22 登城禁止
帰りまでの3日間。まだまだ旅は続く。
フウライがまだ話をしたそうに時折こちらを見ていることにミナモ達は気がついていたが、無視していた。
ローズが馬車の中でシズクとランカに謝って、フウライに頼まれたことを話してくれた。
あまりにもシズクやミナモ達がフウライを警戒しているので、普通にランカを呼び出すのは難しいと考え、シズクとランカを引き離すためにあのようなことをしたと。
「ローズ様はフウライがしようとしていることをわかっていたのですか?」
シズクが少し怒ったように言う。
「話をしたかったそうよ。
本当にランカに危害を加えるつもりはなかったそう」
ローズの言葉にランカが頷いた。
「ええ、フウライは……、話をしたかったみたいだけど……、私が怖がって、怒って……。
冷静に対応できなかったことは……、申し訳ないと思うけれど……」
「それにしても、みごとな風魔法だったわね。
今の五聖家の子は女子も訓練しているの?」
「いえ、そこまでは。
ランカは自分で、自主的に男子に混じって練習してましたから。
ランカは炎魔法のほうが得意ですよ。
守るために強くならないとと思っていたんだもんね」
シズクの説明にランカが頷いた。
「そうね、ランカも前にそう言っていたわね……」
ローズは呟いた。
「もうこの話はおしまいにして、王都についてからのことを話しましょう。
ローズ様は王都の神殿に入られて、神殿での治療活動と私達への指導をして下さる、んですよね?」
ランカが意識的に明るい声を出した。
その声の調子に馬車の中の張りつめていた空気がふっと緩んだ。
王都の一つ手前の小さな街に入った時、炎家と水家の主が待ち構えていた。
「え、親父?」「お父様? どうして?」
ミナモとランカが驚いて声を上げ、シズクも驚きの表情を浮かべている。
「本当は砂も風も来たがってたんだが……、光家を刺激してしまうかと遠慮してもらった。
フウライ、すぐに王城に行け。
シャムザがひとりで困り切っている」
フウライが緊張した表情で頷き、迎えに来ていた風家の騎士と話をしながら、すぐに馬で出発して行った。
ローズも緊張している。
「聖女ローズ様、お久しぶりです」
シズクとミナモの父である水家の主スイレンがローズに挨拶する。
「お久しぶり、スイレン、オウカ。何があったの?」
炎家の主であるオウカが腕組みをして言った。
「炎家が王城を出入り禁止になったというか……。今は、自主的に登城禁止にしている」
「「「「「えっ?」」」」」
ラッシュ、サライ、ミナモ、シズク、そしてランカが叫んだ。
アカリの我儘に耐えきれなくなった砂家サーシャの登城拒否から始まり、ブライトがアカリを諭して仲直りをさせようと頑張ったのだが……。
何故か、アカリの怒りがカレンとランカに向かい、アカリが炎家の登城禁止を主張。
それを受けてカレンとカエンは2週間ほど前から登城をやめたこと。
ブライトの側近であるシャムザ以外の四家の子ども達も全て登城を控えていること。
そして、そのような状態なのに、光家から、四家にアカリとカエンの婚約の打診が来て……。
こんな状態で?! いったいどうなっているんだ?! と四家に動揺が広がり、四家の主達が事態の収拾に動き出していること。
アカリが命じた、ランカの登城禁止ということを受けて、巡回から戻るランカの身柄をそのまま神殿預かりとするという通達も来て、炎家は拒否。
こうして王都に入る前に水家と共に迎えに来たということだった。
シズクとランカはあまりの話に想像もできず顔を強張らせた。
「いったい、何が起こっているの?」
シズクの呟きにオウカが答える。
「カレンが言うには、シャーリーという平民出身の聖女が何か……、アカリ様に吹き込んでいるようだと。
そして、ブライト王子も心を持って行かれつつあるみたいだな。
これはカレンも少し予想していたようなんだが、防ぎきれなかったと。
砂家のシャムザもそう言っていた」
ラッシュが「私も急ぎ王城へ!」と言うが、水家の主が「ラッシュ様には四家の子ども達の話を聞いてから、王城に向かって頂きたい」とお願いした。
「……わかった。で、どこで?」
「水家に子ども達は集まっています。これからそちらに」
ローズがランカに言った。
「神殿の方はいいから、一度、四家に戻りなさい。
もしかしたら、神殿から呼び出しがあるかもしれない。
そこは四家で相談して対応を決めなさい。ひとりで判断しないこと。いいわね」
ランカとシズクが頷いたので、ローズは父親達の方を向いた。
「オウカ、スイレン! ランカのこと頼んだわ。
もしかしたら、シャーリーが何かしているなら、神殿も絡んでいるかもしれない」
「ああ、四家でランカは保護すると決めている。四家から出た聖女でもあるからな」
ランカの父親であるオウカがニヤリと笑って言った。
「オウカ、武闘派なところ、変わってないのね!
冷静なスイレンといいコンビだったけれど!」
「そうか、ローズは、スイレンやアラシのような冷静沈着な男が好みだったもんな!」
「……昔のことよ。
ランカは見た目はかわいらしい姫だけど、中身はあなたに似ているところもあるわね」
「おう、それは最上級の誉め言葉として受け取っておこう!」
「ふふっ。
では、私はここから神殿に向かうわ。
神殿の騎士もいるから、護衛は大丈夫よ」
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