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18 誘導

 神殿から王城に戻ってきたアカリとシャーリーはカエンとフウまでいなくなっていることに驚いた。


 ブライトがサーシャのこと、カエンやフウの気持ちを伝えると、アカリは口を引き結んだ。


 シャーリーが代わりに言った。

「アカリ様が我儘?

 アカリ様は聖女としてこんなに頑張っているのに?」


 ブライトが少し苦しそうに言う。

「アカリが友人を疲れさせたり、苦しませていたのは確かなんだ。

 アカリがもっと周りの人に対して感謝や思いやりを持たないと。

 他人がアカリにやさしくしてくれるのは当たり前のことじゃない。

 アカリも人にやさしくしないといけないよ」


 アカリがここで自分の衣服の太腿部分をぎゅっと手のひらで集めるようにして握り込んで、口を開いた。

「私は王女で、聖女よ。

 みんなが私をたたえてやさしくするのは当たり前じゃない?!

 私がこの身分と力でみんなを支えているのよ?!」


「アカリ? そんな風に思っていたのか?!」

 ブライトがアカリの言葉に驚く。


「そうよ、みんなもっと私に感謝して!

 私は生まれついての聖女なのよ!

 なのに……、なのに……、そうよ、カエンは?!

 私、カエンと将来結婚したいの!

 カエンは私のことを好きじゃなかったの?」


 カレンが椅子から立ち上がり、アカリのそばに行く。


「アカリ様、落ち着いてください」

「カレン! 私、カエンが好き! 婚約を申し入れるように言って!」

「それは……、カエンの気持ちもありますから、ここではお約束できません」


「そうよね。

 アカリ様とカエン様が婚約したら、カレン様はブライト様と婚約できませんものね」


 シャーリーののんびりした声が響いた。


 アカリとカレンは驚いてシャーリーを見た。


「だって、そうでしょう!

 炎家の長女が第1王子様に嫁いで、さらに第1王女様が炎家の嫡男に嫁ぐなんて、他の四家から文句が出るんじゃないですか?」


 アカリがカレンを見て言った。

「だから?

 だから、カレンは、私とカエンの間を邪魔するの?」

「邪魔なんてしていません!

 家に帰り、弟と父に話してみなければお返事はできぬと!」

「カレンもランカも、嫌い! もう、炎家は王城に来ないで!」


 カレンが驚き、アカリから一歩遠ざかる。


「今、なんて?」


「だから、炎家は、炎家の者は王城に来るな!」


 アカリが叫び、カレンは大きくため息をついた。


「……わかりました。

 私とカエンは王城に参りません。

 ランカももう巡回も終盤ですが……、王都に帰り次第、王城でなく炎家に帰るようにお伝え下さい。

 ブライト様、シャムザ、それでは私はここで失礼させて頂きます」


 一礼して部屋を出て行くカレン。


 シャムザはブライトとカレンを見やって「ブライト、いいのか?!」と叫んで、カレンを追いかけた。


 シャーリーは泣き出したアカリのそばに行き、抱きしめて囁いた。


「かわいそうなアカリ様……。

 アカリ様は何も悪くないのに……、そうですわ、炎家のカレンとランカがいけないんです。

 ふたりで、アカリ様の邪魔をしてるんですわ……。

 ブライト様もそうお思いになるでしょう?」

「シャーリー? 君は何を?」

「ブライト様は気づいていらっしゃらなかったけれど、カレンはブライト様との婚約を実現するために、アカリとカエンの仲を邪魔しようとしたし、ランカは年長であるという理由で本来ならアカリ様が行くはずだった最初の聖女としての見せ場を奪いました」

「えっ?

 アカリは行きたがらなかったから、ランカが行ったのだろう?」

「そうアカリ様に言わせたのも、アカリ様より目立って周囲の称賛を集めたランカの、炎家の策略なのですよ。

 かわいそうなアカリ様!」


 アカリがさらに大きな声で泣き出して、シャーリーにしがみついた。


 ブライトは困惑していた。

 しかし、シャーリーの話も全くの嘘とも言い切れず……。

 こういうことは、双方の話を聞かないといけないものだろう。




 ◇◇◇

 



 神殿のある街での最後の夜。

 ここから王都までは3日ほどかかるが、この旅で神殿に泊まるのはこれで最後だ。


 ランカとシズクは「後もう少しで王都だね。巡回ご苦労様!」「シズクこそ長い期間ずっと一緒にいてくれてありがとう」と部屋でお互いを労い合っていた。


 そこへ神官がやってきてシズクを呼び出した。


「ラッシュ様とミナモ様がご相談があるとお呼びです」

「ランカと一緒に行っても?」

「いえ、おひとりでいらして下さいと」


「ランカ、鍵をかけて、この部屋から出ないでね」

「わかった。気を付けて!」


 神官とシズクが行ってしまい、ランカは荷物を少し整理することにした。


 部屋がノックされ「どなた?」とランカが聞くと「ローズよ!」との声。


 鍵を外してドアを開けると、ローズがそこにいて「急いで! シズクが!」と言った。


「え? シズクに何が?」

「怪我を! 早く!」


 訳がわからないながらもシズクが怪我という言葉に、急ぎ足のローズについて行くランカ。


 その頃、シズクは神官に連れられて、図書室に連れて来られていた。


「ここで待ち合わせです。お待ち下さい」


 神官が行ってしまうと、シズクは周囲を見回した。

 あわてて薄着で来てしまった。

 まだ来てないようだし、一度部屋に戻って……。


 部屋に戻ると、ドアはすぐ開き、中にランカがいなかった。

 シズクは中に入り上着をつかみながら「ランカ?」と洗面所などを確認したが、本当にランカがいない。


 シズクがあわてたように部屋を飛び出した時、どこかで窓が壊れる音が聞こえた。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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