20 兄弟の因縁
「お前が殺させたんだろ!
私の目の前で、私を助けに来たあの人を!」
「……それで行くと、あの事故も前世の因縁だったかもしれないな。
あの剣の事故だ。
奴は剣で刺し殺されたからな」
「やめろ!」
「思い出していないのに、また惹かれ合うとはな……。
王城での素振りから、ランカもまだ気がついていないのかと思っていたが……」
その時、ドアの向こうから「ランカ!」「ランカー!」とミナモとサライの声が聞こえた。
「ふたりきりで話せるのはここまでか、残念。
今回も立場は違えど、君を愛する男ふたりというわけだ」
フウライはドアを開け「ミナモ! ここだ! ランカは無事だぞ!」と叫んだ。
ミナモとサライが飛び込んできて、ランカはミナモに抱きついた。
「ランカ? なにもされていない?」
ランカは頷いたが、フウライの一挙手一投足を逃さないように眼はそちらに注いでいる。
「ランカ?」
ミナモが戸惑ったように声をかけてフウライを見た。
「行こう」
サライがフウライとランカ達の間に入ってくれる。
ドアから廊下へ出た時、神官とローズ様が駆けつけてきた。
「ランカ? フウライ!」
ローズが叫び、フウライが肩をすくめた。
「私は何もしていません。話をしようとしたら、ランカが怖がって風魔法で窓を壊しました」
「本当に?」
「そうです。フウライは何もしていない。私が……、ひとりで怖がって、窓を……、壊しました」
ランカが少し悔しそうな表情で言った。
「ローズ様、神官様方、神殿を傷つけてごめんなさい」
「いいのよ、ランカ。それほど……」
ローズは訝し気な視線をフウライに向けてから、ランカに戻した。
「いいのよ、ランカ。気にしないで。ミナモ、サライ。ランカを送ってあげて」
部屋に戻るまでランカは口を利かなかった。
ミナモもサライも……。
ランカとシズクの部屋に着くと、ラッシュとシズクが部屋の前にちょうど戻ってきたところだった。
「良かった、ランカ! 見つかったと聞いて!
あれ、ここ破れてる?」
シズクに夜着の破れを指摘される。
「あ、ここは自分で……、ここについているリボンをちぎって部屋の前に落としたの。
探してもらえた時にすぐ見つかるようにって。
フウライにすぐ拾われちゃったけど……」
「やっぱり、前世の神官がフウライ?」
ミナモの言葉にランカは首を振った。
「ううん、神官エルラドはフウライじゃない……。
でも、フウライは前世のこと思い出してた。
3年前くらいに思い出したみたいなことを言ってた……」
「神官じゃなかったら、誰?」
「神官エルラドの兄のダーシーだよ。領主をしてた……」
「……伝わっている話が違う?」
ランカは泣きそうな顔で頷いた。
部屋に入り、シズクがランカに上着を羽織らせて、みんなでソファに座った。
ラッシュとサライがお茶を入れてくれる。
「王子にお茶、入れさせちゃったな」
ランカがふっと笑って言った。
「落ち着いた?
何があったのか、話せそう?」
シズクの言葉に、頷くランカ。
そして、シズクが神官と出て行ってから、少ししてローズがシズクが怪我をしたと呼びに来て、あわてて付いて行ってしまったけれど、途中で聖女が怪我人を治療せず呼びに来ることがおかしいと気がついたこと。
ローズに大事にしたくないから、シズクとランカを離して連れ出したと言われ、話を聞いてみようと行ったら、フウライが来たことを話した。
「結局、フウライか!」
ミナモが吐き捨てるように言い、ランカはシズクを見た。
「シズクは大丈夫だった?」
「ええ、私は図書室でミナモ達を待つように言われたんだけど、上着を取りに部屋に戻ったの。
そうしたらランカがいなくて、探してたら、ミナモ達に出会って、私が呼び出されたのが嘘だとわかって……。
ラッシュ様に聞いたけど、直前までフウライはラッシュやミナモ達といっしょにいたんですって、だから、フウライ絡みだとはすぐには考えられなかったと……」
「シズクが無事で良かった……」
ランカがぽつりと言った。
沈黙がしばらく続き、サライが言った。
「で、ランカの前世ってどういう話なの?」
ランカが大きな目でサライをじっと見た。
「楽しい話じゃないよ」
「うん、でも、さっきの様子からすると、ミナモも何か噛んでるようだし」
「俺?」
ミナモが驚く。
ランカがふっと微笑んで話を始めた。
◇◇◇
今から、昔々の話。
私はエステルという名で、父は家具職人をしていた。
家族3人、質素に、でも楽しく暮らしていた。
ある時、村に悪い風邪が流行った。
隣の家の弟の様にかわいがっていた小さな坊やが命を落としそうになり、祈ったら光が発現して、坊やの命を助けることができたの。
それから、私には聖女の力があるとわかり、村を出て近くの街の神殿の聖女になった。
そこで修業して、治療や癒しの光の発現が上手になり……、さらに大きな都の神殿に行くことになった。都から若い黒髪の神官が迎えに来た。
それが神官エルラドだった。
旅の中で、私達はたくさんの話をして、助け合って、惹かれ合い、将来を誓い合った。
都に行く途中に、エルラドの家族が領主として治めている領地があり、そこを通って、彼の家族に挨拶をすることになったの。
領地は彼の父と兄のダーシーが治めていて……。
私達は歓迎され、都で神官と聖女として何年か勤めたら、この地方の神殿に戻ってきたいこと。
その時に私の家族も、できたら呼び寄せたいことなど話したわ。
彼の家族は微笑んで話を聞いてくれて、エルラドとふたり、受け入れてもらえて幸せだった。
でも、ダーシー達はすぐにでも聖女の力を利用しようとしていて……。
エルラドを捕えて地下牢に監禁し、エルラドと私の名で婚姻の書類にサインさせた。
エルラドを人質に取られているようなもので、断れなかった……。
エルラドも同じ思いだったみたい……。
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