表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眩む世界のガランドウ  作者: 楠木 凪
運命は出会い、そして歯車は動き出す
9/13

9話 邂逅

 冒険者は朝にギルドへ訪れ依頼を受ける。誰かが受けた依頼を別の冒険者が受けるのは不可能であり、依頼の受注は基本早い者勝ちだ。

 そのため昼が近い時間帯ともなれば依頼をこなしに行っているため、ギルド内の冒険者の数は少ない。

 少ない、とは言いつつ活動方針を話し合っているパーティーや遠征から帰ってきたばかりのパーティー、パーティー募集板で仲間を探している成り立てらしき冒険者等々、10数人程度は居る訳だが……。


「おい……なんだあいつ……お前知ってるか?」


「いや、俺も初めて見た……」

 

 その全員がたった今ギルドに現れた相手に驚き、困惑していた。

 ゆっくりと閉まっていく扉を背に立つその騎士のような見た目をした人物は細身な白銀の鎧に身を包んでおり、鎧と全く同じ色のヘルムで顔を覆っていた。

 白銀の騎士はギルド内のほぼ全員から視線を向けられているにも関わらず、全く気にしていない落ち着いた素振りでギルドの中を見回している。


「始めて見る方ですね……新しく来た冒険者でしょうか」


「……あー、なるほど……」


「アルトさん?その反応、もしかして知ってる方ですか?」


「いや、知らない。鎧のマーク見て勝手に納得しただけだ」


 一度も会ったことのない相手ではあるが、鎧の胸部に堂々と飾られた両手を合わせて祈る少女を象った紋章が、あの白銀の騎士が何者で、何の目的で現れたのか合点が行ってしまった。


「鎧の?あれは……ミネア教のシンボルですね」


 祈りを捧げる少女はクラクト聖国を中心に活動している宗教、ミネア教の聖女を象徴するシンボル。

 そんな物を付けている時点であの騎士がミネア教の関係者という事は明白な訳で……このタイミングでクラクト聖国の関係者が現れたという事は、恐らくあの騎士は昨日の少女を追って現れたのだろう。

 

 暫くギルド内を見回した後なにかを考え込むようにしていた騎士だったが、不意に俺たちの方へと顔を向ける。


(今――眼が)


 合った。そう感じた次の瞬間には目の前に白銀の鎧が迫り、俺の喉元には鋭い剣先が突き付けられていた。


「は?」


 瞬きをしたわけでも、よそ見をした訳でもないのに視界から完全に消え、反応する間もなく命を握られた。

 喉元から伝わる冷たい剣の感触が明確な殺意を放っていて、下手に動けばこの剣が俺に突き立てられる事になると否応なしに理解させられる。


「黒い髪に黒い眼をしたボロい革鎧を装備した若い冒険者――貴様だな」


「ちょっと!ギルド内での武器の使用は禁止されてます!今すぐ剣を下ろしてください!」


「黙れ、俺は今お前には質問していない。答えろ――貴様がアルトだな?」


「そう、だけどいきなり剣を向けてくるなんて、物騒だな」


「リリア様はどこだ。この場で死にたくなければ、今すぐあの子の居場所を吐け」


「リリア?……そんな名前の奴なんて知らないが」


 返事をした途端突き付けられた剣が更に動く。喉に僅かな鋭い痛みが走り、赤い液体が剣を伝った。どうやら今の返事は相手のお気に召さなかったらしい。

 リリアと言う名前を知らないのは本当なんだけどな……まぁ十中八九あの少女の事なんだろうが。


「この街の守衛から昨晩貴様がリリア様と一緒に居た事は聞いている。もう一度だけ聞く、リリア様はどこに居る」


「……さぁ?俺は案内しただけで、その後の事は知らん。名前も聞いてないからリリアって言うのも今初めて知った」


「……嘘じゃないだろうな。もし嘘なら、このまま貴様の首を切り落とす」


「そもそも嘘をつく理由が無いだろ。どういう関係か知らんが、まだ死にたくねぇし」


 別にリリアと呼ばれる少女を庇う理由もないが……いきなり剣を向けて脅してくるような相手に教えてやるほど、俺は出来た人間じゃない。見つけたけりゃ勝手に自分で探してろ。

 それに案内をしたのも初めて名前を知ったのも嘘じゃない。どこまで案内して、いつから動向を知らないのか言ってないだけだ。


「……嘘はついてないようだな」


 突き付けられていた剣が下げられ、腰に差した鞘へと戻される。放たれていた殺気も鳴りを潜めた事で、武器に手を伸ばしていた他の冒険者達も警戒を解きギルド内の緊迫した空気が弛緩する。

 武器を納めてすぐに騎士は姿勢を正し、開いた右手を胸元に当てながら頭を下げてきた。


「すまなかった」


「はい?」


「言いがかりと剣を向けた無礼、許される訳がないのは承知だが――すまなかった」


「は、はぁ……」


 殺意剥き出しの姿は一体どこに消えたのか、さっきとは打って変わった様子で謝罪を繰り返す目の前の騎士につい困惑してしまう。いくらなんでも態度変わりすぎだろ。


「いやいや!そんな呑気に謝ってる場合ですか!」


 あまりの変わりように戸惑っていると、いつの間にカウンターから出てきたのか慌てた様子のクレスさんが俺たちの間に割って入ってきた。


「急いでアルトさんの傷を治さないと!」

 

 なんでそんなに慌ててんのかと思ったら、さっき軽く刺された傷の事だった。なんだ、そんな事で慌ててたのか。


「大丈夫大丈夫。このぐらいの出血なら良くある事だし、傷も浅いからすぐ止まるだろ」


「アルトさんはもっと焦ってください!?ほら!傷の処置しに行きますよ!」


「いやいいって。治してもらう金なんて持ってないし、本当にちょっと刺されただけだから」


「いいから!治療しないと新しいギルド証発行してあげませんよ!」


 本当に大丈夫なんだが……ギルド証がないと依頼も受けられないし、今はクレスさんに大人しく従うほかないだろう。というかこの後今日の飯代を稼ぎに行かないといけないから、ここで変に時間を取られたくない。

 ……治療代ってツケにできっかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