16 警戒
『巡回の聖女』一行は出発してから2週間、特に問題なく巡回を続けていた。
ランカもローズから指導を受け、だいぶ神殿での儀式や結界の補強の魔法にも慣れてきたところ。
巡回先での治療も神殿が先に聞き取りを行ってくれていて、事前に伝えてくれるのでやりやすかった。
これまで巡回の聖女がローズひとりということで対応に工夫がされてきたのだろう。
ローズから見たところ、ランカは治療も結界の魔法もかなり高度なことまでできている。
自分がランカの歳にここまでできたかと言われると……。
褒めようとランカにそのことを伝えたところ、意外な返答が帰ってきた。
「シャーリーの方が治療や回復の魔法はすごいですよ。
彼女は怪我ならば、一度に複数の人を治療することができると思います。
結界は……、私は属性魔法の使い方がわかってますので、それでかな?
ラッシュ様に光魔法の攻撃と防御も教えてもらってます。
それが結界の力をあげることになっているんじゃないかと?」
「あなたは攻撃魔法も練習しているの?」
「はい、剣もやりますよ」
「……五聖家の姫よね? 必要ないんじゃ……」
ランカはまっすぐローズを見た。
「私が私らしくいられるために。
それに、自分や大切な人を守れるくらいの力は、持っていたいのです」
ローズは微笑んだ。
「そう、今の五聖家はそういう考えなの?」
「いえ?!
これは私だけじゃないかと……。
姉やシズクも属性魔法は使えますが、戦う練習まではしていないかも?!」
「そう、アカリやシャーリーは?」
「……ふたりは聖女の勉強をすることが多くて、どうだろ? よくわかりません」
「でも、あなたの話だと他の属性の魔法の力が高い方が、聖女としての力も高くなるのではということね」
「はい。私だけの話ですけど……」
「次の街からは、ランカ、ひとりで結界の補強をしてごらんなさい。
私は後ろに控えていて、何かあれば手助けしますから……」
「! はい! そうですね。次の巡回からはひとりでやるんだもんね……。頑張ります!」
明日は出発という夜、部屋に入ろうとしたローズをフウライが呼び止めた。
「少しお話を……」
ローズは周囲を見回して誰もいないことを確認し、頷いてから、部屋にフウライを招き入れた。
「お願いしたこと、忘れてはいませんよね?」
フウライが珍しく焦りを表情に浮かべている。
ローズは苦笑した。
「あなた、かなり警戒されてるわね。
ランカだけじゃなく、シズクやミナモやラッシュにまでも……。
もう少し待ちなさい。
巡回の旅の終わりの頃になれば、警戒も緩むでしょう」
「そうですね……。
ミナモやラッシュ、サライとは魔法や剣の練習などで少しは打ち解けられてるかと思うのですが……。
ランカのことになると、彼らは急に態度が硬くなります」
「……何か他に理由があるのかしら?
思いあたることはないの?」
フウライも苦笑いを浮かべる。
「ありません」
次の街の神殿では、ランカがひとりで神殿の儀式と結界の補強を行った。
うまくできている。
治療はローズも一緒に行った。
ローズは、ランカの治療法『原因を探りそこまで治療するという方法』はなかなか優れていると思っていた。
ただし、この方法はかなり高度な光魔法の使い手になっていないとできないだろう。
王都に戻ったら、アカリとシャーリーの光魔法の実力を確認しようとローズは思った。
これからは私が3人を指導しなくてはいけないのだし……。
◇◇◇
「サーシャがお休み? どうして? まあ、いいわ」
アカリが不機嫌そうに言ってから、フウとカエンを見た。
「私は今日は神殿での治療があるから、これから出かけるけど……」
「……アカリ、私はサーシャのお見舞いに行ってこようと思うわ」
「僕もそうしようと思う」
フウとカエンの言葉にさらに不機嫌になるアカリ。
「なんで、カエンも?!
カエンは神殿についてきてよ!」
「えっ?
神殿への送り迎えなら、シャーリーと一緒で、神殿の護衛もちゃんとついてるから、僕はいなくても……」
カエンは前に付き添いをして、かなり長時間を神殿の一室で待っていなくてはいけなかったことを思い出した。
「……わかったわ。そうね、シャーリーもいるし護衛もいる……。
でも、王城に戻ってきたら、一緒にお茶を飲みましょう。
カエン、フウ、それまでにはちゃんと王城で待ってて」
カエンとフウは頷き、神殿に行く馬車に乗り込んだアカリとシャーリーを見送った。
カレンとシャムザ、ブライト王子も見送りに来ていて、サーシャの話になり、みんなでお見舞いに行くことになる。
砂家に到着すると、サーシャがみんなを迎えてくれた。
思っていたより元気そうで、ブライト達が怪訝そうな顔をする。
「申しわけありません。体調がというより、気持ちが、もう王城に行きたくなくて……」
サーシャの言葉にフウが今までのことを話し始めた。
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