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【拒絶】やっぱりラスボスはパパ 2

 麗の父親が、廊下の窓の外を指さした。


「もしかして、君はあれに乗って来たのか?」



 彼の示す先には、病院のヘリポートがあった。

 そして、神崎の乗ってきた機体もそのままだった。

 どこからどう見てもそれは、金持ちの私物ではなく軍用機にしか見えない。



 麗の父は、侮蔑の混ざった冷ややかな眼差しを、無遠慮に目の前の男に投げた。

 神崎は、唇を噛んで俯くことしか出来なかった。



「中東にいたと言ってたが……、君は、GBI社の人間ではない」


「!」



 神崎は、はっと顔を上げた。背筋を戦慄が走った。



「やはりそうなんだな。この間君の迎えのヘリが来た後、気になって色々と調べさせてもらったよ」



 そう言う父親の目は、目の前の疲れ果てた戦神を侮蔑しきっていた。


(……これは、ああいう時の目だ。そう、バケモノを見る目だ)


 神崎は反射的に、大量の悲しみと苦しさがフラッシュバックし、息が苦しくなった。



「何を……ですか」


「民間軍事会社、GSS社についてだ。その過程で、私はおかしなものを見つけた」


「おかしな、とは」


「戦場ジャーナリストのインタビュー記事に写った、あるコントラクターの写真だ。そう、中東のあるテロ活動の頻発した場所で、今みたいに武装していた――君の写真を」


「っ………………」



 現在の彼は、ほぼ丸腰とはいえ昨日の敵本拠地潜入の際に着ていた、紺の特殊部隊用装備を身に纏ったままだった。


 所々汚れたり、血糊や硝煙の匂いが付いている。


 どうがんばっても言い逃れが出来なかった。



「何なの? その民間なんとかって」

 麗の母親が自分の夫に尋ねた。


「金で戦争を請け負う企業さ。こいつはコントラクター、所謂(いわゆる)傭兵――血で汚れた人殺しなんだ」


 麗の父は、神崎に死刑宣告をするかのように、そう吐き捨てた。


「失礼ですが、有人様は――」

 見かねた背の高い職員が、口を挟んできた。


 神崎はそれを手で制し、

「やめろ。何を言ったって、言い訳にしかならん」と、苦々しく言った。


「ですが……」

 何かを言いたそうにしながら職員は引き下がった。


「転院の件は感謝している。しかし麗には、これ以上ここで治療を受けさせるわけにはいかない。手術が終わったら、元の病院に連れて帰る」


「ちょっとまて、麗を殺す気か! ふざけるな!」

 神崎が激高した。瞳が紅く染まる。


「何人もの人間を手にかけてきた君に、言われる筋合いはない」


「塩野義さん、考え直してください。それではお嬢さんが亡くなってしまう」



 メガネの職員も父親の説得に回った。

 誰がどう考えても、正気の沙汰ではなかった。



「俺は、人間風情に何と言われてもいい。しかし、麗を殺そうというのなら話は別だ」


 神崎はそう言って、血の色に光る双眸で麗の父を睨め付け、さらに言葉を続けた。


「どんな金でも金は金だ。貴様は自分の下らない見栄や世間体や主義主張のために、娘を見殺しにするというのか? それこそ貴様のエゴだ!」


 そう叫んで、父親を指さした。



「うるさい! 麗は俺の娘だ! どうしようと俺の勝手だ!」

 と、半狂乱で叫ぶ父親。


「あなたやめて。落ち着いて、ね?」



 見かねた麗の母親が制止しようとするが、父親にはね飛ばされ、背の高い職員に抱きとめられた。



「麗は俺のものだ! 貴様なんかに殺されてたまるか! 本気で連れて帰る気なら、今ここで殺してやる!」



 神崎は腰のベレッタPx4を抜き、父親に真っ直ぐ銃口を向けた。

 ひっ、と小さく悲鳴を上げ、父親は一歩後ずさった。



「有人様、落ち着いてください! どうか銃を収めてください」

 メガネが制止する。


「ど、どうせ威嚇だろう? ここは日本だからな」

 そう言う父親の足は震えている。



 次の瞬間すぐ後の壁に一撃、弾丸が打ち込まれた。

 無機質な病院の廊下に銃声が響く。



「選べ。大人しく麗を治療させるか、ここで俺に頭を射抜かれるか!」

 神崎は父親の額に銃口を突きつけた。


「お、俺を、殺す気か」

 半ば悲鳴のように、裏返った声で神崎に噛みついた。


「俺は本気だ。――あんたのよく知っている『コントラクター』、なのだからな」


「麗を……人殺しなんかに……渡してたまるか」



 震える声で抵抗の意を告げる父親。


 哀しみと絶望で、猛っていた神崎の心が黒く沈んでいく。



 ――なんで、こんなことになったんだ。俺はただ、麗を救いたいだけなのに――

 ――人間なんか、クソッタレだ――



(麗は、貴様のモノじゃない。俺のモノなのに……)


 神崎の表情は、悔しさと悲しさでひどくゆがんでいた。



(お前が不甲斐ないから、麗がこんなに苦しんできたというのに……)


 殺意の失せた神崎が、父親の額から銃を下ろそうとした、その時――



『バシュッッ!』


 廊下の向こうで何かが破裂したような、大きな音が響いた。

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