29 嫉妬
「私は弟を助けたいという気持ちと祈りが発現のきっかけでしたけれど。
その後、なかなかうまくできなくて、神殿ですごく練習をして、実際に体験を積みましたよ。
その努力があったから……、今の私がいます」
「そうなの?
そんなこと誰も言ってなかった……」
「ええ、神殿や他の貴族に思うところがあったからでしょう。
五聖家出身の聖女より、平民出の聖女の方が力が強いって周囲に印象付けたかった、とかね」
アカリが驚いて目を見張る。
「それって、五聖家に対して……」
サーシャは笑った。
「そうですね。五聖家に対して、そのように思う者もいるということですよ。
でもね、私と同時期にランカ様の聖女としての力が発現して……。
ランカ様こそ、今の世では一番力のある聖女でしょうね。
そして、私はアカリ様と同じく、ランカ様に嫉妬したんです」
「嫉妬……」
「私はアカリ様とブライト様に謝りたい。
そして、ランカ様にも……。
後で、ブライト様と一緒に、私の話を聞いて下さい」
「……シャーリー? 何があったの?」
「私を取り巻く環境が変わったんです。
やっと、私、自分の気持ちを自由に話すことができるように……。
それで、身分とか、育ちとか、力の差とか、そんなことを僻んでいた自分に気がつきました……」
「身分に僻む? 平民ということ?」
「ええ、私は貴族よりも上の五聖家のみなさまを、生まれだけ高貴な……、楽をしている人達なんだと。
ずるいと、思っていました。だから、傷つけてもいいのだと……。
アカリ様も同じですよね」
「私が、同じ?」
シャーリーが微笑んだ。
「アカリ様は自分が五聖家の中では王家でもある光家であること、そのために力を持たなくてはと。
平民である私より、炎家のランカ様より、優れていないといけない、と苦しまれていたのでしょう?」
アカリは泣きそうな表情で頷いた。
シャーリーに言われて気がついた。
いつの間にか、最初の時の様にランカやシャーリーのことを『すごい! すごい!』と無邪気に言えなくなっていたことに……。
その気持ちの持って行き場を……、ランカが自分に意地悪をしている人だということにしてすり替えて……。
「私はランカに嫉妬していたの?」
「……自分自身に向き合って、考えてみて下さい。
そして、これからのことを考えましょう」
「これからのこと?」
「ええ、これからどうしたいか。私は……」
◇◇◇
フウライは王城に登城してきたシャムザ、シズク、ラッシュ、サライ、ミナモにブライト王子のことを託し、一度水家に戻った。
残りの子ども達を登城させるべく、そして炎家のオウカに許可を取るためである。
「カレンとランカとカエンも一緒に王城へ。
ブライト、シャーリーはもう無茶なことは言わないでしょう。
アカリ様も……、ブライトとシャーリーがみんなに謝るところを見れば、気持ちを入れ替えるのではないでしょうか」
フウライの言葉に、オウカはスイレンを見た。
「水の、どう思う?」
「フウライに賛成だな。
ブライト様、アカリ様の今後が決まることになるだろう。
炎家だけ、その場にいなくていいのか?」
「……それもそうだな。
よし、自主的な登城禁止はやめだ!
俺も行くぞ!」
「えっ? そこはフウライとシャムザ達に任せては?」
「いやいや、この機にランカとミナモの婚約を王に認めさせないとな」
フウライはそんなオウカを見て笑った。
「スイレン様はいいんですか?」
「何を?」
「ラッシュ様はシズク、とですよね」
「えっ?」
「ああ、フウライ、お前気づいてたか!」
オウカがにんまりした顔をスイレンに向ける。
「え?」
「いいな、姉弟揃って、めでたいな!」
オウカが大きな声で笑ってから、真顔になり言った。
「フウライ、炎家の3人と俺も登城する。
他の子ども達もみんな連れて行くから。
テオドアも連れてっていいのか?」
フウライは戸惑った。
「あ、そうですね……。姉が謝っている姿を見せるのは……」
「わかった。テオドアはこのまま勉強に遅れが出ないようにと屋敷に留まらせる」
「オウカ様、ありがとうございます」
「おい、ここは私の屋敷なんだが……」
スイレンが苦笑いを浮かべた。
◇◇◇
「シャーリーの両親が消えただと?!」
神殿では神殿長が報告を受けて叫んでいた。
「ハイリネン様に連絡を!」
神殿長はあわてて自分はどうするべきか考えた。
たぶん、四家が動いたのかもしれない。
しかし、まだはっきりとはしていない……。
ハイリネンが用心のため、こっそり移動させたのかもしれない。
とにかく、シャーリーにこのことが伝わる前に神殿に戻らせなくては。
その時、ローズが神殿長の元を訪れた。
「今日はこれより王城に行き、シャーリーとアカリの聖女の力がどれほどのものか確認して参ります」
「あ、聖女ローズ様、どうぞ頼みます。
おふたりとも次代の聖女ですからね。
ランカ様はどうでしたか?」
「ランカの能力は素晴らしいです。
もう一人前の聖女として、十分に仕事を任せられます。
今回の巡回も、後半はランカがひとりで対応し、問題はありませんでした」
「それはそれは……。帰りは神殿に?」
「……それは、どういう意味でしょうか?」
「いやいや、特に意味はなく……。
ローズ様がこちらに帰られる時にシャーリーを連れて帰っていただけると……」
部屋のドアが乱暴に開いて、ハイリネンが飛び込んできた。
「シャーリーの両親と弟がいなくなった!
神殿で何か動きが?!
あ、これは失礼、先客が……」
ハイリネンがローズに気がつき、あわてて取り繕い黙った。
シャーリーの両親と弟?
ローズはじろりと神殿長を見た。
神殿長は懸命に無表情を装うとしているが、何か隠している。
ローズは王城でシャーリーに会って確認してみた方が早いだろうと判断した。
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