最終話
拘留期間中も変わらず事情聴取が行われる。剣太は一度だけ簡易鑑定も受けたが、それ以外の空き時間は小説を読むなど、趣味の時間に没頭していた。ある意味で生活は充実していた。
取り調べを担当した刑事から、ヤマグチの実家が事件現場近くにあり、殺害された佐藤夫婦と兄の佐藤仙太と家族ぐるみで仲良くしていたこと、そして夫婦と兄が剣太と血縁関係にあることを知っていたということを聞かされた。
「ヤマグチ君のことを恨むのか?」
「いえ。僕はヤマグチのことを恨めないです。いつ性格が変わるか分からない僕を嫌がらずに、一番に友達になってくれて、仲良くしてくれたから」
「そうか」
「僕が被疑者であることを通報したのがヤマグチだって聞いて正直驚きましたけど、でも任意同行なしに、そのまま逮捕されるよりは良かったのかもしれないです。多分そのまま逮捕されてたら、僕は佐藤刑事から五つのことを教えられることも、真実を知ることもできなかったでしょうからね」
「佐藤からはどんなことを訊いたんだ?」
「それは・・・、今は言えません。話すときがきたらちゃんと話しますよ。僕の不思議な五日間について」
*
「もしもし? 仙太くん。俺です、ヤマグチです。あの、今お時間ありますか? 実は俺、北区で起きた殺人事件の犯人を知っているんです。野中剣太という人物です。今、北区の駅前にある商業施設に野中と一緒にいて、これから帰ることになっているので、来ていただけませんか?」
「どうしてもここで連行して欲しいんです。何でかって? それは、ここなら人目に付くし、いっつも有名人になりたいとか、人気者になりたいって言ってるから、今日ぐらいその夢を叶えさせてやりたいって思って。警察が来れば何事かとスマホで撮影する人とかいるじゃないですか。仙太君、誤解しないでくださいよ。俺は仙太君のことを便利屋だなんて思ってませんから。今回のお礼は今度高く返しますから。お願いしますよ。」
「どこにって・・・、えっと駅のほうに繋がっている出入口に向かってます。近くに自転車を停めているので。はい。あ、服装ですか? 高校の紺色の制服で、ジャケットの下に赤いフード付きのパーカを着てます。それで、リュックは鮮血ぐらい真っ赤です。俺も同じ服装で、リュックが蛍光の黄色なので、他のお客さんよりは目立ってると思います」
「あと仙太君にお願いがあるんですけど、通報したのが俺だってことバレるのが嫌なので、匿名で通報があったと言ってください。でも、野中が逮捕されたら伝えてもらって構いません。どうしてかって? 決まってるじゃないですか。だって、俺もその事件に加担してるんですから」