10 聖女の仕事
「巡回の聖女のローズ様、結界の聖女のシャイン様。
現在の聖女のおふたりの仕事ですが……」
アカリ、シャーリー、ランカの3人が神官から話を聞いている。
「王女であったこのおふたりが仕事を分担していたため、このように呼ばれています。
各地を巡回し、王都に戻り、また巡回する。巡回の聖女。
魔物が住むも森林地帯と隣接している辺境に行き、結界の補強することで魔物の侵攻を抑える結界の聖女……」
「……おひとりの代は、どうやってたんですか?」
ランカが驚いたように聞いた。
「巡回をメインに王都より辺境で多くを過ごされていたようです」
神官の言葉に驚く3人。
「そんなに忙しくては結婚なんて考えられませんわね……」
シャーリーが呻いた。
アカリがその言葉にびっくりして叫ぶ。
「いやよ! 私は結婚したいわ!」
ランカが苦笑してアカリに言った。
「今は3人いて良かったですね」
「よくないわよ! 聖女をもっと増やすとかできないの?!」
「こればかりは……、光家の姫様の数が増えること、ぐらいですかね……」
神官が困ったように答えた。
「うう、それなら今から産んでもらえば、私達が結婚して子育てする頃には次の聖女がいる?!
父王にもっと子どもを作れって言ってくるわ!!」
「!! アカリ様! ちょっと!!」
ランカが止めようとするが、アカリは止まらず走って行ってしまった。
「え……? 王にもっと側室を取って……と?!」
ランカが困ったように神官を見る。
「まあ、そう考えられたのでしょう……」
苦笑している神官を見ながらシャーリーが言った。
「それがてっとり早そうだしね」
ランカが驚いた表情でシャーリーを見た。
「……ランカ様?!」
ランカのあまりに驚いた表情にシャーリーが戸惑う。
「いえ……、ごめんね。驚いたから。
シャーリーってけっこう合理的というか……。
それを言うなら、アカリ様もか!」
ランカが面白そうに笑って続けた。
「それにしても娘にもっと子を作れと言われたら……、王はどんな表情をするのかしら……」
ランカとシャーリーは顔を見合わせて、笑った。
神官が咳払いして言った。
「巡回の聖女、結界の聖女、どうなさいますか?」
「とりあえず、今は結界の聖女はシャイン様が続けて下さるわよね。
巡回の聖女をまず引き継いでいかなくてはならないわけね。
それなら、私がやります」
ランカの言葉に神官とシャーリーがびっくりする。
「いいのですか?」「ランカ様?!」
「だって、王都にふたりもいれば、近場の巡回はそのふたりにお願いできるでしょう。
私は遠出の旅をして、王都に戻ってくるくらいだと思えば……。
もしこの先、お互いに結婚や出産ということがあっても、3人で交代しながらできるのでは?
結界の聖女の方は……、もう数年後の状況を見て、また話し合わないといけないだろうけれど、ずっと辺境にいなくちゃいけないということではなさそうだし……」
「巡回の聖女?
確か叔母上のローズ様が……。
そうか、聖女の仕事のこと、そんな風に考えたことがなかったな……。
で、次の巡回にランカが一緒に?」
ラッシュがお茶を飲みながら言った。
ラッシュ、サライがミナモに誘われ、水家に遊びに来ていた。そして、カレンとランカもシズクに誘われたのだ。
シズクとカレンが……、どうもシャーリーのことが気にかかり、ランカと王城以外で話をしたいとなり、それならミナモも気になることがあるからということになったのだ。
「ええ、とりあえず引継ぎをしなければ、仕事のことがわからなくなってしまう。
せっかく、今だけだけど5人もいるんですもの。
私が遠方の巡回を引き継げば、ローズ様は神殿にいて王都で治療ができるでしょう。
長年、頑張ってこられてるわけで、ゆっくりしてもらいたいし。
アカリ様とシャーリーが近場の街を巡回できるだろうし……、とにかく今は、3人の中で年長で、体力のある私が引き受ける」
「大丈夫なの? ランカに負担が集中しそうで心配だわ」
カレンが美しい顔を曇らせる。
シズクも頷いた。
「私達、シャーリーのことを、どうも信用できないの。
アカリ様は、その天真爛漫過ぎて、周囲に気を遣えないところがあるし、ランカが苦労していても気付かなさそうな……」
サライが急に話し出した。
「実は……、兄もシャーリーのことを注意するように言っていて……。
言っていることと他人に見せている表情を信じないというか、鵜吞みにしないようにと言われた」
「シャムザが!
そう、シャムザは人をよく見ているものね」
カレンがほっとしたように呟いてから、サライに微笑みかけた。
「教えてくれてありがとう。
私とシズクも同じように感じていることを、伝えてくれたらうれしいわ」
サライが頷いた。
「ミナモもだよな」
「「えっ?」」
ラッシュとランカが驚く。
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