1-5 メイド☆タイム
前話のラスト、少し変わってます。
「せ、センパイ。失礼ですよ……っ!」
もう一人の男が注意する。痩せ体型の眼鏡でいかにも気の弱そうな人だ。それに対してもう一人の嫌味男はオールバックに髪を逆立て、高そうなスーツを身に纏っていた。
「あ、あの……」
「失敬、我々はこういう者だ」
そう言うと、男は胸ポケットから取り出した名刺を差し出してくる。出版会社『株式会社ソフィス』と社名が書かれており、下には『秋元 駿』と名前が記されている。
「出版会社……? 秋元…………さん?」
「ああ、そこでライターをさせてもらっている。今回は取材の依頼をね……まあ、あまり繁盛してるようには見えないが」
「し、失礼ですよ! あ、あの……すいません。この方、センパイは口が悪くて……その……」
秋元の嫌味に、眼鏡の男がペコペコと頭を下げる。どうやらこの人が上司で彼が部下らしい。嫌なヤツだな……初対面で失礼過ぎるだろこの人。
隣りにいるこなこちゃんを見るとパクパクと何か言いたそうにしている。まさか貶されるとは思わなかったのだろう。
「私は正直に感想を言っただけだ」
「もう、いいです! 僕がやるのでセンパイは下がっててください」
「ふん……」
男は不機嫌そうに鼻を鳴らすと一歩後ろに下がる。出して眼鏡の男は腰を低くしながら一冊の雑誌を取り出す。
「こういう雑誌を出させていただいてます」
差し出された雑誌の表紙には――
『月刊メイド☆タイム』
……と、書かれていた。受け取るとそこにはいろんなメイド喫茶の紹介や人気メイドランキングが載っていた。どうやら、メイド喫茶を紹介する雑誌のようだ。
「あーっ! メイドタイムだぁ! これ知ってる!」
こなこちゃんが目を輝かせながら雑誌を覗き込む。
「業界では有名なんだよ〜、なるほどー新店舗情報欄と注目のメイドさんの取材できたんですねっ?」
キラキラと目を輝かせながら興奮気味にこなこちゃんが反応する。
「はい、そうです。ぜひ、取材させていただければと思ってきました」
「あはぁ! そっか、こんなに早く人気に出ちゃったかあ……いやぁ〜嬉しいなぁ。メイドタイムさんにはお世話になってるんですよぉ〜」
こなこちゃんが嬉しそうに顔を綻ばせる。本当に嬉しいのだろう、まるで憧れの人を見ているような眼差しだが……
「え、えっと……」
「何か勘違いしてないか? 我々が取材に来たと言ったが、このメイド喫茶だけだ」
「へ……?」
秋元という男の一言で、こなこちゃんの顔が固まる。
「こなこくんだっけか? 確か、チャンネル登録者は百人にも満たないはずだったな」
「うぐ……っ」
「先日は注文を取り違えて料理が届かないトラブルがあった」
「うぅ……っ!」
「終いにアフターケアを誤っては客が怒って帰ってしまった。これは、メイドとしてあるまじき失態だ」
「うぐぐっ!」
容赦ない言葉が畳み掛けられ、キュッと唇を噛んで押し黙る。こなこちゃん、そんな失敗してたんだ……それにしてもなんでこの人がそのことを。
「まあ、見た目は好評みたいだな。明るくて愛嬌のあるところも」
「えへへ〜」
「だが、それ以外はダメダメだな。客受けがいいだけで中身がさっぱりだ」
「うぅ……っ!」
容赦ない評価に、こなこちゃんは胸を抉られたかのようにショックを受けている。正直に評価する部分はする……この人、こんなのだけどほんとにレビュアーなんだ……
「で、そこの君は新人くんかな? ふむ……」
ジッとボクの顔を見つめる秋元。そのまま上から下へと視線を動かしていくと、指で顎をさする。
「あ、あの……?」
「君……よく見るとかなり可愛いな」
「え……?」
「珍しい……センパイが素で褒めるなんて」
