表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/39

14 暗躍

「夢? 前世? でも、聖女だった夢か……。

 ランカに聖女の力が発現したことを考えると、ありえそうな話だよな」

 サライが言うと、ラッシュも頷いてから言った。

「あの誰にでもやさしいランカが苦手というくらいだから、その前世で何があったんだろう?」


 ミナモはため息をついた。

 サライがそれを見て言った。

「そういや、図書室……、調べたの?」

「……ああ、ランカの言ってた聖女は実在してて、本当に殺されてた。

 聖女の力を発現して、その街の神殿で活動してたけれど、優秀だったことから今の王都の神殿、そこが中世でも一番大きな中心だったから、そこから神官が迎えに来て……。

 でも、その神官が、その聖女に惚れてしまい、自分の出身の領地に寄った時に、聖女を自分の妻にしてしまったそうだ……、閉じ込めて、逃げ出そうとした聖女を……、殺したと……」


「うわ……、それは……、ランカにその記憶があるってこと?!

 それは、本当にきついよな……」

 サライが顔をしかめた。

 

ミナモが呟く。

「まあ、その神官=フウライと、そっちも生まれ変わってるなんてことはありえないんだろうけど……。

 ただ姿形が似ているということなんだろうけれど……」


「そうだな。フウライには言いづらいし、それは黙っているしかないな……」

 ラッシュがふたりを見回して言った。


 サライが不思議そうにぽつりと呟く。

「でも、なんでフウライついて来たんだろう?」


 ミナモがサライを見る。


「だって、フウは俺の婚約者だから誘ったんだよ。

 フウがいるなら、フウライもついてくるの、わかるんだよ。

 いわゆる兄としてね。

 でも、フウはいない……」


「五聖家を揃えたかったんじゃないの?」とラッシュ。


 サライが考え込みながら話を続ける。

「うん、でも……。

 フウライはただ、ランカが好きで婚約を申し込んでいるんだろ?

 ミナモとの婚約が決まらないから、そっちもまだそのまま保留されてるってこと……。

 その……責任問題とかが起きれば……、悪い、俺、今、悪いこと考えた」


 ミナモが厳しい表情で言った。

「いや、それも考えられるよな。

 もし、フウライが前世の神官と同じようなことを考えないとは……」


「おい、それは過去は聖女と神官だから……」

 ラッシュが言いかけて黙る。


 ミナモはそれを見て頷いた。

「そうなんだよ、今なら、ランカに対して責任を取ると言って結婚に持ち込むことができる。

 ランカはフウライを怖がっている。シズクにも伝えておいた方がいいよな……」



 ローズはフウライに話があると言われて、神殿の神官に頼んで治療用の部屋を貸してもらい、フウライと向き合って座っていた。


「お話とは?」


 フウライが決心したようにローズを見つめて話し出す。

「お願いがあります。

 この旅の間、どこかでランカと私がふたりで話をできる場を作ってはもらえないでしょうか?」

「ランカと?」

「私は、ランカに婚約を申し込んでいます」

「ええ、ランカとミナモの婚約の話が出た後、あなたが申し込んだ話も聞いたわ。

 結局どちらも保留となっているって」


 フウライが大きく息を吐いた。


「私はランカのことが好きでしたが、ブライトが婚約者を決めるまではと言えずに心に秘めてきました。

 ランカはどうやら、私のことが苦手なようで……、今までふたりきりで話をしたことはほとんどありません……。

 ランカにはミナモがいることもわかっています。

 ただ一度だけでいい、ランカに今までの自分の気持ちを打ち明けて伝えるぐらいはしたい……」


 ローズには目の前のフウライと、かつて恋人であった風の当主、つまりフウライの父親の若い時の姿が重なったように思えた。


 フウライの気持ちがいじらしく、できることなら願いを叶えてやりたい。

 フウライも自分の気持ちをきちんと伝えたと納得できれば、気持ちを引きずらずに諦めることができるのでは?


「……わかりました。

 すぐには無理ですが、どこかの街で機会があれば……」

「ありがとうございます!」


 フウライがローズの手を取ってお礼を言う。


 恋人の面影と、その恋人が結婚した別の女……とランカが重なる。


 ランカはフウライを振るのだ。

 結局、どちらもそれですべてが終わるのだろうが、ランカもフウライも傷つくのだ、きっと。


 暗い喜びが心の中に湧き上がった気がして、ローズは頭を振った。


「いえいえ、そうした方が、あなたが納得してランカをあきらめられることになるのでしょう……」

 



 ◇◇◇




 王城ではシャーリーが動き出していた。


 ブライト達にわざと無邪気な感じで近づき、カレンに苦言を言われ、しょんぼりして、ブライトに声をかけさせ、慰めてもらうことに成功していた。


 シャムザに呆れられていることにも気づき、もっと用心深く……。


 図書館の書棚の間、ブライトがひとりの時を狙って近づき、何となく、図書館のこの書棚の間でいつもの時間に偶然に出会うという関係から、約束していない待ち合わせを心待ちにするような……。


 シャーリーからのカレンに注意されるという相談だけではなく、現在の王都や街の話題や気がついた平民視点の意見なども混ぜつつ、ブライトに新鮮な印象を与えるようにした。


 ブライトの悩みもうまく聞き出して、お互いに相談し合う……。


『私達、本心を見せ合える仲ってことですね』と親近感を持たせるところまで漕ぎつけていた。


 これで、やっとアカリへの揺さぶりを始めることができる準備が整った。

 聖女巡回にランカ達が出かけて2週間が経っていた。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