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1-4 急変

「で、できました……」


「お、似合ってるじゃないか」

「わあ! メイドさんになってるぅ〜!」


 ボクの周りをぐるりと一周して全身に視線が注がれる。男なのにリボンふりふりな格好して――うぅ……


 男としてのプライドが崩れるというか、自分が女の子になって、女の子らしい格好をして、可愛いと褒められる。


 耐えられないし、自分が自分ではないような……男の時には向けられないこの視線にどう対応すればいいのか分からない。


「どうした? 胸とか苦しいか?」

「――え?」


 不意な質問に素っ頓狂な声を上げてしまう。黒咲さんの一言で自分がこなこちゃんのモノを身に着けてることを思い出し、顔が熱くなる。


「そうか、見た感じこなこくんよりもデカかったからな。それはキツいだろう」

「なぬっ! アタシよりも大きいと!? くそう、羨ましけしからんっ!」


「形も綺麗だし、ワタシも女性ながら見惚れてしまったよ。雫莉くんは着痩せするタイプか」

「おのれ、雫莉ちゃんめ! アタシよりおっぱい大きいなんて……この裏切り者ぉ!」


「もう! 本人の前で言わないでくださいよぉ! 黒咲さんもっ!」


 この胸は自分がこんな姿になってしまった象徴。大きくて邪魔でコンプレックスみたいなものだ。そんなもの褒められたところさせで嬉しくもない。


「まあ、キツくて無理そうなら早めに言ってくれ。では、さっき言った通り雫莉くんの指導を頼む」

「さー! イエッサー!」


 黒咲さんはそう言い残すとどこかに行ってしまった。指導ということはこなこちゃんからいろいろ教わることになるのだろう。


「じゃあ、ついてきて」


 こなこちゃんはそう言って、再び一緒に一階のお店へ向かう。スラリと伸びたピンク髪に黒と白のコントラストのメイド服、揺れるピンク髪が上機嫌そうに跳ねていた。


「雫莉ちゃん聞いたよ〜、アタシと同じ住み込みで働いてくれるって」

「え? あ、はい……その、成り行きで……」


「ふふん! 雫莉ちゃんはアタシの後輩だから先輩としてビシッと厳しく指導するからね!」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 店内に戻ると閑散としており、お客さんは一人もいなかった。テーブルや椅子が寂しげに並び、店内bgmの落ち着いたジャズが流れていた。


「お客さん、いないですね」


「えへへ……ま、まだできたばかりだからね! いつかはリラ・ディラみたいに大繁盛させてみせるもん!」

「リラ・ディラ……? あ、それって有名なメイド喫茶の」


「そうそう! アタシの憧れなんだぁ……メイドさんも食事も一線級で、すごく人気なんだよ。いつかはアタシもあんなメイドさんになりたいな」


 そう言いながらレジやケーキの入ったショーケースがある店の入口付近にあるカウンターに移動する。


「よーし! まずはお店がどうなってるか説明するよ! よく覚えてね!」

「は、はいっ」


 店内を見回しつつこなこちゃんの説明に耳を傾ける。お店に入ったすぐそばにレジカウンターがあり、その隣にはテイクアウト用のケーキやクッキー、サンドイッチなどの焼き菓子が飾られたショーケースがある。


 レジカウンターの後ろ側には、チェキを撮るためのスペース、店内の奥側にはテーブル席が並んでいた。


「見ての通りお店の大半はテーブル席になってて、お店の奥には厨房と、あとはお客さん用のトイレ。カラオケなんかもあるよ」


「このお菓子はこなこさんが作ってるんですか?」

「そうだよ〜」


 やっぱり……盛り付けが上手になってて見間違えたけど、マカロンにくまの顔を書いたり、カットケーキを動物風にデコレーションするのはこなこちゃんの得意なことだ。


「どう?」

「はい、前よりもずっと上達してる」


「ありが――え? 前?」


 しまっ……思わず素で返してしまった。こなこちゃんは不思議そうに首を傾げている。


「あ、いや、その……」

「上達してるって、雫莉ちゃん今日会ったばかりだよね?」


「あ、あの……そのっ……み、見たんです! ど、動画で……その、こなこさんのっ……!」

「え? アタシの動画? 雫莉ちゃんが……?」


 しどろもどろになりながら言い訳をする。嘘は言っていない。動画でこなこちゃんのスイーツ作りを見たのは事実だ。


 ――どうだ……? あんぐりと口を開けたこなこちゃんは、すぐに頬を赤らめニヤニヤし始めた。


「そ、そっかぁ……やっぱり雫莉ちゃんアタシのファンだったんだぁ……へ、えへぇ〜」


 チラリと横目でボクの顔を覗くと照れた様子で髪をくしくしして弄り始めた。どうやら、誤魔化せたようだ。


「そういうことなら言ってよぉ〜! 言ってくれたら、もっとサービスしてあげたのにぃ〜!」

「え、ええと……」


 どう反応したらいいのか分からず顔を逸らして言葉を濁す。ここまで腑抜けられるのもそれはそれで癪だ。


「ふふん! そっかぁ……アタシのファン兼後輩……えへへ、うん、悪くないかも……」

「あの……それでボク、何をしたらいいんですか?」


「あ! ごめんね! ふふっ、じゃあこの人気メイドのアタシがきっちり始動するからね! どんどん頼って――」


 そう言いかけた時だった……カランカランと店のドアが開き、二人の男性のお客さんが入ってきた。


「おかえりなさいませ、ご主人様っ!」

「お、おかえりなさいませ……」


 2人に向かってこなこちゃんと一緒にお辞儀をする――メイド言葉なんて初めてで、男なのに口から出てくるのは恥ずかしくてたまらない。


 まともに接客できるだろうか……不安が募る中、ボクたちを見下ろしていた男が口を開く。


「くくっ……ずいぶんと閑散としてるな」


 突然、笑い出した男を見て思わず眉を寄せる。なんだこの人、失礼だな。顔を上げると男はバカにしてるような冷たい目付きでボクたちを見下していた……

 たくさんの応援とありがとうございました! 次回もよろしくお願いします。

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