7話 一休み
カルネの道具屋——数多くの商店が立ち並ぶ商業区に建てられた、自作のアイテムや魔道具の販売を行っているアイテムショップ。しかし売られているアイテムの特殊性と店主であるカルネの性格が相まり、表通りの目立つ場所にあるにもかかわらず客の殆ど訪れない店である。
「その辺にあるのは一応売り物だからね、くれぐれも壊したりしないでくれよ」
部屋を貸してくれると言うカルネに案内されて連れてこられたのは普段から利用している『カルネの道具屋』だった。
カルネが軽く腕を振るう事で真っ暗だった空間に明かりが点き、店の中を明るく照らしだす。明るくなった部屋の中には、様々なアイテムがテーブルや棚に所狭しと並べられていた。
「相変わらず全然売れてなさそうだな」
「そこうるさい」
カルネが売っているアイテムの中には魔物除けのお香みたいな便利なアイテムもあるが、大体の物が何に使うのかも分からないよう物ばかりだ。この店には何度も来ているが俺の他に客が居るのを今まで見たことがないのに店は続いてるし、どうやって経営してるんだか。
「さ、こっちだよ」
店奥のカウンターを通り抜け、更に奥にあった目立たないドアの先には上に上がるための階段があった。外観で2階があるのは分かっていたものの、階段がここにあるのは初めて知った。カウンターの奥に来ることなんてないし当たり前の事ではあるが。
カルネの後に続いて階段を上がると、真ん中にテーブルと椅子の置かれた生活感のある広い空間があった。空間の先には廊下が続いていて、ドアが幾つかあるのが見える。
「先にこの子を案内してくるから、アルトはそこの椅子にでも座っててくれ」
廊下の先のドアに入っていく2人を見届けつつ、家主の許可も出たので椅子に座って待たせてもらうことにしよう。椅子の背もたれに身体を預けると、ようやく一息つくことができて一気に疲れが出てくた。
テーブルに置かれていた置き時計を見させてもらうと、時計の針は既に4の刻を指していた。もうすぐ夜が明けるぐらいの時間帯だ。元々野宿しようとしていた時間から、6刻以上時間が経っている。
「そりゃ疲れるわ……」
昼の間も冒険者ギルドの依頼で動き回ってたのに、いきなりのあれだったからな。インパクトボアに襲われて荷物は無くなって、オーグさんの事情聴取では説明に時間取られて。挙句の果てには宿探しで歩き回って……疲れるのも当然だった。
カルネのおかげで休むことは出来るものの、正直1日休んでいたいぐらいには疲れてる。けどそういう訳にもいかないのがつらいところだ。取り合えずある程度休んだら冒険者ギルドに行って落としたギルド証を再発行してもらって、荷物の回収をしないといけない。依頼もこなさないと飯を食う金もねぇし……あの金大人しく貰っておくべきだったか?
「待たせたね」
休んだ後の事を考えているとカルネが戻って来た。続けて俺も部屋に案内されるのかと思いきや、部屋の角に置かれた椅子を持ってきてテーブルを挟んだ向かい側に腰かけた。
「あの子、ベッドに座った途端寝始めたよ。気絶したかと思ってビックリした」
相当疲れてたんだろうねと続けるカルネの表情は複雑そうで、心配しているかのような感じが伺える。
「数日、下手したら何日もまともに休めてなかったんじゃないかな」
「……まぁ、だろうな」
少女の話が本当であればフォーラム帝国からフィサリス大森林を抜けて此処に来るまで、かなりの時間がかかったはずだ。特に魔物の居る大森林を装備も無しに1人で縦断するなんて、神経をすり減らされるだろう。そんな状態でまともに休める場所ができたなら、そうなるのも無理はないのかもしれない。
「朝までという約束だったけど、あの様子じゃ暫くは起きなさそうだね」
「悪いな、迷惑かけて」
「わたしから言い出したのだから構わないさ。うちのお得意様が困ってそうだったしね」
「そう言って、素材集めが面倒なだけだろ?」
「くくっそうとも言うな。素材のためなら多少の優遇はするとも」
カルネの作ったアイテムを格安で提供してもらう代わりに、アイテム製作に必要な素材を可能な範囲で集める。俺とカルネの間にはそんな契約がある。
カルネの事だから、俺に恩を売って素材の供給をもっとさせようって考えなのだろう。
「そういうわけで、君に何かあっても私が困る。休める時は十分休んだ方がいい」
「はいはい、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「君の部屋は一番手前の部屋だ。中にある物は好きに使ってくれて構わない」