『もしもし、わたくし婚約破棄された公爵令嬢ですが』 ~異世界トラブル電話相談室の日常~
……ジャンル、コメディの方が正しかったりする?(投稿後12時間経過しての気付き
※さすがに異世界恋愛ではねぇな、ってなったので、コメディーに変更しました。
→ジャンル迷子で悩んだ末に、異世界転移アリのローファン、ということに。
――プルルルルルルルルル……ガチャ。
「はい、こちら異世界トラブル電話相談室です」
『もしもし、わたくし婚約破棄された公爵令嬢ですが……』
「婚約破棄のトラブルですね。少々お待ちください、ただいま担当の者に繋ぎますので」
ここは異世界のどこかにある、少し変わった電話相談室。
トラブルの相談なら何でも対応すると現在、巷で噂になっているものだった。開設から間もなく、幅広い守備範囲で好評を得ている。今日も今日とて朝一番にかかってきたのは、近年増加傾向にある『婚約破棄』についての相談だった。
受付は相談者の言葉を聞いてすぐ、担当の者に電話を引き継がせる。
「お電話代わりました。えー……婚約破棄をされた、とのご用件ですね?」
『えぇ、そうです。わたくし、突然のことでどうしたら良いか……』
「心中お察し致します。ですが、大丈夫ですよ。私どもが一緒になって解決策を考えますので、どうか深呼吸をして気持ちを楽にお話しください」
『分かりました。それでは、何からお話すればよろしいかしら?』
電話越しにも、その公爵令嬢は緊張しているのが分かった。
そのため担当者は、一つ間を置いてから優しく声をかけるのだ。
「いえいえ、決まりはございません。ただご令嬢様の話しやすいように、少しずつで構いません」
『そ、そうですのね。では、そうですね……』
すると令嬢も安心したのか、浅かった呼吸も落ち着いたものに変わる。
そして、しばし考えてから話し始めた。
『それではまず、元婚約者の方から言われたことについてお話します』
◆
「アリシア! キミは今まで、僕を騙していたのだな!!」
「なにを仰るのですか、ルーク様!?」
それは、つい先日のこと。
公爵家令嬢のアリシアは王城に呼び出され、婚約者である第三王子ルークから婚約破棄を言い渡された。彼曰く『騙していた』とのことだったが、もちろん彼女には何も覚えがない。慌ててそう返すものの、ルークは興奮した口調になり続けるのだ。
「すべて、ナターシャから聞いたぞ。お前はずっと陰で、僕のことを馬鹿にしていたのだろう! そして、それに反発したナターシャを精神的に追い詰めていた!」
「な、なんの話をしているのですか!?」
「しらばっくれるな!!」
やはり、まったく身に覚えがない。
そのためアリシアが弁明しようと試みるも、王子はその機会すら与えなかった。そして聞く耳を持たないまま、問題の言葉を口にするのだ。
「キミとの婚約は破棄させてもらう! そして、僕はナターシャを妻とする!!」
アリシアは無理矢理に王城から突き出される。
そして後日、異世界トラブル電話相談室について知ったのだという。
◆
「なるほど……ちなみに、そのナターシャさん、というのは?」
『ええと。わたくしとルーク様の、幼馴染みです』
「ふむふむ。そうですか……」
担当者の質問に、アリシアはよどみなく答えた。
どうやら、彼女自身もナターシャに対して一定の好感を持っている様子。幼馴染みということもあれば、互いに対する信頼感があるのも頷けた。
だが今回の一件について、担当者にはどうも気になる部分があったらしい。
「その後、ナターシャさんとはお話しましたか?」
『い、いえ……それが、どうも避けられているようでして……』
「なるほど。そうなってきますと、少し不可解なように思われますね」
アリシアの答えを聞いて、担当者はさらに続けた。
「まず前提の確認ですが、アリシア様は潔白で間違いないでしょうか」
『も、もちろんです! わたくしは、そのようなこと……!』
「あぁ、申し訳ございません。ご安心ください。私たちはもちろん、ご相談者様の味方ですので」
『…………そう、ですか』
「ですので、その上での対応について御提案いたします」
『提案、ですか……?』
そして、不思議そうな令嬢にこう告げる。
「私と致しましては、アリシア様の周辺環境について探ってみるのが得策と思っております。特に幼馴染みのナターシャ様の最近の動向にかんして、細やかに調べ上げるべきかと」
