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【完結】~戦神はネトゲ彼女に恋してもいいですか?~ 銃を手に、君を待つ俺  作者: 東雲飛鶴
第四章 イージス

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【4・二つ名はイージス】全ては帰国のため 9

 一路日本までは、約八時間の長旅だ。燃料タンクを満タンにしていても、途中四度の給油が必要になる。


 神崎青年の駆る機体は、日出づる国に向かってひたすら飛んでいく。



 

     ☆ ☆ ☆




 最後の給油を終え、いよいよ日本の領海に入ったところで異変が起こった。


(どういうことだ? 手配が間に合っていない? 最悪堕とされることはあるまいが)



 事前に本社から防衛庁への連絡を依頼していたはずが、スクランブル発進してきた空自の戦闘機に囲まれてしまった。


 先ほどから識別信号も出しているし、所属や帰国の用向きなども説明しているのだが、出て行け、もしくはすぐ着陸しろだとか、話が全くの平行線を辿っている。



「さっきから何度も言ってるが、俺はGSS社所属の神崎有人だ。会社から防空司令部に連絡が行っているはずだ。確認してくれ!」


『そのような連絡はない。速やかに指示に従え。さもなければ、撃墜する』


(――撃墜?)


「どういうことだ。自衛隊は威嚇しかしないんじゃなかったのか?」


『つい最近法改正されたのだ。悪く思うなよ、未確認機(アンノウン)



 そう言い終わらぬうちに、コクピットのディスプレイに警報が表示され、神崎の機体は自衛隊機にロックオンされた。



「ちょっと待ってくれ! 俺は死にそうな恋人に会いにいくだけなんだ。害意はこれっぽっちもない。頼む、黙って通してくれ!」



 ――来る!


 殺気を感じた彼は、チャフをまき散らしつつ機体を翻し、雲の中にダイブした。


(奴ら、本気(マジ)かよ!)


 追っ手を撹乱しながら、彼は会社の回線に向かって必死に呼びかけた。



「おい、どうなってんだ! 本社聞こえるか! ナシついてんじゃないのかよ! このままじゃ俺撃墜されちゃうよ、なんとかしろ!」


『既に連絡してあるが、途中で指示が引っかかっているらしい。もう暫く善処してくれ』


「善処ってオイ、限度あるっての」



 そうこうしているうちに神崎の機体は雲海を抜け、本州上空に差し掛かった。

 再び自衛隊機から複数の追尾ミサイルが神崎の機体目がけて放たれた。


(な、ここで撃つかよ! このクソッタレ共め!)


 再びチャフを撒き散らしミサイルを躱す。自衛隊機を叩き落とす方が何倍も楽だ。



「バカヤロウ下を見ろ! 国民を殺す気か! 貴様らは、どこに向けて撃ってるんだ? 俺がここで墜ちたら街は大惨事だ!」


『うッ……』


 自衛隊機に狼狽(うろた)える空気が漂った。


「黙って通してくれ! ……さもないと、俺はお前等全員、撃ち落とさねばならない」



 張り詰めた空気の中、聞き覚えのある声が無線から聞こえた。



『こちら、横田防空司令部、幕僚の八巻だ。君は本当に神崎有人さんなのか?』


「久しぶりだな八巻さん。あれから禁酒は続いているか?」


『本物のようだな。先ほどGSS本社より連絡があった。こちらの不手際で通達が遅くなり、大変申し訳ない。

 機体の認識番号も確認した。そのまま神奈川方面に進入されたい』


「了解。恩に着る、今度メシでも奢るよ」


『光栄だ、神崎教官』



 神崎を取り囲んでいた自衛隊機は、機体を翻して所属する基地へと帰っていった。


「待ってろよ……麗。もう目の前だ」




     ☆ ☆ ☆




 東京、横田基地内の航空自衛隊防空司令部では、異様な空気が流れていた。



「誰が撃墜命令なんか出したんだ? 危うく僚機が蜂の巣にされるところだったぞ!」



 濃紺の制服の胸に、何段もの略章を付けた初老の男が吠えた。



「相手はたった一機じゃないですか」

 隣にいる若い制服組の男が疑問を呈した。


「バカを言うな。誰が乗っていると思ってるんだ」


「え?」


「彼が本気なら、もうとっくに全員撃墜されて都心に侵入している……」


「はぁ……」


「我々のせいで、万一彼が身内の死に目に会えなかったら、ここにいる人間は皆殺しにされても文句は言えないぞ!」



 司令室内が『皆殺し』の単語にどよめいた。



「どういうこと……なんですか?」


「彼とGSS社を本気で敵に回したら、日本など一瞬で灰燼(かいじん)と化すだろう」



 顔を見合わせる自衛官たち。



「ところで、さっき彼の事を教官、って言ってましたね?」


「ああ、かつて彼は戦略インストラクターとして、自衛隊で教鞭を執ったことがある。私もその時学んだ一人だ。神崎教官は、世界各国の軍隊で佐官相手に指導しているのだ」


「一体……何者なんですか、この男は」


「私がこの世で一番敵に回したくない男だよ」




     ☆ ☆ ☆




 ――「猫」は、白猫とずっと一緒に生きていたかった。けれど、口にはしなかった。

 ――それは僕も同じだ。それが『いけないこと』だと思っていたから。



『でも、また白猫は、どこかへ行ってしまうのか?』


 そんな自分は、百万回求める猫、

 永久の時間を、足掻き続ける野良猫。

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