【拒絶】やっぱりラスボスはパパ 3
「うがぁぁぁっっ!」
神崎は絶叫し、床に倒れ、痙攣……そして、動かなくなった。
ツカツカと靴音を響かせながら誰かが廊下の向こうから近づいてきたが、逆光でシルエットしか見えない。
手には小さな保冷ケースと、もう片方の手にはテーザー銃――射出型スタンガン――を持っていた。
その先から放たれたワイヤーが、神崎の体に打ち込まれている。
テーザー銃から強い電流を流し込まれた神崎は、痙攣を起こして倒れてしまった。
神崎を撃った男は、長身痩躯を白衣に包み、細いメタルフレームの眼鏡をかけていた。
レンズの奥にある細い切れ長の目には、昏く鋭い光が宿り、腰まである長い髪は首の後で束ねられ、動く度に左右にゆらゆらと揺れていた。
倒れて動かなくなった神崎を一瞥すると、
「フン、この程度で動けなくなるとは嘆かわしい――」
と吐き捨て、気絶して床に転がっている神崎を軽く蹴転がして仰向けにした。
「この『愚弟』めが」
「理事長! お待ちしておりました」
メガネの職員が駆け寄って保冷ケースを受け取り、手術室に入っていった。
つい、と指で眼鏡を上げ
「この私が、手ずから作った『生体パーツ』だからな。間違いなどあり得ない」
と言ってフン、と鼻を鳴らした。
「にしても……」
床で寝ている神崎の頭を、つま先で軽く小突き、大きくため息をついた。
(全く、到着早々この面倒事の山は何だ。私が始末をつけねばならんのか……)
「この……能なし役立たずの愚弟め。あの国での不手際はこの際不問に付してやるが……。――おい、ストレッチャーを持ってこい。このバカを片付けろ」
理事長と呼ばれた男の命で、背の高い職員が廊下の奥に駆けていった。
手術室の前には、麗の両親とこの長髪の男、そして床の上の神崎が残された。
「愚弟……と言われましたが、貴方は?」
目の前でいっぺんに色んな事が発生して、麗の父親は事態に理解がついていかず、すっかりおとなしくなっていた。
「これはご挨拶が遅れました」
男は、麗の両親にうやうやしく礼をした。
「私は、この病院の理事長と、GBI社代表取締役社長兼、最高経営責任者を勤めております、神崎怜央と申します。――そこに無様に転がっている、神崎有人の兄です」
麗の両親は目を丸くして、とんでもないビッグネームの登場に固まっていた。
「あ……こ、この度は、む、娘がお世話になり、ありがとうございます」
父親はガチガチになってすっかり萎縮している。
怜央は伊達眼鏡の向こうから静かに観察していた。
(この男は肩書きで圧倒される一般的な市民のようだな。さっきまで怒りに我を忘れていたのに、もうおとなしくなっているとは……)
有人はストレッチャーに乗せられ、ガラガラと処置室に連れて行かれた。
「少々、愚弟の件で誤解があるようなのですが、私からご説明をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
怜央はそう言うと、懐からスマホを取り出した。ついつい、と白い指先で操作をして、画面を麗の両親に向ける。
「どうぞ、こちらをご覧下さい」