険なことはない。もし、何かあってもランカや親父達が黙っちゃいないだろ?!」
「……そーだねっ!」
ランカは涙目だが、にっこり笑った。
フウライはすでに馬に乗っていたので、ミナモもあわてて馬に乗ると駆け寄る。
「いいか、ちゃんとついて来いよ!」
「はい!」
フウライが意外そうな顔をする。
「ん? なんか素直になった?」
ミナモは苦笑して言った。
「王城に行く前に少しお話したいことがあります。
後で時間を下さい」
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。




