23 今度こそ
「フウライ! 急いで帰ってきてくれたんだな!」
シャムザの声が王城のエントランスに響いた。
「聞いたのが今日で、詳しいことまでは……。
何が? 今、ブライトは? それにシャーリーは?」
フウライが旅装のまま、シャムザに矢継ぎ早に質問する。
「すまん、カレンと私だけでは防げなかった。
ブライトはシャーリーと急速に親しくなり……、アカリ様もそうだ。
アカリ様が下の子ども達と揉めた時にカエンとの結婚を望まれて。
カレンに迫ったんだ。
弟や父の意向を確認しなければ答えられないとカレンが言ったら、シャーリーが、アカリ様とカエンが婚約ということになると、カレンとブライトの婚約は成らなくなるからカレンは邪魔するだろうみたいなことを言い出して。
そして、シャーリーがランカのことも悪く言い出してさ」
「なんて?」
シャムザがため息をつきながら話し出す。
「アカリ様が受け取るはずだった聖女への称賛とかそういうものをかっさらって行ったみたいなことを。
巡回はアカリ様は元々嫌がってて、それでランカがやるって言ったんだよな……。
それが、ランカがアカリ様より聖女の力があることを見せつけて、巡回の名誉を奪ったみたいな感じになってさ。もう、何が何だか、わからないよ!」
「ブライトは?」
「アカリ様と……、シャーリーと一緒にいる。
アカリ様がそうしないと、周囲に当たるんだ……。神殿に行くのも拒否してさ」
「わかった。ブライトの部屋か?」
「いや……、アカリ様の部屋だ」
「……それは厄介だな。
自由にブライトに会えないというわけか……。
とりあえず、ブライトのところにふたりで行こう」
アカリの部屋へふたりで行き、フウライがノックして声をかけた。
「フウライです。巡回の旅より、今戻りました」
ドアが開けられた。
シャーリーだ。
「フウライ様、お疲れ様でした。
どうぞ! 巡回のお話、伺いたいですわ!」
この女狐め。
フウライは心の中で一瞬湧き起った怒りを、何とか鎮めた。
「ローズ様が中心でしたからね。
何事もなく、無事に終わりましたよ」
「あら、ランカはまた……、ランカ様が引き継いだのではなくて?」
「……仕事の引継ぎはしていましたが、聖女として主体的に動かれていたのはローズ様です」
ランカは後半、ひとりで聖女の仕事を任されこなしていたが、そんなことはお前には、今は教えん。
ブライトがソファに座っている。隣にアカリがべったりと張りついている。
ブライトは何だか疲れた顔をしている。
「ブライト、話がしたい」
フウライの呼びかけにブライトは何か考え込んでいたが、やっと口を開いた。
「どうせ、フウライも私を責めるのだろう……」
フウライは驚いたが、表情を崩さずシャムザと目を合わせてから再度言った。
「責めるも何も、ブライトの口から、今起きていることを聞きたい」
「私からお話しますわ」
フウライとシャムザのそばにいるシャーリーが会話に割り込んできた。
「ブライト王子と一緒にね」
フウライは目を細めてシャーリーを見た。
そして小声でシャーリーに囁いた。
「お前はミナモのことが好きなんだろ。協力し合わないか?」
シャーリーは驚いた表情をしたが、シャムザがそばにいることに気がつき、また微笑みを顔に張り付けた。
「何のことかしら?」
「誰かに頼まれてブライトを誘惑してんだろうが、お前の思い人はミナモだよな。
私もランカが好きだ。お前がミナモの心を奪ってくれたらありがたい。
どうだ? これなら協力し合えるだろう?」
シャムザがこそこそ話をしているふたりを怪訝な顔で見ている。
「……わかったわ。この後、私だけ神殿に帰るから、その時に」
フウライは頷いた。
「では、他の者から先に話を聞くことにするよ。
邪魔して悪かったな」
フウライはシャムザを促して、部屋を出た。
「フウライ、何をシャーリーと?」
歩きながらシャムザが聞いた。
「ちょっと餌をね。
シャーリーがブライトを手玉に取ろうとしているのは、本人の意志じゃなさそうだし、なら、その黒舞と、狙いを知りたい。
シャーリーからそれを聞き出さないと。
神殿にはシャーリーだけが行っているのか?」
「ああ、そうだ。
アカリ様はランカが聖女をやめるまで自分は仕事をしないと言って……」
シャムザの大きなため息。
フウライは友の肩を今までの苦労を労うように肩を軽く叩いた。
「とりあえず、シャーリーが神殿に帰る時に話をするようにした」
「どうやって?!」
「餌をちらつかせた」
「餌?」
「ミナモだよ。シャーリーはミナモが好きだ」
「……え? ブライトは?」
「とりあえず、シャーリーのミナモへの思いを利用させてもらって、神殿や黒幕の情報を引き出すよ。
また、ランカに嫌われそうだな……」
「……フウライ」
「仕方ない……。ミナモとランカを、今度こそ、幸せにしてやりたいからな」
「今度こそ?」
フウライは曖昧に笑った。
「こっちの話だ。気にするな」
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