【永遠・Eternity】おかえり俺の白猫 3
――いつのまに眠ってしまったのだろうか。
時計を見ると、あれから丸一日は経っていたようだが。
ここは……、恐らくクソ兄貴にテーザー銃で撃たれた後で運ばれた、院内の処置室だろう。
消毒薬の匂いが漂っている。カーテンの向こうで物音がするが……。
彼女は、麗はどこだ?
「あの……ちょっといいですか?」
神崎有人は、処置室の中にいた看護師に、カーテン越しに声をかけた。
麗の居場所を聞くと、同じ階にある病室だという。
彼女の手術が成功したと聞いて安心した有人は、早速逢いに行こうと起き上がった。
すると、あれほど気分が悪かったのに体調は万全に回復し、銃創や首筋や太股の刺し傷の痛みも全て消えている。
患部に手を当ててみると、全て包帯やガーゼが当てられていた。
「寝てる間、ご面倒をかけたみたいで……」
「よろしいのですよ有人様。お召し物は洗濯しておきました。ベッドの下にありますよ」
言われて覗き込んでみると、着ていた戦闘服がカゴの中に畳んで入っていた。
装備品を外してしまえば、無地の戦闘服はただの作業着と変わりはしない。
麗には作業服で通すしかないだろう。
神崎は患者服を脱ぎ、紺の戦闘服に着替えた。
創業者一族ゆえか、病院の職員はみな自分のことを様付けで呼ぶ。
それが何ともいえずこそばゆいというか恥ずかしいというか。
出来れば麗の前では、そんな風に呼ばれたくはない。
だって、彼女にどんな顔をすればいいか分からないから。
そう有人は思った。
看護師に水を一杯もらい気を落ち着けてから、有人は麗の元へ向かった。
部屋で、彼女の親と顔を合わせるのがひどく気まずい。
そりゃそうだろう。銃で脅しつけて娘をよこせと怒鳴ったのだから当然だ。
これまで色々ありすぎて、自分は頭がおかしくなっていたんだろう。
あんな目に遭えば自分でなくともおかしくなってる。
だが、どうしようもなかったのだ。
そもそも自分以外に、あんな曲芸飛行のような真似が出来るんだろうか?
自負でもなんでもなく単純にそう思う。
無論、出来ない方がいいに決まっている。
出来るから兄に余計な仕事を押しつけられるのだ。
もしかしたら、親会社のラボで瓶詰めになっている、軍事用サイボーグなんて悪趣味な奴らなら、余裕で出来るのかもしれない。
まさしく、あいつらの方こそ、自分よりずっとバケモノだろうが。
――クソッタレ。
うんざりするような思考が、ぐるぐると有人の頭を走り回る。まるで運動会だ。
廊下で職員たちに会う度に、うやうやしく頭を下げられて居心地の悪い思いをしながら、有人は麗のいる病室の前までやってきた。
微妙に緊張しながら、ドアをノックする。
初めて麗を見舞った時を思い出すが、今回はあんな嬉し恥ずかしなドキドキではない。
恋人の両親に結婚の許しを乞うよりも、さらに状況が悪い、マイナス発進である。出来るだけ事は荒立てたくはない。
だが……
様々な不安を抱えながら、有人はドアを少しだけ開け、中を覗き込んだ。
ところが室内には、麗以外誰もいなかった。
(なんだ、パパ上とママ上はお留守じゃないか~)
思いっきり拍子抜けした彼は、さらに頭をつっこんで中を覗ってみた。
(あ、麗……よかった。元気そうで……)
彼女の姿を病室に認めた有人は、嬉しさで涙ぐんだ。
ベッドの上の麗は、機械から伸びた何本ものコードで繋がれ、点滴も受けていたが、手術をしたばかりにも関わらず、起床してベッドの上で体を起こしていた。