【4・二つ名はイージス】全ては帰国のため 6
グレッグとマイケルの二人を加えた計三名の強襲部隊は、敵指揮車のある国境線付近までヘリで飛んだ。
そして敵前線基地の裏山に降下し、そこから徒歩で接近を開始した頃には、太陽は稜線の向こうに沈み、夜の帳が降りていた。
「マイクは、照明及びその他の障害を排除。グレッグは、速やかに敵電源施設を破壊。俺は真っ直ぐ指揮車両に向かう。電源が落ちれば奴らの行動は大幅に阻害出来る」
「おうよ!」
「了解です! 陽動は任せて下さい」
薄闇の中を進み、三人が前線基地に接近すると、田舎の武装勢力には不釣り合いな新鋭車両や武器が周囲に並んでいた。
神崎の売った真新しい兵器もあれば、違うメーカーの製品もあった。見る者が見れば、何処の国の製品かはすぐに分かる。
さきほど神崎たちに急襲されたせいで、彼等は待避先となったこの場所で宿営準備の真っ最中だった。
ほとんどの部隊は制圧済みだが、本隊にまだこれだけの武器があることは十分に脅威である、と神崎たちは感じた。
にわか仕込みの作戦では彼等を完全に叩くには程遠く、現実にはこれが限界だった。
それでも一切の国軍の支援もなしに、自分たちは十分に健闘したと神崎は思っていた。
「奴らには過ぎたオモチャだな……」
グレッグが双眼鏡で内部の様子を覗き込んでいる。明らかに本来関係のない白人も相当混じっており某大国のテコ入れの様子がうかがえた。
「ですねぇ」
と言うと、マイケルは照明器具の場所を銃のスコープで確認し始めた。
「手短な所からバンバン落としていきますから、派手にやっちゃってくださいよ」
神崎とグレッグの二人は不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「じゃ、二人とも頼んだぞ。とにかく時間が惜しい」
神崎はそう言いながら、サブマシンガンを抱えて一人指揮車両のある方向に向かって走っていった。
(もう少しだ……。待ってろよ、麗。すぐ帰るよ……)
神崎が走り出すと同時に、マイケルが手当たり次第に照明を狙撃し始めた。
灯りを失ったテロリスト達は、大騒ぎをしながら右往左往している。
あまりにも早く傭兵に見つかってしまった、その事が彼等に大きな恐怖を与えたのだ。
マイケルは微妙に移動しながら、次々と照明器具や車両を破壊していった。
その最中、神崎は夜陰に紛れてひたすら奥へと進んでいく。
別の場所から煙が上がっているのは、グレッグが暴れているせいだろう。
発電施設や大型車両からも火の手が出ている。
少人数での襲撃は、敵から発見されにくく破壊工作を行いやすい。
逆に襲われる側にとっては、これほど面倒な相手もいない。
一騎当千の彼等であれば、尚のことだ。ちらと後を振り返り、神崎は仲間たちのバックアップに心強さを覚えた。
(二人とも、ハデにやってくれてるな。頼むぞ……)
神崎は混乱に乗じ単身敵の指揮車に接近していった。
そこに甥御も黒幕もいるはずだ。
「あれか……」
積み上げられた木箱の陰から神崎が覗き込むと、暗視ゴーグル越しのその先には、トレーラー型の指揮車があった。
屋根には大型の衛星アンテナを備え、胴体に繋がれた幾本かの太い電源供給用ケーブルが、近くの電源車までの間を大蛇のようにのたくりながら繋いでいる。
周囲には頭に布を巻き付けた数名の兵士が、不安そうな顔でうろうろしていた。周囲の騒動に少なからず動揺している。
神崎はナイフを抜くと、彼等の背後から忍び寄った。
口を押さえて素早く物陰に引き摺り込み、喉を掻き切って静かに始末していく。
一人、また一人、と周囲にいた兵士を全て排除すると、神崎は音もなく指揮車に近づいた。