『ナターシャの、動向……ですか?』
「えぇ、そうです。大変に心苦しいのですが、婚約破棄のトラブルに多いのが『友人や近親者による裏切り』でございますから」
『………………』
担当者の思わぬ言葉に、アリシアは黙り込んでしまった。
これはあくまで可能性や経験則による提案だが、当事者にとっては信じ難い場合が多い。しかし相談室局員としては、ここで引くわけにはいかない。
担当者はあえて強い口調で、こう進言した。
「婚約破棄をされた方のその後として、最悪の場合は処刑という実例もございます。また日数が経過するごとに、証拠などを隠蔽される可能性も増加します。そのためアリシア様には酷かもしれませんが、心を鬼にして事に当たることをおススメ致します」――と。
実例として、婚約破棄された者の末路は悲惨な場合が多かった。
そのため相談者が尻込みするのであれば、背中を押して対応を求めるのが相談員の役割である。だがこれは、あくまで提案ベースであることを忘れてはいけなかった。
最後に決断するのは、あくまで相談者。
担当者からは、これ以上の言葉は投げられなかった。
『そう、ですね……』
しばしの沈黙があって。
緊張感漂う中、相談者の令嬢アリシアは重い口を開く。そして、
『分かりました。ナターシャのことを探ってみます』
どこか、覚悟を決めたように言うのだった。
それを聞いた担当者は安堵し、一つ聞こえないように息をつく。
『ありがとうございます。口にして決断したら、今まで悩んでいたことが少し馬鹿みたいに感じてきました』
「いえいえ。こちらこそ、勇気を持ってご相談いただき感謝いたします」
『いえ、本当にありがとうございます。ではまた、結果をご報告いたしますね』
「はい、お待ちしております。それでは、また」
そこで通話が切れて、担当者は大きく息をつきながら受話器を置いた。
結果はどうなるか分からないが、最低限の後押しはできたはず。
そう考えて、手元にあった飲み物を口にした。
「お疲れさまです、先輩。……また婚約破棄ですか?」
「あぁ、お疲れ。そうだね、最近どうにも増えてるから」
すると、そんな担当者に声をかける後輩が現れる。
彼は苦笑しつつ、自分の席に腰かけた。
そして、間もなく――。
「『追放された』という相談者様から、お電話です! よろしくお願いします!」
「……っと、今度は自分ですか」
その後輩に、相談が回ってきたらしい。
彼は一つ咳払いをしてから、自身の前にある電話を手に取るのだった。
◆
――電話相談から数日後。
王城では第三王子ルークが、父である国王に呼び出されていた。
「そ、そんな……! どうして僕が、王位継承権を剥奪されるのですか!?」
「言うまでもなかろう。お前は周囲を唆し、王国にとって不利益をもたらしたナターシャという女と婚姻を結んでいるのだからな」
「ナ、ナターシャが……!?」
そして、衝撃の事実を告げられる。
国王曰くナターシャは敵国スパイの娘であり、情報を売り渡していたとのことだった。その情報の出処の多くには、当然ルークの口から出たものも含まれている。
では何故、そのようなことが判明したのか。
その裏にはアリシアの活躍があった。
彼女は電話相談を受けた後に、ナターシャの素性や過去の行動を調べ上げたのだ。するとその結果、飛び出してきたのは信じられない事実だったわけで……。
「まったく、この馬鹿息子が。大人しくアリシアと婚姻を結べばよかったものを」
国王はルークに侮蔑の眼差しを向けながら、そう口にする。
そして冷淡に、彼を王城から突き出すのだった。
◆
そして、月日は流れて。
アリシアは新たに婚約した青年と、最高の幸せを迎えていた。
「これもすべて、あの日の電話相談のお陰ですね」
「どうしたんだい? アリシア」
「いいえ。なんでも……」
彼女が相手に選んだのは、ナターシャの情報を一緒に探ってくれた男性。
庶民出身の彼ではあったが、その優秀さからゆくゆくは王国を支える立場になるだろうと言われていた。そんな彼と共に、公爵家令嬢は日々を歩む。
――異世界トラブル電話相談室。
そこには今日も、様々なお悩みが舞い込んでいる……。
※こちら「https://ncode.syosetu.com/n6221ik/」で、連載?版を始めました。
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