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眩む世界のガランドウ  作者: 楠木 凪
運命は出会い、そして歯車は動き出す
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5話 最北の街リース

「んっ~……!やっと街に入れましたね!ここまで長かった~!」


「怒らせなきゃもっと早かったはずなんだけどな……」


 オーグさんに門を開けてもらって街に入った後、なぜか俺たちは一緒に街灯が照らす静かな街の大通りを歩いていた。

 俺にはこの少女と一緒に行動する理由は既にないし、これ以上関わる必要もないのだが、当たり前のように俺に話しかけてきながら進んで行くため別れるタイミングを見失ってしまった。


「んで、これは一体どこに向かって歩いてんだ?」


「さぁ?」


「さぁってあんた……」


「初めて来たんですからどこに何があるかなんて分かりません。強いて言うなら今から泊まれる場所を探してます」


 迷いなく歩いて行くから街の構造を理解しているのかと思いきや、そんなことは全く無かった。取り敢えず真っ直ぐ歩いてるだけだ。

 

「宿屋は街の南まで行かないと無いぞ。このまま大通りを進んで反対側だ」


「この辺にはないんです?」


「俺は聞いた事ねぇな」


「そうですか……」


 普段から野宿してて街の宿屋は使わないから確かではないが、少なくともこっちの方で宿屋があるなんて話は聞いたことはない。


「ところでアルトさん。私に聞きたい事、あるんじゃないですか?」


「あん?聞きたいこと?あー……?なんかあったっけ?」


「私の名前ですよ!な、ま、え!さっき聞こうとして遮られてたじゃないですか!」


「そういやそうだったな。別に気にして無かったから、もう忘れてた」


 一応聞いておこうと思っただけでどうしても知りたい訳じゃなかったから、名前を聞こうとしてた事自体忘れてた。

 その事を包み隠さず伝えると、隣を歩く少女は分かりやすく頬を膨らませた。


「ひどい!私はアルトさんの名前をちゃんと呼んでいるのに!不公平です!」


「俺から教えた訳じゃねぇし、そもそもあんたが勝手に呼んできてるだけだろ」


「それはそうなんですけど。ほら、『お互いの名前を知ることは良い人間関係を築く第一歩』だとよく言うじゃないですか」


「そんな言葉1回も聞いた事ないけど……確かに間違ってはない、のか?」


「まぁ、私が今適当に考えただけなので多分無いんですけど」


「おい」


「あははっ」


 一理あるかと少し納得しかけたのに、適当だったのかよ。全く悪びれる気のない態度に頭が痛くなりそうなものの、俺がとやかく言うことでもないから我慢するしかない。

 振り回される俺を見て笑う少女は、その整った見た目よりも幼い無邪気な印象を与えてくる。国に追われている、という話をしていた時とは真逆だ。この感じだと、実はさっきの話も全部嘘で適当に冗談を言っていたんじゃないか?でもあの必死さが嘘や冗談のようには思えないが……


「?どうしました?私の事をそんなにジッと見て。もしかして〜……私の美貌に見惚れちゃいました?」


「…………」

 (ま、俺には関係のない話か)


 あの話が本当か嘘かなんて、俺にはどうでもいいことだ。宿屋に着いたら終わり関係なんだから、そんな事を一々気にする必要がそもそもない。


「あの……無反応が一番困るんですけど。なんか私が自意識過剰みたいじゃないですか」


「あ?あーごめん、なんも聞いてなかった。なんて言った?」


「2回言うのは流石にちょっと……そんなことより、あとどれくらい歩けば泊まれる場所に着くんです?」


「まだもう少しってとこだな。あーほら、向こうに噴水が見えるだろ?あそこが丁度街の真ん中だ」


 他の街に比べたら小さい街とはいえ、北側から南側まで抜けようとすると流石に少し時間がかかる。

 更に少し歩いた俺と少女は、中央に噴水がある円形の大きな広場へと出た。ここは皆がリース広場と呼んでいる、街の丁度真ん中にある広場だ。

 ここまで来るとさっきまでの静けさが初めから無かったかのように、賑わう音楽や騒々しい人の声が風に乗って聞こえてくる。


「……なんというか、賑やかですね。今日はなにかお祭りでもあったんですか?」


「いや、いつもこんな感じだけど」


「いつも……?」


「酒場が西側の歓楽区に集まってるからなのか、毎日朝までハシゴして騒いでんだよ」


「へ、へぇー……凄い街ですね……」


 この街の娯楽なんて酒と賭け事しかないから、暇を持て余した奴らが集まっては騒いでいる。そのせいでよくトラブってる所も見かけるが。

 俺からしてみればもう慣れて当たり前の事なのだが、少女の引いてる様子を見るにフォーラム帝国の街はどうやらこんな騒がしくないらしい。


「酔っぱらいに絡まれたくないし、さっさと抜けちまおう」


 どちらにせよ目的の場所は歓楽区ではなく、南の居住区だ。噴水の横を通って反対側まで進むと、木でできた建物が連なる生活感のある道に出た。ここの広場に近い建物は全部街の人が暮らしている民家で、ここまで来たら宿屋までもうすぐだ。とはいえ、まだ問題が1つ残ってはいる。


「この時間から泊めてくれる宿屋なぁ……そもそも部屋自体空いてんのか……?」


「急に不安になること言うのやめません?」


 宿屋は日中か、遅くても夕方には部屋を取るのが当たり前と言われている。そうしないと部屋がもう満室て泊まれない、なんて事になるからだ。

 特にここは辺境の街で冒険者の数も都市に比べたら少ないから、宿屋の数も少ない。一応ここまで来たものの、泊まれるかは怪しいだろう。


「ま、駄目だったらその辺の道の隅で野宿でもしてくれ」


「そうならない事を願いますよ……」

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