秋元の呟きに隣りにいる部下の男が反応する。珍しいって……お世辞か? でも、秋元の目を見る限り、揶揄ってるような感じはしないけど、男だし素直に喜べない……複雑だ。
「ルックスだけならリラ・ディラのスタッフに引けを取らない。いや、それ以上か」
「あ、ありがとうございます……?」
「ふむ……もったいないな。まあ、それよりもだ。取材日の相談をさせてほしいのだが……」
「あ、はい……それならオーナーを呼んでくるので、待っててもらっていいですか……?」
「ああ、分かった」
こなこちゃんが店の奥に姿を消す。しばらくすると、こなこちゃんは黒咲さんを連れて戻ってきた。
「わざわざどうも、ワタシはこのメイド喫茶のオーナーの黒咲志穂だ」
「お初にお目にかかります。株式会社ソフィスの秋元と申します。お忙しい中、どうも……ふっ」
「これはご丁寧にどうも。それで要件は?」
小馬鹿にしたような態度に黒咲さんは険しい表情で秋元を睨みつける。背筋が凍りそうな眼差しに、ピリピリとした空気が伝わる。
「取材をお願いしたくお邪魔させていただきました。ご都合の良い日はありませんか?」
「なるほどな、ふむ……確かメイドタイムだったか……」
顎に手を当て、黒咲さんが考え込む。ちらりとボクとこなこちゃんを一瞥する。
「良いだろ、取材は許可しよう」
「ありがとうございます」
――取材、受けるんだ……もしかしたら、酷い記事を書かれるのかもしれない。不安だ……
その後、二人は日程の相談を軽く済ませると帰って行った。ボクたち三人はそんな彼らの背中を見送る。
「ということで二人とも。今週の日曜日に取材を受けることになった。準備をしておいてくれよ」
「本気ですか? あんな人の取材を受けるなんて……?」
「ああ、本気だとも。人気雑誌に載るんだぞ。こんなチャンス滅多にない」
「でも、悪く書かれちゃうかもしれませんよ……?」
こなこちゃんが心配そうに言う。
「まあ、そうかもしれないな。だが、アイツを唸らせれば一流のメイド喫茶として名が上がるはずだ。それに負けっぱなしは私の性に合わない……くくっ」
不敵な笑みを浮かべる黒咲さんを見て、この人は自分のプライドのために引き受けたんだと悟った。
「はぁ……大丈夫かなぁ……」
「こなこちゃ――さん、さっきのこと気にしてるんですか?」
「うん、アタシ全然ダメなんだなって……」
珍しく落ち込むこなこちゃん。ピンク髪もへにゃりと萎れており、表情も暗い。いつも明るいからこういう姿は初めて見る。
「大丈夫ですよ。こなこさんのいいところたくさん知ってますから」
「……はぁ……」
「あんな奴の言うこと真に受けるな。なあ、雫莉くん?」
「え、ええ! そうですよ!」
黒咲さんも励ましたのだが、こなこちゃんはため息を漏らしたままだった。
「大丈夫だ、ワタシたちには雫莉くんがついてる。だろ?」
「ボクが……? どういうことですか?」
黒咲さんが期待の眼差しを向けてくる。ボクはついさっきメイドさんになったばかり。彼女の期待に応えられる自信なんて微塵もない。
しかし、黒咲さんの熱い眼差しは変わることがない。このときは、この人の考えてることがよく分からなかった。
「あの……それってどういう……」
「直に分かるさ」
「……?」
投稿遅くなってしまいすいません……予定より遅れましたが、今回も読んでくださりありがとうございました。
短編の方ですが『欲求不満な元弱男のTS少女、人気キャラのコスプレして自撮してたら大手同人サークルの売り子にスカウトされました。』というタイトルで公開予定です。
投稿しましたらここでも告知しますので、どうかよろしくお願いします。




