12 好機と出発
ローズが出て行った後、神殿長の部屋にはシャーリーとハイリネンが入ってきた。
ハイリネンは椅子に座りながら、満足気に笑った。
「こんな好機が巡ってくるとは!
ブライト王子の周囲に人が少なくなる。
近づくには絶好の機会だな、シャーリー」
「はい……」
「上手くやれよ。対抗馬である水家のシズク、それに炎家のランカも不在になる。
もし風家のフウライも不在となれば、ブライト王子の周囲は砂家のシャムザと炎家のカレンだけだ」
「はい……」
「どうした? 何か不満でも?」
シャーリーは一度顔を上げたが、また下ろした。
「なんだ?」
ハイリネンが目を細めて慎重な感じでシャーリーの言葉を待っている。
「……その、炎家のランカ様はみんなから愛されていて、それで、みんな巡回について行きたいと言っているのだと思います」
神殿長が頷いた。
「そうか……、それで……。
シャーリーも行きたいのかね?」
シャーリーはパッと目を上げたが、すぐ下げた。
「いえ……、今は、私はブライト様とまず仲良くなることを……。
それと、少し考えていることがあります……」
「それはなんだ?」
ハイリネンが興味深そうに聞いた。
「ランカ様は聖女の仕事を3人で分担すれば、それぞれの人生を大切にし、結婚や出産ということも叶うのではと……。
アカリ様は違います……、それに、アカリ様の力は……。
そこでアカリ様を少し揺さぶってみてはと。
水家のシズク様、炎家のランカ様が下の年齢の方達のことをよく気にかけています。
そのふたりが不在なので……」
「そうか、五聖家の仲に、聖女の仲に、溝ができるような揺さぶりをと?」
「はい……」
「巡回は1カ月かかるのだったな」
神殿長が急に自分に問いかけられたことに気づき、あわてて答えた。
「はい、1カ月の予定です」
「1カ月で、王都に残った五聖家の子息達がどうなるか……、これは見物だな」
◇◇◇
ランカが大きな声で王都に残るふたりに頼んでいる。
「王都や神殿の方、どうぞよろしく頼みます!」
「大丈夫! 任せておいて!」とアカリ。
「はい! どうぞお気をつけて!」とシャーリー。
聖女ローズ、新聖女ランカ、そしてシズクは馬車で。
ラッシュ、ミナモ、サライ、フウライは馬で、神殿の騎士達と一緒に行動する。
フウがサライに涙ながらに何かを渡している。
自分がいつも身に付けていた青い石のペンダントだった。
フウは風家の姫だが、母が水家出身で、その瞳は青い。その青い石は自分のお守り石として身に付けていた物なのだろう。
サライが受け取り、自分の首にかけて服の中に大切にしまった。
「ありがとう、フウ。大切にする。そして、いつも君を思うよ。
一緒に行けなくて、本当に残念だ。
アカリ様のこと、しっかり守るんだよ。俺もラッシュを守る。
お互い頑張ろうな」
「はい、サライ!
お帰りをお待ちしています」
フウライはそんなふたりを見て、微笑んでいる。
ラッシュとミナモがフウライに声をかけた。
「「どうぞよろしくお願いします」」
「ああ、こちらこそよろしくお願いする。……ミナモ」
「はい?」
ミナモは急に名を呼ばれて首を傾げた。
「ランカのことだが……、もし婚約が許可されなかったらどうするんだ?」
「縁起でもないこと言わないで下さいよ。
それは、その時は……、婚約や結婚という形を取らなくても、ふたりでいられる道を探します」
「それは、ミナモの考え? ランカは?」
「さぁ、でも、俺と同じように思ってくれていると……、思います」
「そうか……、わかった」
「俺からもフウライに聞きたいことが!
なんで、ランカに婚約を申し込んだんですか?
水家と炎家がすでに俺達の婚約を五聖家に申し出ているのに?」
フウライはふっと笑った。
「そんなに裏はない。私がランカを気に入っているということを伝えたかっただけだ」
「ランカを?」
「ああ、私はランカのことが好きだよ。
ランカは……、どうも私のことが苦手なようだがね」
ラッシュが「ランカが苦手? そんな? あれ……」と考え込む。
そんなラッシュとミナモに「馬に乗りながら他のことを考えていると落馬するぞ!」とフウライが笑って離れていった。
サライが戻ってきて小さな声で聞く。
「どうしたんだ?」
「いや、フウライがランカのことが好きだって……」
ラッシュが答えるとサライはびっくりした。
「えっ? ミナモにそう言ったの?」
「それに、ランカはフウライのことが苦手……なのか?」
サライは頷いた。
「ああ、フウライのこと、苦手だよ。
シャムザのところには行くけど、フウライのところに行っているのほとんど見たことない」
その言葉にミナモとラッシュが新たに気がついたような表情をする。
「直接聞いたことはないけど、ランカに理由を聞いた方がいいかもね」
サライがそう言ったところでちょうど出発となった。
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