【4・二つ名はイージス】全ては帰国のため 7
隠密行動は得意とする所、マイケルの言う「マスター・ニンジャ」も伊達ではない。
指揮車の後部ハッチは半ば開かれ、内部から灯りが漏れている。
人の声はしないが、何故か動物の鳴き声のような音が聞こえる。
野生動物でも入り込んだのだろうか。
――騒動の首謀者を生け捕りにして白州に引き出さねば。
と、思いつつ神崎は、暗視ゴーグルを額に押し上げ、裸眼で車内を覗き込んだ。
中では甥御が焼き豚のようにロープでぐるぐる巻きにされて、床に横たわり眠っていた。
ガムテープで口を塞がれたまま、ムニャムニャ寝言を言っている。
全く呑気なものだ。
「なんだよ、こいつの寝言かよ。ったくもう」思わず呟いた。「さてと……間に合ったのはいいが、他の連中はどこだ?」
背後から気配がして神崎は振り返った。
その瞬間、周囲に叩きつけるように銃弾の雨が降った。
地面は抉られ、トレーラーのドアに幾つかの穴が穿たれた。
銃声に気付いた焼き豚男が芋虫のように床をのたうち回り、ふがふがと、くぐもった悲鳴を上げた。
銃声と共に神崎は横に飛び退いたが、避けきれず流れ弾が足をえぐる。
横目に見れば、銃弾は一丁のサブマシンガンからバラ撒かれていた。
――敵は一人だ。
神崎は暗い地面を転がり、小走りに移動しながらマズルフラッシュの瞬く方へと撃ち返す。
周囲ではグレッグの手によって火災が発生し、散発的に爆発音や銃声が響いていた。
(グレッグやマイケルは大丈夫そうだ。まだこっちの方に増援がやって来る気配はない)
一層大きくなった火災の明かりで、敵の正体が分かった。
――腰巾着の猫背男だ!
「やっぱお前か猫背野郎! バカと一緒に焼き豚にしてやる!」
「ひっ、何で貴様が!」
神崎が銃口を向けると、猫背男はそばに止まっていたトラックの荷台の陰から銃弾を撒き散らし始めた。が、すぐに弾が切れ、男は舌打ちして銃ごと投げ捨てた。
神崎は猫背男に向かって発砲したが、男は体を翻してトラックの運転席側へと走っていった。
「どこへいく!」
神崎は車体ごと撃ち抜かんと、サブマシンガンで横薙ぎに撃った。
運転席の窓ガラスが粉々に砕け散る。
と同時に、男は車の陰から転がり出て二丁拳銃で乱射しはじめた。
「あの男は渡さんぞ! 傭兵め!」男が叫んだ。
甥御には、まだ使い道があるのかと一瞬、疑問が神崎の脳裏を過ぎった。
そのスキをつき、男は奇声を上げながら必死の形相で神崎に突進してきた。
一発の銃弾がタクティカルスーツの隙間から神崎の肩に入り込む。
だが、神崎は倒れなかった。
「くたばるか! そんなもんでぇぇ!」
血煙を上げ、神崎は叫ぶ。
苦悶の表情を浮かべながら、神崎は反射的に背中からサーベルを鞘走らせた。
火災の光を受け、赤く輝く刀身は禍々しさを帯び、神崎の怒りを代弁していた。
彼は身を低くしながら駿足で駆け寄り、距離を詰め、サーベルを上へと振り上げた。
一斬目――
二丁の銃身が中程から断ち切られた。
ギラリと刀身が燃えさかる炎を反射させると、振り上げた刀身が男へと真っ直ぐ振り下ろされた。ぐきゃり、と鈍い音がする。
「うぎゃああああああああああああああああ――ッ」
猫背の男は肩口を押さえ、悲鳴を上げながら地面を転がり回っていた。
「峰打ちだ、安心しろ。まだ貴様を殺しはしない」
神崎のサーベルが、猫背男の鎖骨を打ち砕いたのだ。
そして、もう一撃。今度は男の足を砕いた。
「後で治療してもらえ」
と吐き捨てると、神崎はのたうち回る猫背男を拘束した。