19 絡まる記憶
「ランカ! ランカ! ランカ、どこ?」
シズクは叫びながら音のした方へ走った。
「シズク! ……ランカは?」
ミナモとサライとラッシュがシズクの声に気がついて追いかけてきた。
「ああ、ミナモ!
えっ、図書室から?」
「図書室? 何?」
「さっき神官が来て、ミナモ達が私にだけ相談があるって、図書室で待つように言われたけど、一度部屋に戻ったら、ランカがいないの!」
ミナモが変な顔をする。
「俺達、自分の部屋で、少し前までフウライが来てて……」
「とりあえず、窓の割れた所へ、俺は行ってみる!」
サライが言って走り出す。
「ラッシュ、シズクと一緒にゆっくり来て!
俺はサライと行きながら、ランカを探す!」
ミナモがラッシュに頼んで、サライの後を追った。
「ランカ! ランカ!」
ミナモが叫びながら追ってきたのを見て、サライが言った。
「フウライはさっきまで俺達と一緒だったから、違う?」
「わからない。
そういう作戦だったのかも?
あの窓が割れた音はフウライが去ってからだし!
とりあえず、急ごう!」
少し前のこと。
早歩きのローズの後ろをついて行っていたランカが足を止めた。
ローズが振り返り言った。
「ランカ、シズクが!」
「どんなケガを?」
「どんなって、そう、手を怪我して、そう、ガラスで切って……」
それでもランカは歩き出さない。
「嘘ですよね?
その怪我なら、ローズ様が治せるし、私を呼びに来るのにローズ様が怪我人から離れるのもおかしい……」
ローズはちょっと笑った。
「シズクは? 先ほどの呼び出しもローズ様が?」
「そう……、シズクを……無事に返して欲しければ、一緒に来ることね」
「どういうことですか?」
「ふたりを傷つけるようなことはしないわ」
「なら、私がここで部屋に帰っても、結果は同じわけですよね」
ローズとランカが強い目でお互いの心を覗き込むように見合った。
「とりあえず、来てちょうだい。どうしても、見せたいものがあるの」
「なんで、こんな手の込んだことを?」
「大事にしたくないから。
そう、シズクは大丈夫よ。少ししたら、自分で部屋に戻るわ。
シズクに内緒であなたを連れ出したかったのよ」
「どこへ?」
「私の部屋に」
「本当にそれだけ?」
「ええ……」
ランカが一瞬考え込んでから、顔を上げると歩き始めた。
ローズの部屋ならば変な話ではないだろうと判断したようだ。
ローズの部屋に着き、ドアを開けると、ランカが少しぐずぐずしている。
「どうぞ」
少し強い声でローズが言うと、ランカは決心したように部屋へ入った。
ローズがドアを閉める。
「とりあえず、そこに座って」
ローズが指し示したソファにランカは座った。
少しすると、ドアがノックされ、フウライが入ってくる。
「フウライ?」
ランカは思わずソファから立ち上がる。
ローズが言った。
「ランカ、婚約を断るにしても、きちんと話ぐらいは聞きなさい。
フウライ、シズクが気がついてランカを探し始めるくらいまでしか時間はないけれど、きちんと話をしたら、ランカを部屋から出すのよ」
「はい、ローズ様、ありがとうございます」
そのまま出て行こうとするローズにランカが叫んだ。
「ローズ様?!」
ドアが閉まり、フウライがランカに向き合う。
フウライが懐から小さなリボンを取り出した。
「このドアの前に落ちていたよ。君の夜着のリボンだろ」
ランカがソファからさらに部屋の奥の椅子の後ろに回り込む。
「話はするけど、近くには来ないで」
フウライはリボンをまた大切そうにしまった。
「なんでそんなに私のことを嫌う?」
「誰だって、苦手な人とか生理的にダメな人っているでしょ?」
「それが私だと?」
「申し訳ないけど、そうなんです!」
「小さな時にはそうでもなかったじゃないか?
何か、思い出したか?」
「何って?」
「私は思い出したよ」
「何を……」
「ランカが14歳になった時だ。成人の儀の時に白い衣服を身に付けて、髪を大人の様に結っていただろ……。前にどこかで会った気がすると……。
前からかわいいとは思っていたが、あの時から私はランカのことを女性として意識するようになった……」
ランカが部屋の中を見回した。
「無駄だよ、防犯上、出入り口はこのドアのみ。窓には格子が造り付けられてる」
「じゃあ、早く話して。聞いたら帰るから!」
「エステル……」
ランカが驚愕の表情を浮かべる。
「やっぱり、エステルなんだな」
「今の私は炎家のランカ!
過去をくり返すつもりはない!」
ランカが窓枠が格子状の窓に向かい風魔法を放った。
格子が造りつけられてるとはいえ、ガラスは割れ、大きな音がして、部屋の中に外の空気が入ってきた。
「抗うと?」
「当たり前だ!
そのために魔法を、剣を必死で身に付けた。
エステルには光魔法の攻撃や防御魔法もできたはずなのに、聖女として治療と癒しの魔法しか訓練していなかったから、抗えなかったと気がついていたから!」
「過去をくり返すつもりはないか……」
フウライは笑った。
「何がおかしい?」
「君達の方が過去をくり返しているじゃないか。
ミナモと……」
「やめろ! 今度は絶対に殺させはしない!」
「あ、気がついてるのか? 知らないのはミナモだけ?」
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