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眩む世界のガランドウ  作者: 楠木 凪
運命は出会い、そして歯車は動き出す
8/13

8話 冒険者ギルドにて

『お前には失望した』『産まれてこなければよかった』『それを蔵に閉じ込めておけ』『お前は我が家の恥だ』


『――――、――――――』


 上も下もない、どこまでも暗い世界。身体の感覚も曖昧で身動ぎ一つ出来ないなか、憎悪と怨嗟に満ちた声だけが繰り返される。


『存在する価値がない』『視界に入るな、目障りだ』『俺はあんたとは違う!』『消えろ』『消えろ』『消えろ』


『――ト、――――ろ』


 渦巻く怨嗟の声は濁流となって渦巻き、身体を呑み込む。抜け出さないといけないと分かっているのに身体は動かず、抗うことも出来ずに沈んでいく。

 苦しい……まるで深い水の中に居るかのように、息をする事すらままならない。どれだけ空気を求めて足掻いても望みのものは手に入れず、意識だけが遠のいていく。


『消えろ、消えろ、きえロ、きえろ、キエロキエロキエロキエロキエロキエロ――――』


 声に誘われ、どこまでも深い水の底へと意識が沈んで――霞みきった意識が途絶える……その瞬間。


『起きろアルト!』


 ……誰かの声が聞こえた――――





「――起きろアルト!」


「……………………カルネ…………?」


「ようやく起きたか」


 名前を呼ぶ声に深く沈んでいた意識が現実へと引き戻される。覚醒したばかりでまだ重い瞼を開くと、険しい表情を浮かべたカルネが俺の事を覗き込んでいた。

 まだ取り切れない眠気を振り払いながら起き上がる。部屋の窓から差し込む日の光はまだ低く、眠りについてからさほど時間が経っていないのが分かる。


「どうしたんだカルネ、なにかあったのか?」


「どうしたんだ、はわたしのセリフだよ。酷い魘されようだったから、何事かと思ったぞ」


「魘されてた?あー……そう言われたら何か悪い夢見てた、気がするけどあんまり覚えてないな。そんなに酷かったのか?」


「廊下に居たわたしに聞こえるぐらいにはね」


 言われて夢の内容を思い出そうとしてみれば、確かに何か酷く悪い夢を見ていた……気がする。けどどんな夢だったのかまでは思い出せなかった。

 だが身体にまとわりつくような薄ら寒さと気持ちの悪い寝汗が、何か良くない夢を見ていたという事実を突き付けてきていた。

 それにしてもドア越しのカルネに聞こえるぐらいの魘され声って……どんだけ煩かったんだ?


「悪い、煩かったよな」


「気にしなくていい、慣れない環境に拒否反応が出たんだろうさ」


「それは……有り得る」


「君は普段野宿してるから、なおさらだろうね。寝床ぐらい金をケチらない方がいいんじゃないか?」


「俺にそんな余裕があると思うか?」


「自分で言ってて悲しくならないかい、それ」


 俺だって好きで野宿してる訳じゃないっての。それが出来るならとっくの昔からそうしてる。


「ま、そんな事は置いといて、その様子なら特に問題は無さそうだね」


 カルネはそう言い終えると話を切り上げ、静かに部屋を出て行った。……泊めてもらってるうえに、余計な迷惑までかけてしまった。

 カルネねは今日の借りをどうにかして返さないといけないな。とはいえ俺に出来る事なんてかなり限られるから、きちんと今日の分の借りを返せるかは分からないが……


「……くぁ……」


 俺に出来そうな礼を考えたいところだが……流石にまだ眠い。今はさっさともう一度寝て、考え事はちゃんと目が覚めてからする事にしよう。

 少しだけ埃っぽいベッドに横たわって目を閉じる。するとまだ抜け切れていなかった眠気が強くなっていき、意識はすぐに深く沈んでいった――――



 ――――今度は夢を見なかった。


――――――――――


「――ギルド証を無くした!?何してるんですか貴方は!」


「いや、そのーこれには深い訳が――「は?」いえなんでもないです。すみませんでした」


「ギルド証を発行した時、僕アルトさんになんて言いました?」


「身分とランクを示す物だから絶対に無くすな、ですよね。はい」


 カルネの店で10の刻まで休ませてもらい、気力も体力も回復した俺は無くしたギルド証の再発行をしてもらう為に冒険者ギルドを訪れていた。

 ギルド証を無くした事を顔馴染みのギルド職員であるクレスさんに伝えると、案の定怒られてしまった。


「分かってるのになんで無くすんですか。冒険者としての自覚あります?」


「本当にすみません……」


 普段のクレスさんは物腰の柔らかい優しい人で、最低ランクにずっと居る俺に対しても丁寧に接してくれる人だ。

 その性格と整った顔立ちで女性職員や女性冒険者からの評判もいい人のはずだが、今は背後にオーガの幻覚が見えるぐらい怖い。


「どこでギルド証を無くしたのか覚えてないんですか?」


「覚えてるというか……どこにあるのかは知ってるというか……」


 投げ捨てたリュックに入れていたから、どこにあるか分かってはいる。魔物に荒らされていなければ今もフィサリス大森林にリュックと一緒に落ちてるだろう。


「魔物に襲われて逃げる為にフィサリス大森林に荷物ごと捨ててきたって……それでギルド証まで無くしてどうするんです」


「インパクトボアに追われてなりふり構ってられなかったんだよ」


「そもそもなんで中域に居るインパクトボアに襲われてるんですか」


「色々あったんだよ、色々」


 恐らく未だにカルネの店で寝ているであろうあの少女のおかげで、本当に散々な目にあった。

 クレスさんは溜め息を吐きつつも再発行の手続きの準備をし始める。再発行とは言ってもやる事は再登録書に必要事項を書いて待つだけの簡単な物だ。

 カウンターの上に1枚の紙とペンが置かれ、名前を書くように促される。


「紙の空欄部分に名前を書いてください。確か、アルトさんは代筆の必要はないですよね」


「あぁ」


 冒険者の中には字の読み書きが出来ない奴が大勢居る。その為必要であればギルド職員が代わりに字を書いてくれるが、俺は一通りの読み書きはできるのでその必要はない。

 そうしてつつがなく書き進めていると――不意にギルド内がザワついた。

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