【永遠・Eternity】おかえり俺の白猫 6
「お……俺は…………、君と……麗とずっと一緒に……いたい! 一緒にいて欲しい!」
「よ――し! 有人さんのお願い、きいたよ!」
麗は、ベッド脇のワゴンの引き出しをガラッと開けると、中から一本のアンプルを取り出し、封を威勢良くパキッと折った。
そして、細いアンプル用のストローを差し込んだ。
「え? なに? お願いってナニ? いきなりそんなの出してどうしたの? ねえ、麗」
「もう有人さんを悲しませないからね!」
そう言って、麗はアンプルの中の液体を、
『じゅるるるるるるる――――――っ』
と、一気に飲んだ。
「…………はい?」
(飲むと悲しくならないドリンク? なら俺が飲むんじゃ? 意味がわからない……)
「くーーっ! んまい! なにコレ! もう一本!」
「……なにソレ?」
「あーおいしかった!」
麗は、空のアンプルをぷらぷらと振りながら、ドアの方に向かって言った。そして、満面の笑みでダブルピース。
「ん?????」
有人はイヤな予感がした。ぐるっと振り向くと、ドアの隙間から兄の怜央が覗き込んでいる。
ぐっと親指を立てて、麗にサインを送っていた。
「お、おま! 兄貴! テメエ麗に何を飲ませたんだ! 言ってみろ!」
有人は、椅子をひっくり返しつつ勢いよく立ち上がると、戸口でニヤニヤしている兄の前に駆け寄った。
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」不気味に笑う怜央。
すんでの所でドアをピシャッと閉めると、怜央は全速力で廊下を駆けて逃げていった。
「ったくもう……あんのクソ兄貴め……」
有人は頭をぽりぽりと掻きながら、床に転がした椅子を直して座った。
また、ぎしりと軋む。
よく見ると、椅子はかなり錆びていた。
「二人で何企んでたんだよ。それ、中身なに」
不機嫌そうに言う有人。
「たしか……ネクタルとか言ってたっけ、お兄さん」
(あ……ああ、ああああああああああああああああ、あの野郎!)
ネクタルとは神の飲み物である。
人がそれを口にすれば、神族へと転化してしまうのだ。
「ハメやがったな! あのド腐れインテリメガネめが! うーちゃん、すぐゲーしなさい! のんじゃだめ! それ吐いて! すぐ吐いて! 神サマになっちゃうからダメ!」
有人が麗をつかまえてネクタルを吐かせようとすると、麗はすかさず布団にもぐりこみ、ぐるぐると体を巻き込んだ。
「ヤダーヤダヤダヤダヤダ! もう決めちゃったんだから! あはははっ、これで神サマになって、有人さんと一生一緒にいてやるんだから――っ、あははははははっ」
おでんの具のように布団から足だけはみ出させ、足先をパタパタする麗。
「こら、出てきなさい! ああもう! 二人して俺をハメて! クソッタレめ!」
「いいじゃん、結果オーライだよ!」
「なにがだよっ」
「お兄さんも私も有人さんの泣き顔なんか見たくないんだから! この愛され小僧め!」
「そうだぞ。もう兄に心配かけさせんじゃないぞ、有人」
ガラっとドアを開けて怜央が首だけ突っ込んで言った。
「何でまた来るんだよ! ふざけんなよ兄貴! 心配されてるなんて聞いてないぞ!」
「貴様が気付かなかっただけだ、バカ者め。今度はもう手放すんじゃないぞ」
と言うと、再び怜央はピシャっとドアを閉めて走り去っていった。
「クソ兄貴め……」
ぶすっとしたまま兄を見送ると、背後から麗が首に抱きついてきた。
「わたし、思い出せるかな……」
「何を?」
「いままでの、わたしたちのこと」
「どうかな。……そんなの、どうでもいいじゃないか。これからずっと一緒なんだから」
有人は、麗を背中から一旦剥がすと、正面から彼女を抱きすくめた。
「うん……そっだよね」
「ああ。そうだよ。俺はもう、あの渡し守に遭うことはないんだ」
「渡し守?」
「あとでゆっくり話してやるよ。時間はいくらでもあるんだから……」
☆ ☆ ☆
『――俺は白猫を二度と手放さない』
自分は、白猫のために生きる猫、
永久の時間を亘る、名も無き猫。
そして白猫は、猫が寂しがらないように、共に生きることを選んだ。
(了)
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