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第1夜ー2

 警察署へは、商業施設を出て十分ほどで到着した。パトカーを降りてすぐに通された一室。蛍光灯が二本だけ灯っている、薄暗い四畳半ほどの狭い取り調べ室だった。


「そこに座りなさい」


 剣太に声を掛けてきて以来、ずっとついてくる男性刑事に言われ、僕は錆だらけのパイプ椅子に腰を下ろす。少し動くだけでギシギシと音を立てる椅子。学校のパイプ椅子よりも使い古されている感じがすごく、座り心地も悪い。


「あの、僕から一ついいですか?」

「何でしょう」

「任意同行に応じましたけど、どうして僕はここに連れて来られないといけなかったんですか?」


 男性は真新しい椅子にゆっくりと腰を掛けながら唸り続けた。そして、しばらくして「君は」と落ち着いた声で訊いてきた。


「僕の質問にまだ答えてないのに、理不尽だよ」


そう僕が言ったからか、男性刑事は少しばつの悪そうな顔をしつつも、口を開く。


「君は、今日を入れてあと五日で十八歳になるんだよね?」

「そうですけど」

「決まりだな」

「決まりって、どういうことですか?」

「十八歳の誕生日当日まで、一日一つずつ、計五つ。君に関するニュースを教えてあげるんだよ」


言っている意味が分からなかった。聞き返そうとしたけれど、剣太が喋る前に、先に話し始めてしまった。


「十一月十八日。今日はどちらかと言えばバッドニュースだな」


膝の関節が乾いた音を鳴らす。


「野中剣太には、野中マサオと野中メグミという両親がいるよね」

「はい」

「君は二人のことをどう思っている?」

「どう思うって・・・、そうですね、ここまで育ててもらってありがたいな、と」

「ふぅん」


顔を小刻みに上下させて頷く。訊いておいて話自体に興味を持っていない感じがした。


「何でそんな質問してきたんですか? と言うより、早くバッドニュースの内容、教えてください」

「いいけど、聞いてショックを受けるんじゃないよ?」


前置きされたことに対して、剣太は素直に「はい」と答える。


「バッドニュース、その内容はー」


生唾を飲み込む。耳の奥から音が聞こえた。


「野中マサオと野中メグミは、君の本当のご両親じゃない。ということだ」


 そう伝えられた瞬間、何となく腑に落ちたというか、今まで不可思議に感じていたことに、最果ての地が見えた思いだった。でも不思議と怒りや哀しみといった負の感情は湧いてこない。それなのに、アイツが顔を覗かせたことにより、剣太は剣太じゃなくなった。


「お前、俺様に向かってふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

「落ち着きなさい」

「んなこと言われて、落ち着けるわけないだろ!」


その場に居合わせた大柄な男に両手を押さえられ、そのまま床に倒された。男の力は強く、大人な俺でも抵抗できない。


「離せ! 俺様に気安く触ってんじゃねぇぞ!」

「離したら暴れるに決まってるだろ? それに、その口の利き方は何だ。警察に向かってー」

「まぁまぁ、オオトモさん一旦落ち着いてくださいよ。すいません、僕の言い方のせいで」

「いや、サトウは悪くない。悪いのは野中でー」

「オオトモさんが謝る必要はないですよ。これは僕の問題でー」


 大人二人のやり取りは雑音でしかない。だから大声で叫んだ。その瞬間に睨みつけてきた体格が良い冷徹な目の男。高い位置から、奴は白い歯を見せて笑ってきやがった。


火ぶたが切られた。これから俺と男の五日間が始まる。

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