1 5年前の出来事
いつもは思いつくままに書き出してすぐ投稿してたんですが、今回はじっくり考えてみまして、登場人物の性格などがはっきりし、勝手に動いてくれるようになるまで黙々と書き進めてみました。
だいぶストックもできたので、投稿しつつ、ゆっくり書き進めて行きたいと思います。
最初の3話ほどはまとめて今日中に投稿しますが、その後は1日に1投稿は必ずしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
春、第1王子ブライトの14歳の成人の儀を機会に、五聖家の本家の子ども達がすべて王城の庭に集められた。
光家は王家。それに連なる炎、水、風、砂の四家を合わせて、五聖家。
このアーセウスの世を長きに渡り治めてきた魔法の力を持つ五聖家だ。
14歳になった光家の第1王子ブライト、その脇を占めるは15歳になる風家のフウライと13歳になる砂家のシャムザ。
あちらには12歳になる光家の第2王子ラッシュ。隣にいるのが同じ年の水家のミナモ、そして11歳になる砂家のサライ。
これはもう、それぞれの王子と歳が近く生まれついたことから、それぞれの王子の側近であり友となることが運命づけられている。
男子達のグループとは別に女子達は同じテーブルにつきながらも、ひとりずつの様相を呈している。
炎家のカレン13歳、水家のシズク14歳。
そこに少し場違いな感じで居心地が悪そうに、つまらなそうな表情で姉達を眺めているのが、炎家のカレンの妹になる11歳のランカだ。
炎家には王子達と同年代の男子がいなかった。
そのため、カレンとシズク、どちらがどの王子の妃になるのかが、すでに最大の話題になっている。
ランカは自分よりも小さな子ども達のグループを見た。
光家の唯一の王女アカリ7歳、砂家のサーシャ8歳、風家のフウ10歳、そして炎家待望の男子であるカエン7歳。
炎家のランカと風家のフウはひとつしか違わないが、第1王子ブライトが成人の儀を迎えた14歳の時点で、10歳より上の11歳というだけで、姉達と同じ妃候補のグループに入れられてしまったのだ。
ランカは不満に思っていたが、ランカが姉達と同じ妃候補とされたことは、周囲の者には良い効果もあった。
つまり、まだ幼く有力な妃候補ではないランカには声をかけやすい。
ブライトやラッシュにしてみれば、カレンやシズクに声をかけるのは、周囲の期待や注目を集めてしまい気恥ずかしいところがあるが、ランカには妹のような感じで声をかけやすい。
そしてランカは一見ほわっと穏やかでかわいらしい感じだが、性格は炎家の父親似で、剣術や魔法で戦うことを好み、男相手にも臆さず話をしてくるような少女で、ブライトやラッシュとも仲が良かった。
ブライト達が彼女達のテーブルに近づく。
カレンとシズクはそれに気がつきながら、声をかけられるのを待つかのように澄ましている。
ブライトは少し戸惑ってから、ランカを見た。
「ランカ、退屈していないか?」
「ブライト様、私は機嫌よろしゅうございます」
ランカはまだ子どもっぽい笑顔とともにいつもとは違う大人ぶった返事を返す。
フウライがくすっと笑った。
ランカの言葉使いが、炎家の主であるランカの父親にそっくりだったからである。
「ランカ、その言葉使いは男性のものです」
カレンが注意する。
「え? あっ、そうか……。
えーと、ご機嫌麗しゅうございます?」
考え込みながら言い直すランカはとてもかわいらしい。
「ふふふ、よいよい。ランカはそのままで」
ブライトが笑って言うとカレンが唇を尖らせた。
話のきっかけがつかめたようですらすらと話し出す。
「ブライト様、ランカを甘やかさないで下さいませ。
本当に男のような子になってしまいますわ!」
注意しながらも妹がかわいいと思っている素振りがにじみ出るカレン。
シズクがそんなカレンを見ながらランカを抱きしめる。
「ランカはこのままがかわいいわよね! ね、ミナモ?」
近くに来ていたラッシュ王子達の中の自分の弟であるミナモに笑いかけるシズク。
「な、何言ってんだよ!
そんな男女! かわいくないんだよ!」
ミナモは少し赤くなりながら姉であるシズクに言い返す。
「ふふん、ランカがお気に入りのくせに!」
シズクがランカの頬にチュッと戯れに口づけする。
ラッシュ王子が驚きの声を上げ、思わず顔を赤らめた。
ランカも驚いて頬を赤くした。
「ほら、照れてるところもかわいいわ」
「シズク、ランカをからかわないで」
カレンがシズクを牽制した。
シズクはミナモがランカを気に入っていることをわかっていて、こうやってからかってくる。
もちろん、シズクもランカがかわいいのだ。
「シズク、いい加減にしろよ」
ミナモがシズクとランカの間に入り、ランカの手をつかんで椅子から立ち上がらせた。
「ランカは俺達と来い!」
ラッシュが笑いかけてくれて、ランカはほっとした。
このような場で、わざと澄ました姉達の、周囲に聞かれても困らないような当たり障りのない話を聞いているより、そっちの方が楽しそうだ。
ブライトが声をかける。
「また、剣の稽古か?」
ランカとミナモが同時に「「はい!」」と答えて、お互いに見合った。
ミナモの顔がぽっと赤くなると、ランカの手をあわてて放して、顔を背けた。
「ランカ、行こう!」
ランカと同い年のサライが言って、ミナモが放してしまったランカの手を取った。
「うん」
素直に頷いて、手を握られるまま歩き出すランカ。
こうして、カレンとシズクのテーブルに、ブライト、フウライ、シャムザがついて、話を始めた。
こんな風にランカの存在が男女を意識し始めた年齢の者達にとっては、潤滑油のような働きになっていたのである。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。