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【拒絶】やっぱりラスボスはパパ 4

 両親が言われるまま画面を覗き込むと、そこにはつい昨日まで有人がいた小国のニュースが流れていた。


 独立したばかりのこの国を、反政府勢力のテロが襲い多数の死傷者が出たが、国防軍によって鎮圧された、という内容だった。



「弟は、この国を護っていたのです。私の(めい)でね」



 怜央は、麗の両親を相手に、プレゼンを開始した。

 弟を売り込むためのプレゼンを。



「じゃあ、この間急いで帰ったのは……この、テロリストの襲撃?」

 父親が訊いた。



「お察しの通りです。この国への国際支援を水面下で行っている日本政府の意向で、我がグループでは復興再建と、周辺の武装勢力から国民を守るための治安維持業務を一手に請け負っておりました」


 怜央は、極めて淡々と語り始めた。



「護る……ため」

 麗の母親がぽつりと言った。



「PMC、正確には現在PMSCsと呼ばれていますが、単純に戦争を請け負う会社、というわけではありません。

 あくまでも各国政府からの要請によって、正規軍だけではまかないきれない警備や補給など、軍の後衛部分をバックアップするのが、我々の業務です。

 本来であれば自衛隊を派遣するべき所なのですが、国内世論や外交上の問題などもあって、思うように動けない。そこで我々、民間会社を利用することになったのです」



 当たり障りなく、かつ、一般人に飲み込み易いよう、やれ警備だ、政府だ、支援だの要請だのと、あたかも戦争屋ではないのだと、怜央は易しくいい聞かせた。

 論理的思考の出来る人間なら、これで納得出来るはずだ。



「そうなんですか……政府の仕事、ですか」


 麗の父は視線を足元に落とした。

 自分の誤解で、娘の恋人を追い詰めてしまった罪悪感にかられていた。



 怜央は眼鏡の細いフレームを指でつい、と上げて話を続けた。



「あくまでも、私達は日本政府の代行者であり、決して積極的に戦争をしに行ったわけではないのです。

 無論、武装勢力は綺麗事で済む相手ではありませんので、必然的に荒事も発生してしまいます。弟は長年、私の代わりにこの荒事に携わってきました」



 怜央は、父親の手を取り、悲しげな目をしながら目の前の夫婦に対して切々と訴えた。「弟を泣く泣く戦場に送る兄」の心情を込めて。


 だが、有人が戦場に行くのは、あくまでも当人側の事情であって、わざわざ「行ってこい」と言った覚えは欠片もなかった。

 むしろ、自分の仕事の手伝いを嫌って、早々に子会社に出て行ってしまったくらいなのだから。

 それ故、有人には『GBI社副社長』と、『GSS社平社員』という二つの肩書きが存在しているのだ。



「私とて実の弟に汚れ仕事を押しつけることを、快く思っているわけではありません。しかし、大きな組織を動かしていく以上、どうしても信用の出来る人物にしか頼めないこともあるのです。

 弟は不平一つ言わず、私のために身を粉にして働いてくれています。だから、せめて兄として、私は、弟が命よりも大切にしている女性を救ってやりたい。たった一人の家族である、弟の幸せを、私は護ってやりたい。

 塩野義さん、どうか、娘さんの治療を我々が継続することを、許して頂きたいのです」



 弟に容赦なくスタンガンを撃つ冷血漢が、打って変わって、身内のために涙を流している。明らかに泣き落としだった。


 日頃、商売や交渉において『神技』を用いる怜央の演技は、まさに迫真だ。

 役者になったとしても、きっと名優として歴史に名を残すだろう。


「わかりました……こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いします」


 麗の父親は、怜央の熱演に感動し、治療続行を快諾した。

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