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眩む世界のガランドウ  作者: 楠木 凪
運命は出会い、そして歯車は動き出す
4/13

4話 お話

「——それでこんな時間に痴話喧嘩をしてたと。はぁー……お前ら馬っっっ鹿じゃねーの?」


「すみませんでした……」

 

 門の目の前で騒いでいた俺たちは怒りで顔を真っ赤にした守衛に連行され、外壁内の守衛室で仲良く並んで怒られる事となった。初めにうるさくした事をしこたま怒られたあと、なんであそこで言い争っていたのか聞かれたので正直に答えると呆れられ、挙句の果てにはため息まで吐かれてしまった。


「アルトお前さぁ……どこで何しようが勝手だけど俺たちに迷惑かけんなって前言ったばっかだよな?」


「はい……」


「何してんの?」


「いや本っ当に、申し訳ないです……」


 顔の左側にある大きな傷痕と、服の上からでも分かる太い筋肉で威圧感を感じさせるこの人はオーグさんと言い、俺の度重なる迷惑のせいですっかり顔なじみとなってしまった守衛だ。

 オーグさんはただでさえ怖い顔をしているのに、今はそれに加えて眉間に皺を寄せながらテーブルに肘をついて機嫌の悪さを全面に押し出している。俺は何度もお世話になっていて慣れているが、少女の方はあまりの威圧感に委縮しきってしまっている。


「ま、お前はいいよ。今日に始まったことじゃねぇし。問題はこいつの方だ」


 俺に向けていた視線を少し右にずらして少女の方へと向ける。懐疑的な視線を受けて、少女は分かりやすくビクリと肩を震わせた。少女が怖がっているのは明白だが……凄いなこいつ。オーグさん相手に目を逸らしたりしないで、ちゃんと目を合わせ返してる。


「改めて確認するぞ。やむを得ない事情でフォーラムから亡命、1人で大森林を縦断して来た。ここまでは合ってるな?」


「はい」


「その途中でインパクトボアに襲われたものの、居合わせたこの馬鹿に助けられて今に至ると」


「その通りです」


「突拍子のない話だな。はいそうですかって信じられるようなもんじゃない。これならフォーラムがスパイを送り込んで来たって言う方が、まだ信憑性がある」


「どれだけ疑われたとしても、それが事実です」 


 フォーラム帝国とアイオス王国の仲は残念な事に、あまり良好とは言えない関係だ。だからフォーラムから来たとなれば、国の内情を探りに来た可能性を疑われてしまう。特にこの少女の場合自分の名前すら明かさないため、余計に疑いの目を向けられている。


「私が怪しいのは自分でも承知の上ですが、疑惑だけでは私に何も出来ないでしょう。アイオスは人の自由と権利を大事にする国ですから」


「……自分が疑われる事まで想定済みって訳か。見た目の割に強かな奴だ」


「褒めて頂きありがとうございます」


「褒めてねーよ。はぁー……仮保障証の発行だが、保証代として銅貨10枚かかる。払えない場合はこっちで一度立て替えて、後日返金という形も取れるがどうする?」


「フォーラム通貨で払えますか?」


「問題ない」


 少女に対する疑いは結局晴れないまま、仮保障証の手続きをし始めた。今の流れで受け入れるのかとも思うが、オーグさんが良いというなら問題ないのだろう。

 ポケットから取り出された銀色の硬貨がテーブルに置かれた。オーグさんはそれを見て眉を顰めたものの、何も言わずに銀貨を手に取り目の前にかざして硬貨の確認をする。


「本物みたいだが、これじゃ多すぎる。銅貨10枚と言ったぞ。銀貨1枚が銅貨何枚分かちゃんと分かってんのか?」


「銀貨1枚は銅貨50枚分、ですよね。もちろん分かってます。多く出したのは追加の通行代がかかるとこの方に教えてもらったので、これで足りますか?」


「あーそういうことな。つってもそれでも多いが。差額の金と仮保障証持ってくるから、少し待ってろ。いいか、大人しく待ってるんだぞ。分かったな」


「なんで俺の方見て言うんですか」


「日頃の行いに決まってんだろ馬鹿が」


「ひどくない?」


 俺に対する理不尽な罵倒を言い残して守衛室から出ていくオーグさん。いや、まぁ散々迷惑かけてるし、自覚もしてるけどそんな言わなくても良くない?

 

「……ぷはぁ!こ、怖かったぁ……!」


 ついさっきまでの威勢の良さはどこに消えたのか、オーグさんが居なくなった途端椅子の背もたれに身体を預けて脱力する少女。


「あの人怖すぎるんですけど!圧凄いし……!大丈夫です?私ちゃんと生きてます?」


「冗談言う元気があるなら大丈夫だろ」


「あははっ、それもそうですね」


 怖かったと言いつつ冗談を言ってくる辺り、なんだかんだまだ余裕あるなこいつ。まぁオーグさんは見た目が怖いだけで良い人だし、本気で怒ったらさっきのとは比べ物にならないほど怖いからな……。

 本当に疑っているならとっくに拘束されているだろうから、きっとさっきの問い詰めも形式上やっただけなのだろう。


「でも、アルトさんが断らずにお金を受け取ってくれてたら怒られなくて良かったんですけどね」


「まだ言うか。いきなりあんな大金渡されて受け取れるわけ……ってちょっと待て、なんで俺の名前知ってんだ」


「さっきあの人がそう呼んでたじゃないですか。アルトさんも返事してたし」


「耳ざとい奴だなあんた」


 俺自身ですらオーグさんに何回名前呼ばれたか覚えてないのに、会話の途中で呼ばれただけで把握されていた。人の話をよく聞いている奴だ。

 ……というか今の今まで全く気にしてなかったけど、こいつの名前聞いてなかったな。


「そういや、あんた名前——」


「——待たせたな。これが仮保障証で……どうしたアルト、変な顔になってんぞ」


「……いいえ、なんもないですよ?」


 

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