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第3夜

 今日も取調室で事情聴取を受けた。でも、訊いてくるのは佐藤さんでも橋本さんでもない。また別の男性だった。年齢は五十代といったところだろうか。頬に深い皺が刻まれている。人以外でも昨日と変わったことがある。それは、当分の間、両親が待つ家には帰れず、学校にも通えなくなること。


 十一月二十日、十五時三十七分、僕の手首に手錠がかけられた。


「野中剣太。お前を殺人の罪で逮捕する。なんで手錠かけられたのか、言わなくても分かるよな?」


男性は渋い声で僕に訊く。剣太は毅然たる態度を取る。


「分からないです。でも、きっと僕が北区のサトウ夫婦殺人事件の犯人・・・、だってことですよね?」

「どうして疑問形なんだ」

「だって、本当に僕はやってないんですから」

「じゃあ、これを見てもそう言えるのか?」


 剣太の目の前に置かれた一台の黒いノートパソコン。画面に映るのは、どうやら街灯に取り付けられた防犯カメラ映像のようで、画面左下には白っぽい色の字で何月何日何時何分何秒と表示されている。ただ、街灯が照らす範囲では画面に映る家屋以外、民家のようなものは見えない。人並み外れたところに建つ家なのだろう。家の裏には鬱蒼とした森が広がっているようだった。


一面が真っ暗の中で突然点灯したライト。ライトは恐らく人感センサーのもので、そのすぐ下にはフード付きのトップスにダボダボのズボンを履いている人が立っていた。背と体格からして、男であることはすぐに分かる。その男は手に白色の手袋をはめていて、左手にはバールのようなものを握っている。ただ、フードを被っているせいで、男の髪型や顔は全く分からない。


「この映像だけで、犯人が僕だって決めつけたんですか?」

「いいから、続きを見ろ」


僕は口を尖らせて、手首に手錠を付けたままパソコンの画面を注視し続ける。


 11/16 22:09:00 その男はライト近くの窓ガラスを、握っていたバールでかなり大胆に割り、土足のまま中へ入って行った。その数秒後に聞こえてきた男女の悲鳴。しかし、その悲鳴は十数秒の間に一切聞こえなくなった。22:13:02、再びライトが点灯。男が割った窓ガラスから出てきた。フードは目深に被られ、手袋も付けられたままだったが、バールは持っていない。22:15:32、ライトが消灯し、画面は暗い世界に包まれる。何事もなかったかのように、静寂な世界を取り戻した。


「最後まで見ましたけど、画面に映る人が僕だっていうのは分かりませんよね?」

「そうか?」

「じゃあどうしてこのカメラ映像から、映っている人が僕だって分かるんですか?」

「例えば、この男は左手にバールを持っている。君は左利きだよな?」

「確かに僕は左利きですけど、左利きは他にもいますよ」

「うん。君の言う通りだ。じゃあ、これはどうだ? 君はフードを被っているとき、顔を見られたくないのか、単なる癖なのか知らないが、頻りにフードを下に引っ張っている。しかも左側だけを」


剣太は空唾を飲み込む。


「任意同行の初日、君は制服のジャケットの下に赤色のパーカーを羽織っていた。そのパーカーのフードは、左側だけに特定の皺ができていて、少しだけ伸びていた。無意識のうちにやってしまうんだろうな。画面に映る男も、こうして何度もフードを下に引っ張っている。しかも、左手でね」


口の中から水分が奪われていく。


「ここ三日間、別々の陣営で事情聴取させてもらったが、君の発言は一貫していた。でもな、一つだけ、三日間ともに違うことを話していることがあった」

「そうですか?」

「そのことに関しては、明日また詳しく訊くとするよ」

「そうですか」


 五十代ぐらいの男性が立ち上がり、扉を開けて外に出る。それと入れ替わる形で中に入ってきた男性。それは、眼鏡を着用した佐藤さんだった。


「今日もニュースを届けにきた」

「逮捕されても、教えてくれるんですね」

「当たり前だ。約束したからな」


椅子に凭れかかると、金属音が擦れた不快な音が耳に響く。


「十一月二十日。今日もグッドニュースだ」

「何ですか?」

「君には、実は幼いころに生き別れた八つ上の兄がいるんだ」

「え、僕に?」

「あ、でも名前とかどこに住んでいるとか、そういった情報はまだ言わないからな」

「え、どうして」

「安心しろ。明日教えてやるから。楽しみにしてるんだな」


佐藤が立ち上がると同時に椅子が軋んだ椅子。


「それじゃあ、今日はこっちに来てもらうから」


 剣太は手錠をかけられたまま紐を巻き付けられ、昨日まで通っていた廊下とは明らか違う、もっと薄暗い雰囲気が漂う通路を歩かされた。この先にあるのは留置所だということを剣太は知っている。またここに入らされるのか。でも、絶対に脱出して家に帰ってやる。


 今から四十八時間が勝負だ。

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