15 揺さぶり
アカリとシャーリーは王城での練習のほかに、神殿での治療も始めていた。
一緒に行動している時に、これまでのランカの治療が素晴らしいこと、巡回でもきっと民から感謝され、聖女と認められて、称賛され、愛されるでしょうね! とシャーリーは意図的に話し続ける。
アカリは少し不機嫌になる。
彼女にしてみれば、最初の、一番の聖女は自分なのだ。
聖女として崇められるのは自分であり、シャーリーとランカはそのお手伝いという意識もあった。
ランカやシャーリーより早くに力を発現して、そして光家の王女というプライドもある。
しかし、負担のことを考えて巡回を引き受けてくれたランカを褒めるシャーリーの言葉を不機嫌に遮るのも、聖女で王女らしくない……。
「そういえば、私達が初めて一緒に治療の練習をした時にいらしてた頭痛持ちの使用人さん。
その後、アカリ様が親身になって何度か治療されていたけれど、最近来ていませんね?」
アカリは首を傾げた。
そういえば、今まで常連の様に来ていた使用人達が最近来ていない。
王城の治療の人数が少なくなったこともあり、神殿での治療を始めたのだという話も聞いた……。
アカリは気になり、砂家のサーシャを連れて使用人の様子を見に行くことにした。
頭痛持ちの女性使用人は元気に働いていた。
アカリが「最近、どう? 頭痛は?」と声をかける。
「心配して下さっていたんですね!
それは申し訳ないことを……。
お聞きになってないですか?
先月の治療の時に炎家のランカ様が担当して下さって。
痛みを取るだけでなく、頭痛の原因を見つけて下さったんです。
耳でした! 耳の奥が腫れていたんですって。
治して頂いて、音もよく聞こえるようになりましたし、よく寝られるようになりました!
アカリ様にはいつも痛みを治してもらっていましたけど、ランカ様に耳のことを言われて治して頂いてからはぶり返すこともなく!
そうそう、他の使用人の話も聞きました。
調理人は火傷を見てもらったら、右腕の不調のせいで怪我をしたんだと丁寧に見て下さって、腕の筋まで治してもらったのだそう。
だから、みんなランカ様に見て頂いて、不調の原因まで治って……」
そこまで夢中で話していた使用人は、アカリの表情が硬いことに気がつき、声を抑えた。
「今、ランカ様は巡回の最中ですもんね。
聖女様方に治療して頂ける人が増えるのはとても素晴らしいことですわ。
これからもどうぞ、お見守り下さい……」
使用人は深々と礼をして、仕事に戻って行った。
「サーシャ、これって……。
私よりランカの方が聖女として優れてるって、言われてる?」
サーシャが困ったような表情をする。
「聖女様方って言ってたから、3人に感謝されているんでは……」
「でも、私が治しても治してもぶり返してたけど、ランカが治したらぶり返さなかったってことよね?!」
「アカリ、落ち着いて。
私にはよくわからないけれど、聖女は3人いて、それぞれのやり方や得意なことがあるのでしょう。
アカリは治療が上手くてとても早く治してくれるって聞いたわ」
「そ、そう。私は治療が早いの!
シャーリーも早いけど、ランカは一番遅いわ!
そうよね!
それぞれの得意なことがあって……」
アカリは不安そうな顔をしている。
サーシャはアカリの手を取って、微笑んだ。
「アカリ様はとても頑張っているわ。
聖女としてずっと頑張ってきた。
みんなそれはちゃんとわかってるから、大丈夫よ。
ランカやシャーリーが聖女だとわかる前は、アカリ様がひとりでみんなの治療をしていたんじゃない!」
「そう、そうよね!
でも……、ランカやシャーリーの方が優秀なら、私は聖女をやめてもいいってことにもなるのかしら……」
「えっ? それは、違うのでは?」
サーシャが不安そうな顔をする。
そこへ、フウとカエンがやってきた。
「探したよ! こんなところにいたんだ!」」
カエンが走ってくると、アカリの表情が輝いた。
それを見て、逆に表情が暗くなるサーシャ。
「カエン! フウ! ごめんなさいね。
ちょっと……、サーシャがひとりで行くのが怖いからついてきてって!」
「えっ?」
サーシャの顔が強張る。
「なんだサーシャ、アカリに頼ってばかりだなぁ」
カエンの言葉にアカリがうれしそうに「そう、サーシャはいつも私に頼ってくるのよね」と言っている。
「私が言われたの……。アカリに、ついてきてって……」
サーシャの言葉を聞かずにアカリとカエンがもう歩き出していて、サーシャは立ちすくむ。
フウはサーシャのそばで首を傾げた。
「何があったの?
本当にサーシャの方から誘ったの?」
サーシャは泣きそうな顔で首を振った。
「私、私……、ランカが帰ってくるまで、もう王城に出てきたくないっ!」
「どうしたの? サーシャ?」
「……アカリにとって、私は友ではなくて、使用人と同じような……。
それに、私……。だんだん、アカリが嫌いになって……、嫌いになってしまうっ!」
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